クリント・イーストウッドが監督も兼ねた85年製作の西部劇。
内容は単純。ゴールドラッシュ時代のカリフォルニア。ある山間部の谷間に流れる川で金を採掘している小さな集落がある。
そこはほんの数組の家族が暮らす場所で、彼らはいつかは一山当てようと細々と暮らしていた。しかしその場所を乗っ取ろうと大鉱山主が色々と嫌がらせを仕掛けてくる。
そこへ旅人イーストウッドが現れ彼らを撃滅させて去っていく。
イーストウッドは、マカロニ・ウエスタンで注目された俳優である。
彼は歴代のハリウッド・スターの中でも屈指の人気と実績を残し、今や比べることができるのは銀幕界最大の巨人と謳われたジョン・ウェインくらいしかいない。しかし、このマカロニ出身という事実は、これまでイーストウッドのステータスの妨げになってきた。
いまだにアメリカの批評家の中には「所詮はスパゲッティ・ウエスタン出身の俳優」などと揶揄する者もいるという。しかし、イーストウッドはそんなことをいちいち気にしない。
アメリカに戻り、この「ペイルライダー」までにも何作かの西部劇を撮っているが、いずれも西部劇とは名ばかりのマカロニ・テイスト溢れる作品だった。
公開当時、本格西部劇との触れ込みで公開されていた本作品だが、実際イーストウッドもそれを目指したのは間違いないだろう。
それはこの作品の骨格は「シェーン」からのいただきであることからもわかる。だが、志はあったがそうはならなかった。
イーストウッドのベースにはやはりマカロニがあるのだ。
「ペイルライダー」の舞台となるのは山間部…周囲には雪がある。
この設定がすでに本格西部劇としては異例だ。
本格西部劇にも雪が出てきたことはあるが、何千本と作られている中でほんのわずかにすぎない。
そして「シェーン」をベースにしながら、イーストウッドを慕う子供を少年ではなく15歳の女の子に設定し、彼に対して恋心を抱かせる。これも本格西部劇ではまずないこと。或いは製作年度である85年という時代がそうさせたとも言えなくはない、が、やはりイーストウッドにマカロニの心が根付いているのだと考える。
何故なら7年後の92年作「許されざる者」においては、何とトイレで用を足しているところを撃つシーンを入れるという本格西部劇ではまず考えられないシーンを撮っていることでも明白だ。
だが、そんなことはどうでもいいくらいに「ペイルライダー」は面白い。
イーストウッドの作品には、ラオール・ウォルシュやハワード・ホークスからの影響は確かにあるし、この作品の冒頭ではフォードを意識したのでは?と思われる馬の疾走シーンもあるが、作品の肝にはセルジオ・レオーネがいる。
イーストウッドも既に88歳。いつまで楽しませてもらえるだろうか。