監視権力のセキュリティ・レベルが上昇していることは皆さんお気づきでしょう。


 監視権力というと、対象は治安だけを対象にしているように思われるので、ポリス・パワーと言った方が良いでしょうか。


 治安のみならず、福祉・食品の安全・入管・労働環境・公衆衛生などのあらゆる生活事象を取締る権力のことを政治学ではポリス・パワーと呼んでいるのですが、これが肥大化する傾向にある。


 食品だけをとっても、雪印や不二家の摘発、納豆の捏造報道など。それぞれには怒りを感じますが、あまりに不寛容な国民の風潮には少し異議を感じます。しかも、そういう衛生や環境の問題に消費者がやけに騒ぐのはいいが、それが逆に、企業が「ISOさえ取得しとけば良い企業に見えるだろ」という安易な態度決定に寄与してしまっている。


 ま、それくらいにしておこう。


 ともかくも、行政などの公的権力だけでなく、民間レベルでのポリス・パワー的取り締まりも増してきている点に注目です。





 ざっと思い出しただけでも、



・繁華街やコンビニ、高級マンションなどに設置される監視カメラ


・オービスだけでなく、高速道路の速度超過を入口と出口の時間から「推測」して取り締まるNシステム


・性犯罪者の住所公開の論議が出てきたこと


・ウェブサイトの暗号認証制度の重層化


・PTAなどによる街の安全取締り(大抵の場合が地元警察の許可を得ている)


・保護者たち主導の集団登校


・渋谷などで、未成年の家出や深夜徘徊を取り締まる自称「熱血先生」と、それを賛美するマスコミ


・CD・DVDなどのコピー・コントロール


・新宿などで路上喫煙者に注意するボランティアの警告員(去年、こっぴどく怒られた経験あり)


・車の内部にさりげなく取り付けられている運転データ計測器(中古で売るときにそのデータが使われている)


・通信傍受法の成立


・電車でよく流れる「不審者・不審物を発見されましたら、ただちに駅係員に・・・」のアナウンス


・ビルの警備員の実質「警察化」。間違えて私有地に入っただけで、奴らは飛び掛ってくる。大学の警備員も、最近ものすごくウルサイ。門の入り口で「おはようございます」などと礼儀はいいが、やってることは大学権力の犬以外の何者でもない。


 などなど。


 挙げた例の中には不適切な例もあったかもしれません。


 また、私もこれらのすべてが「完全に間違っている」と思っているわけではないことをご了解いただきたい。


 ただ全体的な傾向として、監視権力もしくはポリスパワーが拡大傾向にあり、また、それを許す雰囲気が社会全体に蔓延していることに、多少の違和感を感じているのです。


 


 そこでビックリしてしまったのが、ゲート・キーパー法です。


 いま、このゲート・キーパー法なるものが国会の審議に入ろうとしていると知り、ビックリしました。


 これは凄い法律ですよ。

 


 ゲート・キーパー法とは・・・・



 弁護士・公認会計士・行政書士などの約20の職業に就く者が、


 依頼人の資金繰りが法に抵触するかもしれないことに気付いたら、


 警察に報告しないといけないという義務規定


 を盛り込んだ法律のことです。



 日本ではまだ制定されていないので、したがって、まだ正式名称が決定されたわけではない。


 しかし、この法律の母国であるイギリスではゲート・キーパー法と名づけられています。


 この法律が、今週国会の審議に掛けられているそうなのです。


 日弁連はこれに反対していますが、もしかすると来週には成立するかもしれないです。


 ちなみに、マスコミにはこのゲート・キーパー法のことをまったく報じていません。


 この法案を通そうとしている警察庁が怖いのでしょうか。




 そもそも、このゲート・キーパー法は、テロ組織のマネーロンダリングを防止するための法律とのことでした。


 「なーんだ、俺、テロなんかしないから関係ないやー」と、そう皆さんも思うのではないでしょうか。


 しかし、蓋を開けてみたら、その内容がテロ活動なんて大それた話だけに限定されていないのです。(共謀罪の場合と同じ)


 

