六月十八日(月)

M診療所、午後四時。四回目の痛い痛い注射。

「これ、ずっと続くのですか?」

「そう、体にバイキンと戦う力が十分つくまで続けます。一応二十回ほどが目安」

あと十六回!!痛さから逃げるより、痛さに立ち向かうほうがいいのでは

ないかと思い、今日は痛みの経過を追うことにした。針が体に入る時のチクリはそれほどでもない。薬液が入ってきて皮内(皮膚の厚みの中間)が

プアッと膨れる時、脳天まで一気に痛みが走り

しばらく頂上で続く。

ギャハハ、と声を出せばいいのだろうが、

そこはB29の大空襲の中、焼夷弾の集中豪雨下でも泣かなかった実績がある。じっと耐えていて、

「ハイ、終りました。ここ二か所押さえてください」とM先生に言われると、ためていた気を

ハッと吐く。ウン、これがいい。しばらくは、これで対応しよう。

「血糖値118 。上下してますが、いい方向にきてますね。水のとり方が足りません。まだデンプンが多い。パン食べすぎてますよ。

塩も足りないですねえ。ちょっと手抜き。この程度でいい、というのがいけません。多すぎるかな?

でちょうどいいのです。塩を控えなさいとわれてきているので、怖がっているところがあるんでしょうね。怖がらずに、塩、たくさんとってください。水と一緒に余分な量は体外に出てしまうから心配ないのです。血圧は90ー140、いいですね。

水も足がむくむようでいいんですよ。足にむくみがくるということは、十分水が行き渡っている証拠と思って安心してださい。

尿中のタンパクが++から+へと変化しています。いい傾向です。うどんの他に、そうめんを食べて下さい。いろいろありますが、揖保乃糸、兵庫県

龍野市のあの揖保乃糸、あれがベストです。他のそうめんは、十分に発酵し

ていません。揖保乃糸は出荷前に倉の中で汗をかき、発酵しています。それによって、糖分が完璧に近い形で放出されます。ベターというよりベストで

すから、それで更に体重は減ります」

究極のそうめんといわれている揖保乃糸がやっぱりいいのかと感じ、スーパーで買って帰る。さて、どうやって調理するか。


六月二十二日(金)

朝日の人物欄の反応が、いろいろである。

「若い時の写真ではないか。本当に阿部 進か?」

「元気そうにしているけど、あまりにもやせて⋯⋯。花博、大変なんだ、やっぱり」「無理するな。大阪まで行って夢中でやることはない。早く東京へ帰ってこい」「関西にうまく利用されているようで気の毒だ」などなど。

概して評判は、「やつれ/疲労の限界⋯⋯」と映っているようだ。元気なのに――。


六月二十九日(金)

M診療所、午後四時半。第五回。

「先生!!体重七十五キロになりました。

いや七十五キロを割りました。それに見てください。髪の毛、耳のところ、黒くなってきました。

下半身のへアもです。だいたい赤茶っぽい感じに見えてたのが、光沢がよく、黒く光ってきてるんです。肌もスベスべしてきました。きめがとっても細かくなったみたいなんです」

興奮気味にまくしたてる。

M先生、少しも驚かず、

「当たり前です。驚くことはありません。そうならなかったら驚かなきゃいけない。糖分が減る、

血液がきれいでうすくなる、あちこちの血溜が消える、血液がスムーズに流れる、運動で体が元気になる。排便がうまくいき、有害毒素がすばやく排出されている。結果よければ全てオーライ、

騒ぐことはありません」(ニコッと笑う)


