メジャースポーツの球団経営を無形資産経営として,2回に渡り話題にしてきた.この問題は深く複雑で,一冊の本にできるくらいである.しかし,こうしている間にも,ブライアントが61点を取り,レブロンが52点のトリプルダブル(驚異的!),トーリーの本の出版と,メジャースポーツ界も休むことなく動いている.そのため,まずは本日で一端,まとめさせて頂き,「Part1」として終了することにしたい.

オーナーと選手組合間の労使協定書(CBA)の中に,サラリーキャップ制度を盛り込むことで,チーム力が均等化するかについては「YES」である.しかし,MLBのオーナー達や選手会が,本音として望んでいることではないと推察している.フランチャイズ制がしっかり引かれているMLB(日本のプロ野球のように,巨人が大阪ドーム,阪神が福岡ヤフードームでホームゲームをすることはありえない.)では,小さく投資して確実に儲ける球団と,大きく投資して大きく儲ける球団の2極化が進んでいる.ただ,大きく投資して大きく儲ける球団は,巨大マーケット(NYやボストン,LA,シカゴなどの都市)を有していなければならず,全てのチームが,出来るわけではない.そのため,スモールマーケットに所在する球団では,生え抜きのフランチャイズプレーヤー2~3人を良い契約内容でしっかり押さえて,その回りを若手やベテランで固め,常に地区優勝を狙えるチームにすることが肝心だ.これによって,ファンは,球団が経営に力を入れていることを認め,勝つ可能性のあるゲームを見に行く.勿論,地区にとっては苦しいところもある(アリーグ東地区)が,昨年,レイズが不可能ではないことを立証した.良い見本は,ミネソタだ.一時は,いらない球団として名前が上がり,フランチャイズ移動が決定的になりつつあったが,再生した.現在は,マウワー,モノ―(この2人は地元ミネソタとカナダ人選手であり,ツインズが気に入っていると言う.)の素晴らしい能力があるフランチャイズプレーヤーを軸に,ハンターやサンタナが抜けても,地区優勝争いに絡んでいる.球団経営は,見えない価値を醸成して,それを軸にファンを得て運営をすることが肝要だ.見えないけれども,ツインズとは「こんな感じ」,ヤンキースとは「こんな感じ」と言った,雰囲気が表に出せて,伝えることができるようになることが重要だ.そのためには,まず,フランチャイズプレーヤーを持つこと,優勝争いに常に絡むように努めること,そして見えない「こんな感じ=伝統」を有すること.この3つが大切である.目先のマーケティングテクニックよりも,まず,基本を有することが球団経営のスタート地点である.

なぜMLBだけにサラリーキャップがないのであろう.現在のCBA(Collective Bergen Agreement,労使協約書)は,2011年までである.あらたなCBAにサラリーキャップ制度は盛り込まれるのであろうか.CBAの問題は,メジャースポーツでは,最も厄介な問題だ.オーナー側と選手会側の労使協定は,そう簡単には決まらない.オーナー側も,ビックマーケットに球団を持つオーナーとスモールマーケットに球団を持つオーナー間には,見解の差がある.選手組合側も,Aロッドと新人を同じ様に扱わなければならない.近年では,NHL,NBA,MLBでストライキがあったが,CBA締結のための話合いがこじれると,このようにストライキに繋がるため,コミッショナーの手腕が最も問われるところである.MLBについて言えば,次のCBAにサラリーキャップが盛り込まれるか?との質問に対しては,今は「NO」と推察する.現在の,Luxury Tax(贅沢税)制度は,灰色な制度だが,両サイドからある程度の納得は得ている.サラリーキャップは,メジャー契約をした全選手のその年1年間の年俸総額に制限がつく仕組みになっている.そのため,スター選手は現在のような巨額の契約が望めなくなるため,長期の契約を狙い行く.しかし,長期契約を勝ち取るのは,単年度で巨額を得る契約よりさらに難しい.また,球団によっては,明らかに高額な選手の獲得を避け,年棒予算を分配して,中くらい額のサラリーで良い選手を確保する動きに出る可能性がある.また,現在の賃金の分配が平等とは言えないだけに,選手会側でも軋轢が発生する火種ともなろう.一方,オーナー側は,スモールマーケット球団でも,地元ファンから,サラリーキャップ一杯まで,選手を獲得しろと言うプレシャーを受ける可能性がある.現在の収益分配制度の再考も間違いなく浮上してしまうなどの数々のトリガー(引き金)となる問題だ.それでも,サラリーキャップを導入した方が,チーム間の均衡が取れるか。答えは「YES」だ.しかしこの問題では,現在,「一部のビッグマーケット球団しか,複数の大物選手と契約できない.」と言う弊害だけが前面に出すぎてしまっている.重要な問題は,(超大物ではない)複数の有力選手の抱え込みが可能になることである.たとえばヤンキースなどは,ビックコントラクトで2投手を取りながら,ペティット,ヒューズ,王,ケネディ,チェンバレン更にあと2~3人,先発投手がいる.MLBの場合,先発は5人で回すことが決まっているため,あぶれた者は中継ぎか控えに回る.これだけ,投手難でありながら,ひとつのチームが特定の有力投手を抱え込み,彼らが試合に出られない現状は,どうみても,ファンにとっては不幸だ.敵チームに良い選手を渡さない,超守りの戦術である.サラリーキャップの問題は,今後MLBのオーナーと選手組合でさらにホットな論争になってくると思う.球団のコンテンツである選手をめぐる契約の条項は,無形資産経営(球団経営)にとっては,最もやっかいであり,重要な問題である.

