歩け、歩け、一万歩。
五月二十三日から九月三十日までの第一戦
【おそるおそる第一日目は終った】
平成2年5月23日(水)
Dさんと別れて塔に帰る。
S事務局長に先生の件を話す。
「へえ、塩を――減塩でなく増塩ですか?それに水を5リットル!!水はどこの水って決まってるんですか」
それはちょっと聞いてこなかった、来週忘れずに聞いてこよう。
「塩も、どこそこのというのがあるんでしょうね」
「取りあえず赤穂の天塩(あまじお)というのがいいらしい」
「ああ、それ、ウチで使ってますよ。明日持ってきましょう。やっぱり化学塩よりいいんですかね」
「人間は海から地上に這い上がってきた生物の子孫。もともと海にいた、から、水と塩は欠かせないんだそうです」
「説得力がありますね。言われてみればその通りですね」
「そうなんですよね。それから食べ物、
これがごはんだめ、豆類のあずき、大豆、お多福といった甘納豆やあんこ類は全面禁止、それにじゃがいも、さつまいも、さといもといったいも類、それに牛乳は永久追放っていうんですから――」
「へえ――」と、Sさんは絶句したまんま。
「それで見通しはどうなんですか?」
「私のいう通りやれば
治りますって言うんですがね――」
「目の手術の方は――」
「しなくてよくなると思うですって、ホントかな――」
での策一器
「もし、そうなったらすごいことですね」
「もっとも私次第ですがね――」
左腿に打たれた注射が腫れてきて、ズキン、ズキンしてきた。
水、水、水を飲まなくちゃーー。たて続けに二杯、三杯。
(こんなんで、いいのかな)
帰りは早足で地下鉄駅へ。食事は塔内にある「うどん屋」さんで、うどん。(汁が甘い。これは砂糖とみりんの味。この甘さはいけない)
京阪七条駅から歩いて、パークホテルに帰る。途中マイショップとファミリーマートの二店のコンビニエンスストアがある。マイショップに入る。
レモン1個、ピーマン4個で一袋。キュウリ3本。
トマト2個、レタス1 個、お豆腐1丁、
ウーロン茶1.5リットル瓶一本。チーズ1箱、
うどん玉1個⋯⋯。それにナイフ一丁、スプーン小1本、はし一膳⋯⋯。こんなもので、いいかな。
あしたの朝、塔に行って開館前に食べるための材料の仕込みである。
ホテルのコーヒーハウスで夕食。
ここはまことにおあつらえ向きである。
サラダがM先生の指定通りなのだ。地中海風で、サラミソーセージやナチ
ュラルチーズを細かく切ったものが、たくさん上に乗っている。トマト、レタス、キュウリ、無いのはピーマンとレモンといった大盛サラダである。普
通のホテルの倍以上の量があるのだ。これはありがたい。
〈塩〉明日から天塩にする。きょうは食卓塩で、ごかんべん。買ってきたレモンが役に立つ。でも、塩を二十五グラムどうやってとったらよいのか、現
実問題となると大変だ。
なめるーやっぱり大量は無理
ふりかける→サラダが一番
飲む→これがやりやすい。湯ざましに入れて飲む。つねに塩水にしておく
のはどうか
野沢菜→漬物類にプラスする感じでとにかく方法はあるだろうが、二十五グラムは大量である。ゆっくり考えよう。
〈水〉飲めばいい、というものじゃないとのこと。体の中にどれだけ留めて
おくかが、塩の役目の一つ。夕方から夜、夜中に飲めとなると、睡眠との関
係が心配になる。部屋の湯沸かしで飲み水を作っておくことにする。
〈排便〉白と黒の粉薬がどんな結果にでるのかわからないが、午後一回、夜一回服用する。
味、まったくなし。
〈運動〉ストレッチ体操とか、ジョギングとか、急に始めてもだめだ。自分にあった運動となれば
「歩く」のがいい。人は早足で歩けというけど、
ごく普通の歩き方プラスやや早目というのがいいと思う。胴長短足なので、歩幅は七十センチ位。
チョコマカ歩きはやらない。目標は六千歩以上となれば、花博中はその三倍近いのでまだ大丈夫。
