まだ中盤戦ではあるものの、昨日の王将戦第2局一日目の封じ手直前の攻防で見られた羽生九段の一着は、かつて彼がまだ駆け出しの「五段」当時にNHK杯で加藤一二三九段相手に指した伝説の5二銀にも似た迫力が有る。

 

 

1日目午後の戦いで、藤井陣に攻め込む羽生九段に、検討陣が誰も気づかなかった「異次元の手」が飛び出した。59手目の「8二金」がその一手。立会の谷川浩司十七世名人も「重い感じになる手だが、藤井王将の持ち駒に、守備に働く駒がないのも見た一手。私も考えつかない」と感嘆していた。 

 

「8二金」は、攻めている場所と逆の、離れた位置に金を打ち込んだ手で、大盤解説会場では「オオー」と、この日最大のどよめきが起きた。人工知能(AI)は推奨していたものの、稲葉陽八段は「これはさすがにないのでは」と話したばかりで、稲葉八段と東和男八段は「異次元の手」「この場で考えた手ではないですね」と驚いていた。

 

大変苦手とする藤井王将が相手だとしても、この第2局の展開は羽生九段にとって少しは明かりが見えている状況なのではないだろうか。

 

今や中年の星とも言える羽生九段。まだまだ輝きを失って欲しくないものだ。