まったく可愛くないんだから。

先生にとっては当然かもしれないが、こっちにすれば事件である。 大事件である。

「目は、その後どうですか?」

すっかり忘れている始末。そうだ、目が発端ではないか。現金なものだ。

全く意識の外であることにわれながら驚く。

「ちゃんと、そっちの方を気にしなくてはいけませんよ。目は最も敏感で、

一番正直に反応するわけですから。でも良かったですね。気を緩めるとすぐ、また悪くなりますからね。途中で食事違反はしないように」

例によって点滴45分。心電図もとる。

「心電図を見ると少し乱れがありますね。ここと、ここに乱れが。心筋梗塞

分的なものでしょう。これは血液のどこかが、流れにくくなってい

すね。心筋炎になるかもしれない。血管内の酸素不足ということも

血管の治療を優先しましょう」

と、いうことで痛い注射に新しい液が参入。歯をくいしばって気をそらす。

前回、現実に立ち向かうのをよしとしたのに、今日はまた前に戻ってしまった。

「塩がやっぱり足りないね」

いや、このケース(25g入り)にちゃんと1日分、十分に取ってるんですけど」

その日、その日でムラがあるんでしょう。

確実に25g実施して下さい。塩と水は人間の生命の源なのですから、十分にとること。

皮下脂肪の中にある糖分が減っていくから体重は減る。皮下脂肪がなくなれば減量はしなくなります。70キロ前後で止まって、それ以上は減らなくなるかもしれない。無理して、六十五キロ前後までいくことはない。血液をきれいに薄める、何度も言いますが、白血球の数を増やし、強くしておくことです。いつでも侵入してきたバイキンと、互角に戦えるようにしておけばいい。バイキンの好きなのは糖分、それを吸収して元気になっていくのだから、

その食料、栄養源を絶つことが必要です。

その戦争をやっているんですからね。努力を怠れば、敵はすぐそこにつけこんでくる。

食事違反をやると、すぐ結果が出ます。診察すれば、それがすぐわかる。何を食べたかまで―ー」

(じろっと見る)


お見通しである。

実は25日(月)に、B社の「お父さん・お母さんのためのパジャマ・ネグリジェデザインコンクール」の審査会が、東京の読売新聞本社であった。

山田邦子さんや、ケント・デリカットさんらと一緒に審査員をやっていた。

その席上、お茶と一緒に出ていた和菓子がおいしそうだったので、ほんのひと口食べてみた。

びっくりした。この世に、こんな美味なものがあったのか!!という味である。

ガマンできずに(初めオソルオソル、中パッパ、終

り一気に)食べてしまい、「ああ、これが人生というものだ。これなくして、なんで⋯⋯」と思ったのである。

M先生は何も言われなかったが、ちゃんと、違反が体に反応していたのだろう。

「どうしても甘いものが食べたい、飲みたい時は、PAL・SWEETEの錠剤を一つ入れて飲むか、三ツ矢サイダーのライトね。糖分は少しならいいとか、多ければいけないという量の問題ではなく、入れるか入れないかが

問題なのです。今は入れてはいけない時、バイキンに利を与えてはいけないのです」

7月9日(月)

M診療所、午後一時。第六回。

点滴、今日は約一時間。いつもより量が20%多い感じ。「便がバナナより少し硬めなのが、この二、三日続いているのですが――」

「白と黒の薬、少し量を増やしましょう。回数も一日四〜五回にしてみて下さい。便秘気味になるのが一番いけない。水の量が少ないんじゃないか。

5リットルとってますか?」

と、聞かれると3〜4リットルかな?と考えてしまう。

注射、イターイヨォーン。

万歩計はここのところ、12000〜14000というところ。

夜の食事にイカ・タコ・エビ・帆立などの魚介類たっぷりのシーフードサラダを特注。それにレモンティー、氷水大量。

このパークホテルのレストランはいい。ぐったり疲れて帰ってきても、ここのサラダとコーヒー、紅茶を飲むと元気が出る。安くて量が多い。

それにうまい。スペイン風オムレツはいつか食べてやるぞ。

ボーイさんたちも心得ていてくれるのが嬉しい。

水差しと氷のボールを必ず置いていってくれる。

ガブ飲みである。塩も必ず入れる。ところでスーパ

ーのトマトが高くなった。果物で許可が出ているのは、レモンだけ。そのレモンが店頭から消えた。

何でも輸入ものレモンに農薬が混入されているのが

見つかったとかである。徳島の岡本先生に頼んでスダチを送ってもらおう。

ここのところ、朝は6時起床。京阪七条駅、

6時42分発の特急で出かける。

8時頃塔に着き、NHKテレビ「凜々と」を見ながら朝食をとるのが極楽である。9時の朝礼までゆっくりとした時間が持てる。

心にゆとりが出てきた感じである。

7月20日(金)