問題は花博以後の通常生活に戻ってからどうするかだ。
かくて長いショックの一日は終った。
元気の出る注射、イ・タ・イ〜
5月24日(木)
〈排便)白と黒の効き目が早速あらわれた。夜中にお腹がゴロゴロ、雷様が走った。できるだけがまんして、朝5時半にトイレに行く。とてもトマトケ
チャップ状ではない。どしゃぶりの雨のような感じ。便が灰黒色。驚いた。「黒い便がでるけど、薬の色だから心配ない」と先生は言われたが、やっぱり心配。夜中、1時間半おきぐらいに小便に起きる。そして水を2倍飲む。これを3回繰り返す。
横になると、すぐその都度眠ったらしい。
朝、寝不足感が少しある。
〈食事(塩・水)〉昨日仕入れていたトマト、ピーマンなど、青菜類を持って塔に行く。
八時に塔に到着。朝礼前にサラダの盛り合わせをつくって食べる。塩をたっぷりかける。塩辛すぎた。15グラムぐらい入れたよう。
昼は少しおいて和食堂で肉うどん、トマトサラダをとる。
コーヒー2杯、紅茶3杯、水、ウーロン茶といろいろ。お腹ゴロゴロ。
夜はホテルで、イタリアンサラダとミニステーキ(ソースはかけず、塩をふりかける)塩は多分40グラムぐらい―ーちょっと多すぎた。
(M先生)多く取ったり、取らなかったりは、ダメ。コンスタントに25グラム」回数は三回。量は特別にいつもより、ガタ落ちさせたという感じはない。
間食はどうしたらよいか、この次聞いてみよう。
〈運動〉万歩計をスーパーで買った。普通の時計盤式のものだ。針で何歩かひと目でわかる。デジタル式より使いやすいと思ったので、そうしてみた。
(後に、デジタル式を購入)やっぱりよく歩いている、17000歩。これは合格。
ーー運動グツを買うこと。それに体重計も早目に求めておく必要あり。
夜中、お腹のゴロゴロが、ピカ・ゴロ
・ピカという感じに走る。
【5月30日(水)】
4時、M診療所へ。1週間ぶりである。初めのショックが続いている。
60年も生きてきたのだから当たり前ですが、バイキンを減らさなければダメです。インスリンが正常人より高い。糖尿病患者はインスリンが少ないの
ですが、あなたのはインスリンが多くて糖尿病というのですから、まずは珍しいケース。
私も1〜2件しか扱ったことがないです」
まれな糖尿病患者とは何か?わからなくなってきた。太腿の皮肉に、痛い痛い注射をうたれる。
歯をくいしばっても耐えられない痛さ。
Dさんもこれが大の苦手だという。
乳酸リンゲル液約40分を2階のベッドで受ける。
「2つとも元気のでる注射ですからね。ハイ、血糖値高いですね、140。食事はちゃんとやってますか。ハイ、お薬です。白と黒の二つ。1日3回、
小スプーンに約1杯ずつ。塩は約25グラム以上です。おだいじに」とは、元気、元気の看護婦さん。
血糖値140。高いといわれたけれど、私にとっては低い。以前、180以上あったのから考えれば、この1週間で40低くなったことになる。果たして塩・水方式が、効果を出してきたのかどうかわからない。でも嬉しい。
間食はとっていいのか、先生に聞いてみた。
(M先生)「かっぱえびせんがいい。塩分は十分。それに安い。1回に1袋は多すぎますが、カロリー過多にはなりません。
チーズ、バター、ハム、ベーコン類は、たっぷりとりましょう。できれば輸入ものがいい。
特にドイツ、オーストリア系のもの。
塩がタップリ入ってますからね」とにかく、塩にこだわる先生である。
運動は、1日平均13000歩。
排便は、朝、夜と2回。時に昼間もあった。(28日)
(M先生)「水が足りてない。もう少し意識して飲むように」
足りてると思うのだけど、5リットルというのは大変な量なのだなと、つくづく思う。
舌をみてM先生
「ああ、まだ食べ物が合ってませんね。
大体3〜4日で変化がでてくるはずなんだけど。ちゃんと食事すすめて下さい。」
【6月2日(土)】
徳島そごうデパートに、朝の飛行機で行く。
