日本社会のしくみ 小熊英二著 読了  先進国編&日本の方向性(私見) | 52歳で実践アーリーリタイア

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52歳で早期退職し、自分の興味あることについて、過去に考えたことを現代に振り返って検証し、今思ったことを未来で検証するため、ここに書き留めています。

 

 

<概要>

本書では、特に雇用に関して先進国比較も行っていて、著者は国別に分けるのではなく3つの社会的機能の濃淡によって先進国別の状況を分析。

 

3つの社会的機能の第1は「企業のメンバーシップ型」で、主に日本の大企業のパターン。特に日本では維新政府がトップダウン型で取り入れた軍隊や官僚の制度が民間に波及したものであるとしました。ドイツでも一部企業で該当するようですが、ほとんど日本固有ではないでしょうか。

 

第2は「職種のメンバーシップ型」で、企業や地域をまたいだ職種単位の雇用慣行となっており欧州で多いパターン。いわゆる「横割り社会」。日本では医者や弁護士などの自由業的な職種がこれにあたるかもしれませんがいたって少数派。

 

第3は「制度化された自由労働市場」で、職務記述書に基づく職務ごとの標準化による自由な労働市場。主に米国で差別撤廃や労働運動、戦時期の政策等の存在によって普及。日本では学卒時と「非正規」の領域のみ機能。

 

著者は、日本の方向性について「大企業型」にも「地元型」にも当てはまらない「残余型」が増加することによる「日本のしくみ」の機能不全を訴え、国民の合意と透明性の向上に基づく、職務ごとの標準化と欧州型の社会保障(児童手当や住宅補助、生活保護の強化など)をベースにした「制度化された自由労働市場型」に移行すべきではないかと主張。

 

<コメント>

前回みてきた通り、日本社会のしくみは「大企業型」を軸に形成されてきましたが、他先進国の状況も歴史的経緯を踏まえて解説。内容は各種エビデンスに基づいて精緻に分析されており説得力が非常に強く、深い納得感とともに読み進められます。

 

欧州、特にドイツでは職種でグルーピングされた「横割り社会」といってもよいほど、職種のメンバーシップ型が浸透しているという。

 

私も三菱系のビジネススクールに通った際、濱口桂一郎さんのメンバーシップ型・ジョブ型理論に出会った時は目からうろこが出るほどの感動モノでしたが、小熊さんの仮説はさらにこれを深化させ、上記の3つの社会的機能を類型化して、国別の社会のしくみを機能横断的に解明したところが秀逸。

 

 

 

■「企業のメンバーシップ型」とは「職務の定めのない雇用契約」

人を決めておいて仕事を人の強みに合わせて割り当てる日本固有の型。「入社」するといわれている通り、「新卒一括採用から定年まで」原則として、その会社のメンバーになること。だから仕事(職務)が何になろうと勤務場所がどこであろうと会社に従うのみ。その代わり終身雇用の他、メンバーの特権としての各種手当や各種福利厚生が享受できる。

 

メンバーシップ型を知らなかったときは「何で日本は外国と全然違うんだろう」と思っていましたが、メンバーシップ型理論に出会ったことで、それまでの自分の勤めた企業の雇用に関する疑問が見事に解決したのでした。

 

そしてポイントなのは、メンバーシップ型は日本固有の文化から生まれた制度ではなく、維新政府による政府主導の近代国家としての形成の過程で、軍隊・官僚制度の延長線上で形成されて生まれたこと

 

■「ジョブ型」とは「職務に定めのある雇用契約」

仕事があって、それに対して人を選定するという欧米型(という中国含めた外国はほとんどこっち)。就「職」すると言われるように、まずは「職=ジョブ」ありきの考え方。職種は不変で、より給与の高い企業を渡り歩くことによってキャリアアップしていくというイメージ。

 

更に言えば、メンバーシップ型が当てはまるのは「大企業型」だけで、その他74%の人たちは、この日本型雇用対象外だということです。

 

■「職種のメンバーシップ型」

さて、ドイツなどの欧州では、企業の三層構造(上級職員・下級職員・現場労働者)をベースに職種によって細分化。

 

①上級職員  :成果主義で労働時間ではなく成果で評価される経営・管理・企画職

②下級職員  :時間と職種で類型化された事務系定型業務職

③現場労働者:時間と職種で類型化された工場労働者や販売員など現場で作業する職

 

(中世ギルドではなく)労働運動を契機に職種別組合が生まれ、それぞれの組合は地域や企業をまたいで機能するため、同じ職種で仲間意識が生まれアイデンティティが育まれる。機械工は機械工として、電気工は電気工としての帰属意識であって、日本の大企業型のように企業への帰属意識ではありません。

 

したがって職種のメンバーシップが中心のドイツは、教育は資格志向になるし福祉は職種別の組合ベースになります。

 

■「制度化された自由労働市場型」

主に米国において、戦前の親方ベースの曖昧な雇用慣行から同一労働同一賃金に基づく科学的管理手法によって職務(ジョブ)ごとに業務内容や給与などが標準化された労働市場。

 

米国では「公民権運動」「LGBT」などの権利革命が浸透していることから、ジョブのみによって雇用主が労働者と契約しないと訴訟リスクを抱えるため、制度化された自由労働市場型が普及。

 

■「日本社会のしくみ」はこれからどうすべきか?

日本は年金生活者が人口の25%をしめ、今後もどんどん増えてくるのでここの層は別途議論が必要ですが、生産年齢層(とその子供含む)に関しては、前回説明した通り、日本は「地元型」がどんどん減って「残余型」が増え、残余型に向けた制度が国として未整備です。

 

◇「大企業型」に関しては

徐々に欧米のような職務や成果をベースにした人事制度に変わりつつあります。中途採用は増やすものの、メインは相変わらず新卒一括採用&終身雇用で、勤続年数や年齢に関係なく、業績・成果や職務、職能(職務遂行能力別等級)ごとに従業員を選別する「企業内職能&ジョブ型」に変わりつつあるといったらよいのでしょうか。

 

2019年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果(2020年1月21日経団連)

 

一方で就活学生の要望は「安定していて、やりたい仕事ができる企業に就職したい」というのがメジャーな要望だそうなので、就職サイドも大企業の方向性と変わりません。したがって今後も「大企業型」は継続するのではないでしょうか。

 

2020年卒業生大手志向6割超に

 

以上の理由で大企業型が著者の提言する「職務単位に標準化された職務記述書」に基づく「制度化された自由労働市場型」にシフトしていくのは相当ハードルが高いのではと思います。そもそも多くの当該者が希望していない(もちろん日本の大企業がこのままで衰退していくかどうかは別)。

 

「地元型」「残余型」に関しては

今後も「地方型」が増える要素はなく、「残余型」がどんどん増加していきそう。大企業による非正規雇用の正規雇用化による吸収もありえないので、中小企業正規雇用と非正規雇用がミックスした「残余型」の類型の中で方向性を見出すしかありません。

 

私のイメージですが、今後は残余型に向けた「制度化された自由労働市場型」を整備していくのが方向性か。これには行政主導で、米国を見習って職務記述書によって職務ごとの給与などの労働条件を日本国内で標準化し、職務記述書に基づく労働環境の整備を行ってこれを法制化。最低賃金の考え方などもこの制度に織り込み、「残余型」労働市場を整備して、労働者が安心して働けるよう、職務ごとに自由にキャリアアップできる制度にするのです。

 

そしてこの制度とセットで、著者提言の児童手当や公営住宅などの社会保障を補う。

 

以上、これからは「残余型」の制度設計をしていくことが今後の日本社会のしくみの再構築に必須だということです。