やはり羽生善治のファンならそういう気持ちになるに違い無い。

 

 

「ちょっとほっとしてます」

 

終局後、羽生はそう語っていた。羽生を応援するファンの多くもまた、同じ気持ちだったかもしれない。

 

これまで羽生九段は藤井聡太相手に分が悪い。もちろん全棋士の中でも圧倒的な強さを誇る藤井だから苦戦するのも当然なのだが、にしてもどうやら相性の悪さというものが有りそうだと思えるほど、勝てない。往年の羽生善治の強さを知るファンとしてはどうにも納得の行かない有り様だ。

 

昨年、29期もキープし続けたトップ棋士10人で構成される「A級」から陥落し、2021年度の成績は勝率4割を下回った。通算勝率7割を誇る羽生には決して似つかわしくないこの結果に、誰もが「もしかしてこれで終わってしまうのだろうか・・・」と大いに不安になったはずだ。

 

それが2022年度に入ってからは華麗な復活を遂げ、勝率6割越えで王将戦リーグも全勝で制して今シリーズに至るのだから、古くからのファンにとっては涙ものである。

 

もちろん、天下の藤井相手に羽生の苦戦もやむなしと心得ているから、ほっとしたという心境は羽生九段と同じくらいにファンのものでもあるのだろう。

 

さて、ここからは王将戦にまつわる「罰ゲーム」の話。

 

王将戦が創設された当初は「指し込み」という残酷な規定が設けられており、実際に施行されていた。途中で3番差をつけられた側は敗退が決まり、さらに以降の対局は「半香」(平手と香落を1局ずつ交互)に指し込まれて、最後の7局まで指し続けなければならない。香落番では下手(したて)の立場となり、相手に香を落とされ「駒落」のハンディをつけられるのは、敗者に鞭を打つ、真の意味での「罰ゲーム」だったといえる。 

 

この罰ゲームは流石にプロ棋士のプライドを打ち砕くヒドイ仕打ちwだったようで、のちに改められることになった。

 

「指し込み」については、あまりの過酷さにのちには4番差に改められ、実際に香落が指されることはなくなった。代わりに現在の王将戦では、将棋ファンの間で「勝者罰ゲーム」とも言われる、面白いシチュエーションでの撮影が名物となった。

 

日常、笑いとは無縁のプロ棋士たち。心身をすり減らして戦いに挑む、まるで武士のような彼らの姿を見守るファンとしては、勝者罰ゲームのような「ほっとする」企画は大歓迎である。

 

それが羽生九段のような真のレジェンドに降りかかる罰だとすれば、なおさらだ。

 

 

束の間の「おふざけ」に、心も体も休めてもらいたい。まさか「並んだたこ焼きが駒に見えた」なんてことがありませんように。