5月30日から「中島潔展」が始まっている。今日明日は、中島先生のサイン会がある。ティールームで、市内にある若草幼稚園の岡本園長先生、中島先生と会う。中島先生が、私を
見てびっくり、「あれ、頰がこけてきてる。どうしたんですか?」自分では
それと感じていなかっただけに驚く。「やせてはいないけど、ゲッソリという感じ。疲れがひどいみたいですね。花博、大変なんですね」と続く。
岡本先生も「なんかやつれてるって感じですね。心配ですね」と。
M先生ウンヌンというのを話していないから、仕事の疲れ、イコール危ないと感じているのかも…。
人が見るほど疲労感はない。よく眠っているし、食べるものは食べ、排便、運動、塩もよいはず。
3、40分の間に、M先生の話をする。一応、中島先生も岡本先生もひと安心。
「そうですか。ワザワザそうしてるんですか。まったくの疲労困憊ではないんですね」
「それにしても塩を取れですかァ。本当かなあ。いいのかなあ――」
中島先生は、信じられないという感じ。
頰がこけてきたということは、体重も減ってきているのだと思う。体重計、今日こそは買って帰ろう。
食事はデパート内の和食堂に無理をいう。そうめん、うなぎの白焼き、す
だちをたくさん、青菜の塩漬け(帰りに多目に分けてもらう)、キュウリ、トマトとレタスのサラダ。
中島先生「サラダは塩をかけるだけですか」
「レモンと塩のミックスです」
「サラダは毎食ですか」
「そうです。血液や腸をきれいにするために、青菜いっぱいなんですって。
いわゆる主食が野菜で、肉や魚、うどんが副食ってわけですよ」
「へえ、おまんじゅうやケーキは?」
「食べません。この一週間、全く食べていない」
「サツマイモも?」
「全然」
信じられない、いったい阿部進に何が起きたのか。あの、何でもパクパ
ク食べていた人とは、とても思えないというように、お二人顔を見合わせていた。
【六月三日(日)】
花博入場者約十八万人と、最近では最高の人出。
生あくびが出なくなったのは、食事改善の効果が出てきたのかもしれない。
帰りに体重計を買う。
京阪七条駅からパークホテルまで、徒歩約七分。今日は24時間のスーパーに入る。トマト、ピーマン、キュウリ、レタスを買う。レモンがない。
明日の朝の食事用。
83キロに減ったア
【6月4日(月)】
体重が減っている!!八十三キロ。
三月J大診察の時のショック以来、今までのやり方の中で食事量を減らしてきたことと、
M先生方式のミックスの相乗効果が出てきていたらしい。
昨日の中島先生曰く「顔のやつれ」は気のせいでなく、88キロの時から
83キロ、つまり5キロ減の顔であったわけだ。
80キロ後半では、本人は痩せたのかどうかはわからない。ちょっと食べれば、すぐ2〜3キロ増え、
明日は診察といえば前日から食事量を減らすことで、やはり2〜3キロは減らすことができる。
つまり、自然増減ではなかった。操作によって、
高値安定させてきたわけだ。
しかし、この5キロ減は違う。何とか合併症から逃れようという、努力の
結果と見て良いようだ。「やつれ」という形で、人の目に映るとなればホンモノなのかもしれない。
鏡を見て、もうひとつ気がついた。
顔のヒゲが濃くなっているような気がする。
2日間は剃らなかった時のよ
うな感じなのだ。そういえば、眉毛も濃いかな?これは気のせいだ。
そんなに変化するものではない。
でも嬉しい。励みになる。やはり体重計を買ってきて良かった。
M先生の言葉を思い出す。
「食べて体重が減るのはよいのです。食べないで減るのは病気です。ちゃんと食べて下さい。手を抜かないことです」
夜中3回、トイレで起きる。1日に水を5リットル
飲むように指示されているのでそれの結果がこれ。放出したら更に倍の水を飲むので、二時間おき
に目がさめる。忙しい。
そのわりに寝不足感がないのは、不思議。