M診療所、午後3時。第7回。点滴―45分。

横になりながら、何人かの人と話をする。

顔見知りができ、近況をあれこれ話し合う。

Dさんにここを紹介したというおばあさんに、初めてお会いする。紹介の紹介だから私は孫に当たる。

「ああ、Dさんのお知り合いってあんさんでしたか。よろしゅうならはったそうで、おめでとうさんです。私も、もう長い間お世話になっております。

と嫁の二人で連れてきてくれるのですわ。あんさん、お仕事大変ですねえ。まあボチボチ養生しなはれ」

元気である。Dさんも私も、このおばあさんに助けられたようなもの。感謝

「水が足りない。汗に追いついていない。ここのところ猛暑ですからね。水をたくさん飲んでも、どんどん汗の方にもっていかれるから、足りなくなる。

血糖値は105、目標110を越えましたね。結構です。肝臓も良好です。8月に入ったら、腎臓の方も調べてみましょうね。ハイ、舌を出してくださ

少しまだ残っているけど、まあ、こんなもんでしょう。DNAの抗体反応も良くなってきてます。正しくなったといえますね。ここんところは食事

違反はないようですね。ハイ、注射です」

今日は妙齢の女性が二人。ズボンを脱ぐのを一瞬ためらう。まあ、いいか。血糖値が100近くなったということは、糖尿病患者としては限りなく健常者に近づきつつあるということか。

こんなに劇的に下がるものなのか。塩をとりすぎるくらいとっているにもかかわらず、血圧はバカ上がりをしない。夜中にトイレに4回も起きたのに、

寝不足感はない。その都度、短時間熟睡をしているのだろうか。とにかく有難い。


7月27日(金)

M診療所、午後2時。第8回。

点滴-45分。血糖値、食後2時間で148。

便、やや硬い。白い薬の量を再度増やしてもらう。

一回毎の小分けから、

大きなビニール袋一個で14日分に変わる。昇格か?

トマトは相変わらず高い。油揚げ、お豆腐、うどん、ウーロン茶、揖保乃糸、ソーセージ、ツナの缶詰。それに鎌倉山のパン、シャッポ届く。体重75キロで止まっている。「あまり、急いで下げなくてもいい。ここらで力を抜いて、減量にこだわら

ないことも必要」とM先生。

8月8日(水)

M診療所、午後1時。第9回。

点滴ー1時間。ぐっすり眠ってしまった。

体重は75キロと変わらず。

花博会場は一週間のごぶさた。その間、東京での仕事に専念していた。

「顔色は良くなったとみんなが言うのですが、なんとなくシワが増えて、のどなどにもたるみがでて、老人ぽくなった気がするのですが――」

と、いささか元気なし。

M先生「60歳で60歳の体になっただけの話。太っていても、それは見かけ倒し。内実は、7〜80歳に近かったのです。今が、年令相応になってきたのですよ」

なるほど、なるほど。

M先生のすぐそばに横になって、点滴を受けている老人(男)がいる。

「急患ですか?」

「いや、ガンです。胃ガンで、F病院で自宅で療養しなさいと言われたのです。あと二か月と診断されました。そうだね?(老人うなずく)

どうせダメならというわけで、家族がここに連れてきたのです。いつ死んでもおかしくない人です」

(いいのかなあ、いいのかなあ。そんなこと平気で言っちゃったりして。知いらない)


「ええ、元気になってきてます。二か月たっても死なないでいます。(老人うなずく)ガン細胞は糖分が好きなんです。糖の供給があれば、ドンドン元気

になる。病気見舞いに果物なんか持って行くという事は、ガン細胞に元気を出しなさいという様なものです。ガン細胞は糖がなくなってくると

発になる。弱ってくる。そこで白血球の出番になる。白血球を元気づける治 療をすれば良いわけです。ガンを押さえ込むのは、力強い白血球です。抗がン剤を注入すると白血球が減って、自分の力でガンを治す力が弱まってくる。

その反対をやるわけです。ガンは死なないまでも、閉じ込めることはできる。

そこを医者が治療すれば、白血球がガンを殺してくれる。そういう仕組みになっているのです」

よくわからないが、これもすごいことである。糖尿病の私以上に、大変な病気の人が結果良好に向かっているのだ。