医療保護入院という恐怖『ルポ・収容所列島』 読了 | 52歳で実践アーリーリタイア

52歳で実践アーリーリタイア

52歳で早期退職し、自分の興味あることについて、過去に考えたことを現代に振り返って検証し、今思ったことを未来で検証するため、ここに書き留めています。

 

 

<概要>

精神病院における「医療保護入院」という、患者(患者と認定された健常者も)を医師の診断と親族1人の了解のみで本人の同意なく「永久的に拘束できる」という問題について取り上げた東洋経済オンラインの調査報道をまとめた書籍。

 

<コメント>

冒頭で

精神疾患により医療機関にかかっている患者数は日本中で400万人を超えている。そして精神病床への入院患者数は約28万人、精神病床は約34万床あり、世界の5分の1を占めるとされる(数字は2017年時点)。人口当たりで見ても世界でダントツに多いことを背景として、現場では長期入院や身体拘束など人権上の問題が山積している。本書では日本の精神医療の抱える現実をレポートしていく。

とあり、日本の精神病院と外国の精神病院の違いについて比較した上で、日本の精神医療の問題について問うノンフィクションかと思ったのですが、残念ながらその辺りは、引用の文字通りであまり扱っていません。

 

また、問題のある精神病院については「その告発をする」という正義感から、十分に深掘りされているのですが、残念ながら、問題のない精神病院については、あまり深掘りがされていません。

 

また、同居家族が重度の精神病でその扱いに「親族が困り果てて本人の意志に関係なく入院させてほしい」という致し方ない場合もあるかと思われますが、この問題についても全く扱っていません。

 

したがって、通読した結果「これは酷すぎる」というのは、実感できるのですが、では「なぜこんな非人道的な制度があるのか」については分からずじまいだし「それじゃあ、どうやって解決していくんだろう」という点も不十分なので、ちょっと消化不良な読後感。

 

それでも、この問題を取り上げたこと自体はよいことなので、まずは本報道を第一歩として、医療保護制度がどうしても必要な事例や、外国の状況や問題ない病院との比較の上で、日本の精神医療行政は今後どのように改革していくべきか、を続編として是非とも提言を期待したいところです。

 

■医療保護入院とは

医療保護入院は精神保健福祉法が定める強制入院制度の一つ。本人が入院に同意しない場合に、家族など1人の同意に加え、同じく1人の精神保健指定医の診断があれば、強制入院させられる

本書第1章

とのことで、悪徳医師の独断では無理なのですが、上手に親族の1人を1度だけ懐柔して承諾して貰えば、、患者(入院の必要の有無は問わず)を、医師の判断で永久に拘束できちゃうという、恐ろしい制度。

 

「身体の拘束」という、憲法が最も重視する一つの「基本的人権の尊重」を根本的に侵害する重大問題なので、本来は刑事事件のように「裁判所」のような第三者機関が介入して、チェック機能を働かせるべきなんですが、なんと「強制保護入院」にはその制度がないのです。

 

一応審査会というのもあるらしいのですが、これが全く機能していない。

 

では強制保護入院している人がどれだけいるかというと、なんと13万人もいるという(2020年6月時点)

 

それでは、その酷さ加減をいくつか以下ピックアップ。

 

■DV夫の策略で「強制入院3ヶ月」

夫自身が精神病患者で、医療保護入院経験者だったので、夫が「離婚や息子の親権を有利にするため」妻を精神病院に連れて行って、医療保護入院にさせてしまったというのです。この結果妻は、精神病院内の独房で3ヶ月間拘束されてしまう。

 

離婚調停を優位に進めるために配偶者が「医療保護入院を悪用する」という事例は結構多いらしい。

 

■精神科病院に40年入院

統合失調症で医療保護入院した福島県の男性は、病気が改善に向かっていたにもかかわらず、40年間精神病院に拘束。

 

東日本大震災で転院し、転院先の真っ当な精神医が診察してくれたおかげで、やっと40年後に退院できたといいます。そしてなんと転院前の病院には、30年以上の長期入院患者が10人以上いたという。

 

■拉致まがいの強制入院「民間移送業者」

民間移送業者というのは、患者本人の意志に関係なく入院させる「医療保護入院」の場合、親族などが病院に連れていくのは困難な場合があるので、病院への移送を代行してくれる、というのが民間移送業者。

 

本書では、この辺りも説明不足で、本当に同居家族が困った場合「民間移送業者」は必要なしくみだと思うのですが、その辺の事情は本書は全く触れていません。

 

本書の事例は、親族の意志が、違ったふうに精神病院に伝わってしまって「誤送されてしまう」という事例。確かに健常者が、見ず知らずの警察経験者の屈強の男たちが突然やってきて拉致されてしまえば、これは大問題です。

 

結局は「民間移送業者や精神医が悪徳業者か、悪徳医者かどうか」が問題なので、その「チェック機能が制度としてきちんと運用されることが必要」ということなんだと思いますが。。。。

 

この辺りはちょっと調査が杜撰かな。というか、これがマスメディアの良くないところか。

 

■14歳の少女に「身体拘束」2ヶ月半

14歳の少女が、摂食障害で都内の精神病院へ。この結果入院が必要と診断され、ベッドとポータブルトイレがあるのみの鉄格子のついた独房に連れていかれ、ベッドに横になったまま、両手・両足・肩を紐で括り付けられて、なんと77日間拘束されてしまいます。

 

入院に同意した親は「入院要」と診断されたので、当然ながら承諾。あとは「医療保護入院」というカタチにしてしまえば、悪事を働く担当精神医の思うがまま。

 

 

などなどひどい状況が多数紹介。

 

いずれにしても「精神病院の闇はなんとかしないと」とは思うものの、本書を読んだ限り、単純に悪徳精神医の存在が問題のように感じるので、上述したように、精神医や精神病院を定期的に監視する制度とその効果的な運用が可及的速やかに必要なんだと思います。

 

ここまで踏み込んで真っ当な報道だと思うので、もうちょっと東洋経済新報さんも頑張ってほしいですね。