M先生を信じよう。
【六月五日(火)】
久し振りに横浜の家に戻る。家人が「あら、やせたかしら?」
嬉しくなる。「やつれた」といわれずに「やせたか?」である。
M先生に診ていただいていることを、初めから知っているからだと思う。
知らない人は「ガンかもしれない。やせてきているのは―ー」と思うだろう。
努力の甲斐あっての5キロ減、今度は本物である。
三浦海岸駅で降りて、公民館での講演会。旧知の社会教育課のAさん。
「あれれ、ちょっぴりだけど、ほんのちょっぴりだけど、ウエストらしいものが見える!!」
会うなりいきなりこうである。顔がほころびる。
(言って、言って。もっと言って!)
ますますホンモノである。ウエストなんて、
ここ十数年考えたこともない。
まさにカバゴンのお腹であった。お腹がへっこんできたのである。
「お目が高い!!実は――」と、
ここでもやってしまう。
夜、家の風呂に入る。体重計に乗る。
ジャジャジャ、ジャーン! 82キロ!!
なんだこれは。体重計が狂っているのではないか。82キロだなんて。
ゼロの目盛りを、正しく合わせてみて何回も乗る。多少の変動はあるが、間
違いなしに82キロやや強である。思わず大鏡に向かってサインをしてしまった。
ウエストの方は、Aさんが言うほどのことはない。やっぱり錯覚であったようだ。でも、横から見ても出っ腹ではない。胸から一直線になっている。
へこんではいない。しかし、空気を入れて膨らませても、かつてのポコンと出っ張る腹ではない。
なるほど、着実に減量しているのでありますよ。
まったく――。
(M先生の言葉)
「脂肪に糖分が入るから、太るのです。糖分が入ってこなければ減ります。
人間の体は、自分で糖分を作ることができない。外から入ってくるだけです。
必要な糖分は栄養分に変化しますが、余った糖分は、せっせと脂肪の袋の中に入って膨らむ。
それが肥満だと思って下さい。
砂糖は、そのまんま糖分です。
今、ケーキやおまんじゅうなどの、ありとあらゆる食べ物や味つけが砂糖漬け、つまり糖分漬けになっています。それを意識してカットするだけで、
膨らんだ脂肪がしぼんでいくだけの話です」
とにかく気分がいい。何と言ったって82キロ。
あと3キロで70キロ台ではないか!!
前人未踏の70キロ台が、いよいよ秒読みになってきた。
サラダをたくさん、レモンも。ステーキもジュウジュウ焼いて、塩たっぷりで食べた。
「パンは自家製の塩とイーストのもの。市販されているものは、なるべく食べないように」
とM先生は言うが、これが一番困る。
鎌倉山に行きつけのパン専門店がある。
ここのパン類はとてもおいしい。
他店のとは、ひと味もふた味も違う。
一週間分まとめ買いをしているお店だ。
M先生の言われる、塩とイーストだけで、ミルクと砂糖の入っていないパン
はどれか聞いてみた。
「沢山は焼いていないが"シャッポ"がいいんじゃないですか。ほとんど塩と水です。甘味はつけてありません」
シャッポというのは、直径十五センチほどの丸いパンだ。穴が沢山あいている。
ベレー帽のような形のパンである。
よし、これに決めよう。シャッポは冷凍庫に入れておけば、何か月も持つ。冷蔵庫でも半月は大丈夫とのこと。
他に角食、山型食パンもきわめて上質で入手しやすい。パンはこれに決まった。ホテルには、これを持って帰ることにする。
(M先生の言葉)
パンは3ミリか5ミりの厚さ。それに塩分たっぷりの雪印の黄色のバター。そう、10ミリぐらい十分に塗って食べなさい。バターにパンがついて
いるという感じ。塩分控え目のものやマーガリンは食べないこと」
お風呂あがりの後、またしても大鏡でマジマジと顔を見る。近づけたり遠
ざけたりして見る。
またも、またしても、アレレ、である。
髪の毛、耳の生えぎわの毛、両方とも白くなっていたのがゴマ塩に、それも黒い部分が多いではないか!!
