忘れもしません。
それは、高校2年生の運動会での出来事でした。
そのとき、僕は生まれて初めて、自分が女性にモテないという現実を眼前に突きつけられました。
高校2年生のとき、飛び抜けてハンサムな友人(男前とかイケメンというより、文字通りハンサムなのです)ができました。
名前を仮に、ハセガワ君とします。
ハセガワ君は、ハンサムである上に性格も良く、しかも信頼できる男でした。
いま思えば、はじめから気付き、覚悟すべきだったのです。
『こいつはモテる。おれはモテない』と…。
しかし、残念ながら人より精神年齢の発育が遅かった僕は、『こいつハンサム野郎だな』くらいにしか考えなかったのです。
悲劇の予兆は、ありました。
放課後、クラス内で運動会の準備をしていたときです。
ある女子が言いました。
『ハセガワ君って、本当にカッコ良いよね』
それを皮切りに、他の女子2人も口を揃えて言い出しました。
『ほんとほんと。もう近くにいるだけでも嬉しくなっちゃうよね』
『話しかけてくれたりしたら、サイコーに嬉しいもの』
そのとき、彼女らの近くには、僕しかいませんでした。
黙々と作業をしながら、僕は思いました。
『ヘー。ハセガワってやっぱりモテるんだな』
当時のバカな僕は、やっぱりなんにも気がつきませんでした。
そして、悪夢の運動会当日がやってきました。
僕とハセガワ君は、“すぐに終わるから”という非常に消極的な理由で、50m走へのエントリーを希望しました。
運動場のど真ん中で行われる花形の400mリレーなどと違い、応援席の裏側でひっそりと行われる50m走は基本的に不人気で、太陽が似合う男・ハセガワ君と僕は、あっさりとその出場権を獲得しました。
いざ50m走の本番となり、僕たちは入場門からスタートラインへと駆け足で走っていったのですが、どうもゴール地点の様子がおかしいのです。
予想以上に、というか異常にゴール地点に女子の数が多いのです。
僕やハセガワ君と同じクラスの女子は、ほとんどがゴール地点に集結しています。
『なんか変だな』
愚かすぎる僕は、それでも事態の意味に全く気がつきませんでした。
ともかく、予選が始まりました。
僕とハセガワ君は、同じ組で走る事になりました。
『マジで走るわけないよな』などと言い合っていたにもかかわらず、スタートラインに並ぶと同時に男の本能が騒ぎ、スタートの合図が鳴ったとき、僕たちは本気で走り出しました。
10m、20m、30m…。
ナイスガイのハセガワ君は実はそんなに脚が速くなく、逆に日陰者の僕はそこそこ脚が速く、気がつけば僕は2位でゴールしていました。
ゴール直前、僕は、確かにクラスの女子たちの熱狂的な声援を耳にしました。
『ハセガワ君がんばってー!』
気が動転しているうちに50m走の予選は終わり、時間を空けて行われる決勝の前に、僕たちは一旦退場することになりました。
退場門の向こう側には、沢山の女子たちが待ち構えていました。
彼女らは、口々に叫びました。
『ハセガワ君カッコ良かった!』
『ハセガワ君サイコーだったよ!』
なかには、こんなことを叫ぶ女子までいました。
『ハセガワ君、速かったよ!』
いやいや、待て待て。お前ら落ち着け。
ハセガワがカッコ良いのはわかる。オレも知っている。
でも、“速かった”は違うんじゃないのか?