 たとえば、遺産相続でビル財産の分割をする際に、その遺族たちが弁護士を雇ったとします。


 しかし、そのビルのテナントに違法の風俗店だとか、ワシントン条約に違反する動物を売っているようなペット・ショップがテナントに入っていて、それを弁護士が気付いた場合、弁護士は警察に報告しないといけないのです。


 (違法行為を犯しているのはテナントの人であってビルのオーナーではない。しかし、その違法行為をしているテナントから家賃収益を得ているということで、ビルのオーナーも罰せられるのです。)


 税理士が、依頼人の会社が軽~い脱税をしていたとして、それに気付いた税理士は警察に報告しないといけない。


 

 さらに驚いてしまうのは、


 第一に、主観的な判断で良いということ。


 弁護士は、確信がなくても、「怪しいな」というだけで報告して良いのだ、ということ。


 

 第二に、報告しないと、「過失報告懈怠罪」に違反したことになり、弁護士資格や税理士資格を剥奪される。

 

 これは弁護士にとってはとてつもなく重い罰則なのではないでしょうか。


 

 第三に、警察に報告した弁護士は、その旨を依頼人に話してはいけないということ。


 弁護士は依頼人を騙す形で依頼人を警察に「売る」ことになるのです。


 そんなのでは弁護士と依頼人の間の信頼関係なんか生まれるはずもなくなるでしょう。


 いわゆる「守秘義務」は、このゲート・キーパー法の前では無力です。 


たとえば、ちょっぴり違法行為をして(もしくは。違法行為をしたかもしれないと思って)、その相談で弁護士のとこに行ったとします。


 そしたら、その違法行為を弁護士は私に黙って警察に報告するのです。


 もし、弁護士が勝手に話したことを私が知ったら、私ならその弁護士に復讐すると思います。


 ちなみに、イギリスではこの「復讐」を恐れて、弁護士が縮みあがっているらしい。


 たとえば、イギリスでは実際に弁護士の報告によって、依頼者は銀行口座を凍結され、その会社は倒産したらしい。


 その依頼人である会社オーナーは、裁判で弁護士を訴えたが、弁護士は「ゲート・キーパー法を守っただけだ」と主張し、弁護士側が勝訴したそうです。


 この会社オーナーの場合は、裁判に訴えたが、私だったら確実にこの弁護士に復讐を遂げようとすると思います。

 


 また同じくイギリスでは、警察への報告を怠った弁護士が、なんと一審で懲役15ヶ月の実刑判決(執行猶予なし)。


 二審では6ヶ月になったそうですが、あまりに重い実刑処分です。


 そんな危険な事態が起きているイギリスのゲート・キーパー法を、いま、日本でも導入しうようとしているのです。


 これはホワイトカラー・エグゼンプションどころの騒ぎではないですねー。


 この法律を通したがっているのは、法務省ではなく、警察庁です。


 法案の提出をしたのは警察庁でした。


 警察庁は何を考えているんですかね。


 よほどの馬鹿なのか。


 それとも、「自分たちは治安を守っているんだ」と勝手に思い上がっているのでしょうか。


 いずれにしても、あまりにヒドイぞ、ゲート・キーパー法。


 こりゃデモでもすっべかー。(逮捕はごめんだから、実際にはしないけど。笑)


 

 しかーし、実はこのゲート・キーパー(門番)的な役割を、銀行は既に実行しています。


 莫大なお金を取引している怪しい顧客。(貧しい服装してたりなど)


 海外との取引が多い顧客。


 これらの顧客のことを、銀行はすでに警察に密告しています。


 なんと国内で年間約10万件もの密告が行われているのだそうです。


 しかも、そのほとんどが冤罪。


 振り込め詐欺だとかを取り締まるのに銀行が協力(口座凍結など)するのは賛成です。


 しかし、勝手に密告されているのには腹が立ちますね。


 たとえば、私が宝くじで2億円を手に入れたとします。


 そのお金で、たとえば中東のどっかの国から絨毯を仕入れて日本で販売する輸入業をやることにしたとします。


 そこで、現地の仕入先に銀行から出・入金を繰り返したとする。しかも、なるべく汚らしい服装で銀行に行くのです。


 すると、突然ある日銀行口座が凍結される可能性が結構あるそうなのです。



 もしそうなって、その輸入業が倒産したりしたら、銀行を恨んでも恨みきれんでしょう。