家人に聞いて見ると「そういわれれば黒いかなぁ」と、心もとないが、確かに黒くなっているのだ。
いや黒だ。
腹をさすってみるとツルリとした感触である。もしかしたらスベスベ?
これは思い過ごしかも。でも髪の毛は間違いなしに白髪が少なくなっている。
白髪が減った?
【六月六日(水)】
講演会で北九州市小倉ホテル入り。
口笛でも吹きたくなるように、足取りが軽い。ホントウに軽いのか、気分だけなのか、そこはよくわからない。もうすぐ未体験の、あの、あこがれの
70キロ台に突入するのである。宇宙船の大気圏突入の気分は、こういうものかもしれないとオーバーに考える。
ホテルでも鏡をゆっくり見る。白髪が少なく黒毛が多い。錯覚ではない。
確かにそうだ。
あれ、左頬にある脂肪の塊、これも心持ちボリュームが減っている。盛り
上がりが欠けているのだ。
よーし、顔色よし
よーし、目が大きく見える
よーし、瞼のはれぼったさが少ない
よーし、首が出てる
なに、首だって?ホントだ。首が出現しているではないか。前は、顔からそのまんま肩へとつながっていた。猪首といっていいくらい、顔と首は同じ巾で体と連結していたから、首の存在を久しく忘れていた、というより意識の外であった。
首が出た出た、顔に出た、の心境である。
(M先生の言葉)
「六つの実行をちゃんとやってれば、スイスイと結果は出てくるものです。
途中で違反をすれば、すぐまたに戻ります。形が定まるまで、違反はいけません。
六つの組み合わせの相乗効果は、目に見えて出てくるものなのですよ。少しも驚くことはない」
【六月七日(木)】
鏡を見る。
やはり、ヒゲの濃さはホンモノだ。眉毛もやはり、黒く濃くなっている。
急速に変化が出ていることは、もはや疑いない。
塔で、夜勤あけのガードマンさんを相手に話をしながら朝食。ツナの缶詰が気に入っている。トマト、
レタス、ピーマン、新顔にみつば、みずな、それにレモンと塩。コーヒーを入れて、パンは横浜から仕入れてきたもの二片。サラダに紅花油をちょっと
落としてみたが、好みの味ではなかった。
明日はちょっと火を加えて温野菜風にしてみよう。
昼はうどんが定着。ひやしうどんに青ねぎの青い部分をたっぷり入れて、汁はちょっと甘いので飲まない。
かっぱえびせんが間食。スーパーで120グラム百円程度。3回に分けて食べる。
スナック菓子で、原材料は小麦粉・エビ・植物油・砂糖・食塩・調味料(アミノ酸等)・膨脹剤・甘味料(甘草)とある。百グラム当たりのエ
ネルギーは480キロカロリー、食塩2.1グラムと
能書きに記されている。
砂糖と調味料、甘草というのは、体にはあまり影響はないのだろうか。とに
かく、食塩2.1グラムが主眼なのだろうか。
この他に、小さいソーセージをボイルして冷蔵庫に入れておき、おいたら1本、2本どまりで食べる。
夜9時頃、ホテルで夕食。
これも定番になったイタリアンサラダ。
本当に、他のホテルレストランの1.5倍以上は確実に多い。ナチュラルチーズとサラミソーセージがいっぱい。コーヒー、持参のシャッポパン二片。