ハセガワ君は、8人中の6位でした。もちろん、予選落ちです。
対して、僕にねぎらいの言葉をかける女子は、1人もいませんでした。
ハセガワ君に群がる女子どもの瞳には、決勝への出場キップを手にした僕の姿は石ころくらいにしか映っていなかったのです。
そのときです。
茫然自失の僕に気がついたのか、ある女子が1人だけ、ようやく声をかけてくれました。
普段から仲良くしていた、Kさんでした。
Kさんは、僕にこう言いました。
『でも、Milltz君も、そこそこ速かったよ』
僕は気を失い、その場に倒れてしまいました。
ちなみに、その後行われた50m決勝のゴールに、クラスの女子たちの姿はありませんでした。
いまは疎遠となってしまったハセガワ君へ。
相変わらずモテませんが、僕はいま、なんとか頑張っています。
-------------
今日の映画:タクシードライバー マーティン・スコセッシ監督
ロバート・デ・ニーロの狂気は必見です。
それは、高校2年生の運動会での出来事でした。
そのとき、僕は生まれて初めて、自分が女性にモテないという現実を眼前に突きつけられました。
高校2年生のとき、飛び抜けてハンサムな友人(男前とかイケメンというより、文字通りハンサムなのです)ができました。
名前を仮に、ハセガワ君とします。
ハセガワ君は、ハンサムである上に性格も良く、しかも信頼できる男でした。
いま思えば、はじめから気付き、覚悟すべきだったのです。
『こいつはモテる。おれはモテない』と…。
しかし、残念ながら人より精神年齢の発育が遅かった僕は、『こいつハンサム野郎だな』くらいにしか考えなかったのです。
悲劇の予兆は、ありました。
放課後、クラス内で運動会の準備をしていたときです。
ある女子が言いました。
『ハセガワ君って、本当にカッコ良いよね』
それを皮切りに、他の女子2人も口を揃えて言い出しました。
『ほんとほんと。もう近くにいるだけでも嬉しくなっちゃうよね』
『話しかけてくれたりしたら、サイコーに嬉しいもの』
そのとき、彼女らの近くには、僕しかいませんでした。
黙々と作業をしながら、僕は思いました。
『ヘー。ハセガワってやっぱりモテるんだな』
当時のバカな僕は、やっぱりなんにも気がつきませんでした。
そして、悪夢の運動会当日がやってきました。
僕とハセガワ君は、“すぐに終わるから”という非常に消極的な理由で、50m走へのエントリーを希望しました。
運動場のど真ん中で行われる花形の400mリレーなどと違い、応援席の裏側でひっそりと行われる50m走は基本的に不人気で、太陽が似合う男・ハセガワ君と僕は、あっさりとその出場権を獲得しました。
いざ50m走の本番となり、僕たちは入場門からスタートラインへと駆け足で走っていったのですが、どうもゴール地点の様子がおかしいのです。
予想以上に、というか異常にゴール地点に女子の数が多いのです。
僕やハセガワ君と同じクラスの女子は、ほとんどがゴール地点に集結しています。
『なんか変だな』
愚かすぎる僕は、それでも事態の意味に全く気がつきませんでした。
ともかく、予選が始まりました。
僕とハセガワ君は、同じ組で走る事になりました。
『マジで走るわけないよな』などと言い合っていたにもかかわらず、スタートラインに並ぶと同時に男の本能が騒ぎ、スタートの合図が鳴ったとき、僕たちは本気で走り出しました。
10m、20m、30m…。
ナイスガイのハセガワ君は実はそんなに脚が速くなく、逆に日陰者の僕はそこそこ脚が速く、気がつけば僕は2位でゴールしていました。
ゴール直前、僕は、確かにクラスの女子たちの熱狂的な声援を耳にしました。
『ハセガワ君がんばってー!』
気が動転しているうちに50m走の予選は終わり、時間を空けて行われる決勝の前に、僕たちは一旦退場することになりました。
退場門の向こう側には、沢山の女子たちが待ち構えていました。
彼女らは、口々に叫びました。
『ハセガワ君カッコ良かった!』
『ハセガワ君サイコーだったよ!』
なかには、こんなことを叫ぶ女子までいました。
『ハセガワ君、速かったよ!』
いやいや、待て待て。お前ら落ち着け。
ハセガワがカッコ良いのはわかる。オレも知っている。
でも、“速かった”は違うんじゃないのか?
ハセガワ君は、8人中の6位でした。もちろん、予選落ちです。
対して、僕にねぎらいの言葉をかける女子は、1人もいませんでした。
ハセガワ君に群がる女子どもの瞳には、決勝への出場キップを手にした僕の姿は石ころくらいにしか映っていなかったのです。
そのときです。
茫然自失の僕に気がついたのか、ある女子が1人だけ、ようやく声をかけてくれました。
普段から仲良くしていた、Kさんでした。
Kさんは、僕にこう言いました。
『でも、Milltz君も、そこそこ速かったよ』
僕は気を失い、その場に倒れてしまいました。
ちなみに、その後行われた50m決勝のゴールに、クラスの女子たちの姿はありませんでした。
いまは疎遠となってしまったハセガワ君へ。
相変わらずモテませんが、僕はいま、なんとか頑張っています。
-------------
今日の映画:タクシードライバー マーティン・スコセッシ監督
ロバート・デ・ニーロの狂気は必見です。