一か月程前のウエッブ上のスポーツ記事で,プロの記者の方が,「何故ヤンキースは巨額の補強ができるのか.」その理由について書いていた.確か,①新球場による入場料の増収(席の値段をアップするそうである.)②それに伴うテレビ等メディア収入の増収③実は,選手の年俸支出は増えていない.(サバシア,タシエラ,バーネットで計約450億だか,年俸で計算した場合,退団した,ジオンビ,パバーノ,ムシーナ,アブレイユ,ロドリゲス(パッジ)の年俸額が3人のものを上回る.)等々であったように,記憶している.これはいずれも正しい見解だと思う.ただし,最も重要な,基本的な考えの記載が抜けていた.それは,ヤンキースと言う「無形資産価値」の存在である.確か,2000年くらいに,アメリカのコンサル企業の試算として,プロ球団の価値価格が新聞に掲載されていた.ヤンキースの場合は,全プロ球団中1位で,約700億円くらいだっと思う.現在なら,1,000億円を越える価値かもしれない.何回か前に,マイアミドルフィンズの価値を約100億円と報告したが,それと比較しても,ヤンキースの価値がダントツであることが分かる.ものすごく簡単に言えば,ヤンキースは無担保で(利率は別として),700億円が調達できると言うことである.返済できなければ,球団を売却すれば良いのだ.

ヤンキースが巨額を投じて有名選手を取ってくる一番の理由は,負けないこと,できればワールドシリーズ制覇をすること.負けることが,ヤンキースと言う球団の価値を下げるのである.長く常勝チームであり,生え抜きのスター選手を出すことで,ヤンキースと言う球団の価値が上昇してきたのである.これによって,レプリカユニフォームは売れ,テレビ放映は付き,グッツの種類は増え,販売も増える.ヤンキースと言う無形資産の価値を,有償で与えることで,収入を得ているのである.巨額で有名選手を獲得するのは,無形資産価値を維持するための投資である.しかし,一方では,ヤンキースだけが巨額を投じて,有名選手を抱え込んで,MLBのチーム間の均衡が保てるのか?と言う声があるのも確かである.実際に,次回のオーナーV.S.選手組合間のCBA(労使協約)改定時には,サラリーキャップ制度を盛り込めと言う声が上がっている.(MLBはメジャースポーツで唯一,サラリーキャップを設定していない.)

この問題は,簡単ではなく,リーグや球団を経営する上での,根本的な問題(課題)であるため,今後数度に渡って分析して行こうと思う.いずれにしても,アメリカの球団経営を考える際,ストックで考えるのかフローで考えるのか,と言うことである.ストックとして,無形資産価値を高め,それを基に球団経営を展開して行く経営知識は,今,日本のプロ野球チーム経営にも必要とされることである.