夜中トイレ3回。水、倍補給。
便、トマトケチャップ状。
【六月八日(金)】
M診療所、午後4時30分、第3回目。
点滴を45分間。横になると気持ちも休まる。疲れていないようでいて、やはり疲れている感じ。
30分ほど眠ってしまった。
診察室で順番を待つ。普通、患者は室外で待つが、ここは違う。常に2〜3人が中にいる。
今診察している人の症状、先生の指示、それに対する患者の反応などがよく分かる。お互い「仲間」という親近感がわいてくる。
「ハイ、ロを開けて。少し、よくなってきてますね。食事はどうですか、守ってますか?」
「パンが主体なんですが、もちろん、青菜類はスーパーで買って、きちんと食べています」
「パンは食べすぎないように。よいといっても、穀類の中で比較的よいという程度ですから、気をつけるように」
3の注射。これが痛い。三種混合皮内注射である。歯を食いしばって
(天ぷら食べたい。天ぷら食べれたらうれしい。天ぷら⋯⋯)
と、口の中でつぶやいているうちに終わる。
「ハイ、元気になる注射です。体の中に病気と戦おうという力が出てくる注射です。直接、バイキンに立ち向かうのではありません。自分自身の中に抵
抗力が備わっていくためです。あくまで食養生が主です。水は?塩はどうですか?毒素追放です」
薬、14日分。
夜、ホテルでイタリアンサラダと豚肉のソテー。
(ソースはもらわない。塩
をかけて食べる。塩は京都駅前の近鉄デパート地下で「伯方の塩」を見つけ
ておいた。1キログラム320円である。
約1か月で1袋。赤穂の天塩に比べると、
さらに塩っからい感じと、口の中でゆっくりと広がる感じがいい。
当分は併用することにする。塩25グラムの量は
カメラのフィルムケース1本の八分目に相当するので、持ち歩くようにする。
意識して、これ1本取るのだから、他からの分を入れると30グラム以上になる日もあるのではないか? それでも良いのだろうか?)
体重、さらに81キロになる。
【6月11日(月)】
60歳の誕生日である。前夜、横浜に帰る。
体重80キロ!!ついきた、やってきた。
記念すべき60歳前夜に80キロである。
明日の79キロ突入は間違いない。
どんなに待ちこがれてきたものか。
夢の70キロ台である。
しかも、J大病院で眼科の診察を受ける日でもある。
ドキドキする。何といわれるか?やはりレーザー手術をしなくてはいけ
ないのか。自覚症状では、悪くなっていないような気がする。だって、体重も8キロ近く減っているし、血圧も良い。心電図の乱れや肝機能の働きに不
安はあっても、とにかく5月23日以降、20日足らずで体重が8キロ減ったのである。
それも無理を重ねて強引にやったというのではない。「食べてよいものは食べて、それでやせるのが本来のあり方、無理はいけない」を実践してきた結果である。
眼科のK先生が声を上げた。
「あれ、良くなってますよ。視力も回復していますね。この前より状態が良くなっています。
何があったんです?
