アフリカの宿痾とは?『戦争の構造』篠田英明著 より | 52歳で実践アーリーリタイア

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52歳で早期退職し、自分の興味あることについて、過去に考えたことを現代に振り返って検証し、今思ったことを未来で検証するため、ここに書き留めています。

 

 

クーリエ・ジャポンの今月の本棚より、

 

 

平原依文が紹介している本書『国際紛争を読み解く五つの視座「戦争の構造」』の中にアフリカに関する項目があったので、さっそく拝読させていただきました。

 

やはり、著者の篠田英明のアフリカに対する考察は、私がこれまでアフリカ関連の著作や実際に訪問して感じた印象と同じものでした。それは「アフリカの宿痾」です。

▪️サッカー各国代表の伸び悩みが象徴するアフリカの宿痾

黒人系サッカー選手は、各国代表の貴重な戦力。

 

現代においてもフランス代表エンバペ、チュアメニ、ブラジル代表ビニシウスやロドリゴ、イングランド代表ベリンガム、ラシュフォードや、オランダ代表ファン・ダイクなど、アフリカにルーツを持つ黒人系スーパースターは目白押しで、クラブレベルでのタイトルも多数。

 

ところが、アフリカ各国代表の黒人系選手は、カメルーン代表シュポ=モティング(ドイツ生まれドイツ育ち)やオナナ、セネガル代表マネ、ナイジェリア代表オシムヘン、コートジボワール代表ケシエなどで、ちょっと見劣り。各国代表のW杯成績も欧州・中南米の代表に比して相当に見劣りします。

 

実は90年代、サッカー界では「これからは必ずアフリカの時代が訪れる」と言われていて、まさに1996年アトランタ五輪でナイジェリアが金メダル、2000年シドニー五輪でカメルーンが金メダル取るなど、五輪代表の活躍が象徴的でその後もナイジェリア代表がメダリストになるなど、そこそこ活躍はするものの、フル代表ではW杯でベスト4まで進めた国は一つもありません(アラブ系のモロッコ除く)。

 

それでは、なぜアフリカ各国代表が伸び悩んでいるのか?その理由が「アフリカの宿痾」なのです。

 

アフリカの宿痾とは何でしょう?それは「私利私欲に専念する支配層の腐敗」。

 

アフリカサッカー界も同様で各国協会を運営している理事などは、その多くがFIFAなどから賞金や運営資金を得るとみんな自分の懐に入れてしまうのです。

 

なので国に貢献しようとヨーロッパで活躍する選手が代表に参加しても運営資金が足りず、ろくに練習もできないことが多い。

 

仮にタイトルを取ってもその賞金が選手たちに渡らず、協会のトップたちがみんな懐に入れてしまうから、代表辞退する選手も多かったのです。実際協会職員の給与未払いは頻繁に起こるらしい。

 

こんな状況ですから国の育成も十分に資金が行き渡らず、本来はもっと有望な選手たちがアフリカ各国で育ってもいいはずなのに、そうはならないのです。

 

(2022カタールW杯 カメルーンvsセルビア。以下同様)

▪️アフリカの独立とは、支配層が宗主国から現地既得権益者に切り替わっただけ

1960年はアフリカの年と言われ、多くの国が英仏などの旧宗主国から独立した年ですが、その実態の植民地の統治機構はそのままに、宗主国の支配者から、現地の既得権益支配層に切り替わっただけ。

 

したがって一般庶民から見ると、支配者の肌の色が白から黒に変わっただけで、その搾取の構造は、何ら変わらなかったのです。

 

さらにコンゴ民主共和国(旧ザイール)などは、現地の既得権益者の能力が旧宗主国のそれと違って極端に低かったために、独立によって逆に一般庶民がさらに困窮してしまう。そして内紛が起こる、という悲惨な事態に。

 

アメリカとソ連を中心に対立していた東西冷戦時代は、東側に与するか、西側に与するか、各国の支配層が分断して内紛を展開。いわゆる代理戦争というヤツです。

 

このような状況を、日本国内有数のアフリカ研究者、武内信一(1962~)は「ポストコロニアル家産制国家(PCPS)と呼んだらしい。

 

▪️500年前の奴隷貿易時代から続く「アフリカの宿痾」

これらアフリカの宿痾は、実は500年前に始まった奴隷貿易でも同じだったようです。

 

アメリカの社会学者ウォーラーステインによれば「大西洋奴隷貿易」において、西欧の収奪者と結託したアフリカ人が、他のアフリカ人を収奪するという構造が存在していた、と言います。

 

前回紹介した『新書アフリカ史』でも、当時の西アフリカの政治権力は、西欧からの商品奴隷の要求に対して、その胴元として近隣に孤立して分散している焼畑農業を生業とする小集団を隷属化し、商品奴隷として売買することで、主要交易品だった「金」と同じように西欧諸国に供給して富を稼いだと言われています。

 

このように現地支配層が一般庶民から奴隷含めて収奪する、という構造は何百年も続くアフリカの宿痾なのです。

 

 

アリストレス『政治学』によれば、国家の繁栄には「民主主義」体制の中で支配者が「私利私欲を捨てる」ことが肝要だ、としています。

 

多くのアフリカ諸国は権威主義体制でしかも「私利私欲を貪る」支配者が多く、まさにアリストテレスの主張した「政治のあるべき姿」の真逆をいく体制なのです。

 

アリストテレス曰く

およそ公共の利益を重んじる国制は端的な正しさにかなった正しい国制であるが、それに対して、およそ支配者の利益だけを重んじる国家はすべて誤った国制で、正しい国制から逸脱したものである。

アリストテレス著『政治学』京都大学学術出版版