短期間で良くなっている。これなら手術は見合わせましょう。小康状態ですよ」
「心を入れ替えて、食事療法をきちんとやった結果、体重も減りました。運動も規則正しくやったのです。(塩と水と糖分カットの話はしません)」
「そう、まだ間に合う状態だったのですね。いい時に思い直して、やった結果なのですね。それじゃ、9月まで様子を見ましょう。今の状況で体重が減
いいけば、目も悪化しないと思います。9月にもう一度診察してましょう」
バンザイである。目の前がパアッと明るくなった。こんなにまで変化が出
るものなのだろうか。間違いではないか?でも、K先生は九月まで様子を見ようといわれた。
花博終了までは大丈夫。
もっとも、キチンとした生活管理をしていくという条件はある。が、嬉しいことである。
血糖値も130。ごまかしでなく、食前にである。目標の110以下にするのに、もう二歩というところ。これも嬉しい。
夜、六本木の新北海園で、社員と中島先生、D社の高橋さんらが誕生会を
開いてくれた。事務所開設二十周年記念でもある。今日は良きことが重なった。
新北海園は、事務所と飯倉片町交差点をはさんで、向かい合わせの所にあ
る北京料理のお店である。おいしさとホットな人間関係が評判を呼んで、いつも満席。今日は部屋をとってくれた。中華料理にしたのは、M先生に伺っ
ておいた結果でもある。「中華料理はよいです。但し、キチンとしたお店のものです。理由は塩、醬油、水、植物油を主体として、余分の調味・甘味料を使っていないからです。タケノコを完全に除外すれば、まず大部分の料理が
食べられます。チンゲン菜やパクチョイといった青菜をたっぷりとって下さい。但し、食後に出るお菓子や中華風おしるこは食べないでください」
それなら、新北海園の中華料理は合格である。それらを事前によく佐川支配人に話をしておいたので、献立は「私主体」にしてくれた。といっても、
病院食的なものでなく、野菜類が少し多いかなという一般食である。
中島さんが、「徳島で会ったとき、びっくりしましたよ。頰がゲソッとしているし、こりゃ大変だ、ぶっ倒れるんじゃないかって。顔色も良くなかった。
生気がなくて⋯⋯。先生自身は元気だって言ってたけど、何と言ったらいいのか戸惑ってたんですよね。でも今日はいい。顔色もいいし、ゲッソリがな
くなってる。顔のしわがちょっと多くなったかなって感じ――」
と、言ってくれた。本人が思っているほど、他人の目では健康にはうつっていなかったのだ。
「目の腫れぼったいところが、なくなってる」
「ワアッていう迫力が、なくなった」
「しぼんだのかな。縮まったのか」
「普通の人って感じ」
「違う人を見てるような気がする」
パクパクなんでも食べる、それもうまそうに平らげる豪快さがなくなって寂しい」
とにかく賑やかである。
やはり小さいとはいえ、会社の代表である。
健康が一番気になるのは当たり前。
それが、大丈夫らしいとなれば、みんなの士気にも好影響をているのかもしれない。
やっぱり新北海園はうまい。安心して食べられる。食べすぎないように注意しなくては。
ここ二十日間での最大のごちそうである。
ウーロン茶のおいしい入れ方を、支配人から詳しく聞く。みんなは二次会に行くが、私は失礼して家に帰った。
水と薬をたっぷり飲んだ。夜中、二回トイレに起きる。
【6月13日(水)】
体重が80キロを切った。78..8キロ、
一気に1キロ以上も!!
70台に、アッという間に入ってしまった。長い長い道だった。
七十キロ台になりたいと、何度も何度も挑戦したが壁は破れず、その都度、「バカらしい。や
めよう。どうせ無理なんだから、無理にやることはないや」と勝手に後退を
決め、諦めていたものだ。それが、である。
宝塚のスターとしては戦後最大といわれた雪組の麻実れいのサヨナラ公演「翔け、黄金の翼」の中で、平みちがいうセリフがある。「ビクトリオ・アラ
ドーロ、一体、お前に何が起きたのだ!!教えてくれ、一体何が起きたのだ!!」
これを口走ってしまった。「阿部進、一体、お前に何が起きたのだ!! こうなれば目指せ!!
正真正銘の70キロちょっきりを!!」
明日、愛媛農協の集いが松山市外の奥道後ホテルで開催されるため、松山市内で泊る。朝日新聞夕刊のコラム『人』に、花博いのちの塔館長の私のこ
とが出た。写真入りである。アレレッと思うくらい別人である。髪の毛も黒々としていて、何といっても、デブリのカバではない。知人たち、それにテレ
ビなどで私を見ている人たちは驚くのではないか。いずれにしても反響が楽しみである。
この写真は取材にみえた記者の人が写してくれたものだ。水、塩、しっかりとって寝た。