化学で、「与えられた分子の光学異性体は何種類あるか」という問題があります。この記事では、光学異性体の個数を数えるための公式を、できるだけ一般的の分子に適用できる形で提示し、さらにその根拠として数学的な証明をつけることを目指します。
以下とくに断らない限り、Gは3次元空間における図形を表すとする。
定義1.(図形の相等)
図形Gを、回転および平行移動だけを用いて図形Fと重ねることができるとき、G=Fと書く。G=FでないときG≠Fと書く。
定義2.(図形の面対称性)
Gは、Gを通るある平面に関して対称であるとき、面対称であるという。
定義3.(キラル)
Gを、Gと共通部分をもたない平面Pに関して対称移動した図形をG’とする。
G≠G’であるとき、Gはキラルであるという。
つまり、キラルとは、鏡像と重ね合わせられない図形である。
注意(キラルがwell-definedであること)
Gが、Gと共通部分をもたない“ある”平面Pに関する対称移動で不変ならば、Gは、Gと共通部分をもたない“任意の”平面に関する対称移動で不変である。これは、日常生活における“鏡”を考えてみれば明らかである。
また、定理(アキラルの特徴づけ)の証明の中で述べるが、本当は、対称の面はGと共通部分をもってもよい。ここでは日常的な鏡をイメージして、とりあえず「共通部分をもたない」としている。
定義4.(アキラル)
Gを平面に関して対称移動した図形をG’とする。
G=G’であるとき、Gはアキラルであるという。
つまり、アキラルとは、鏡像と重ね合わせられる図形である。
定理1.(アキラルの特徴づけ)
Gがアキラルであるための必要十分条件は、Gが面対称であることである。
証明
Gが、Gを通る平面Pに関して対称であるとする。
Gを平面Pで2つに分ける。平面Pを境界にして一方の側にある部分をG1、もう一方の側にある部分をG2とする。
Gの面対称性より、G1は平面Pに関して対称移動するとG2と重なる。「定義(キラル)の注意」で述べたのと同じ論法で、G1と共通部分をもたない任意の平面に関して、G1を対称移動したものはG2と重なることがわかる。また同様に、G2を対称移動するとG1になる。したがって、任意の平面に関して、Gを対称移動してできる図形は、G1とG2からなるので、G自身である。
よって、Gはアキラルである。
逆に、Gがアキラルであるとする。あるGを通らない平面Qに関して、Gは対称である。GをQに平行でGを通る平面PでG1、G2に分ける。Gのアキラル性より、G1をQに関して対称移動したものはG2に等しい。同様にG2をQに関して対称移動したものはG1に等しい。よって、GはPに関して対称である。□
定義5.(分子モデル)
キラルな図形を頂点にもち、それらを結ぶ辺をもつグラフで次の条件を満たすものを分子モデルという。
条件1 どの頂点も辺によって他の頂点と結ばれている(孤立した頂点はない)
条件2 どの辺も異なる2つの頂点を結ぶ(端に頂点のない辺はない)
条件3 3つ以上の辺がつながっている頂点はない(直線状のグラフ)
また、そのキラルな図形一つひとつを分子モデルのキラル部分という。キラル部分をn個もつ分子モデルをn-モデルという。
注意1
化学における分子をイメージしている。キラル性の情報を持たせつつ、炭素原子だけにしたようなものである。
注意2
「アキラルな部分がある分子は考慮しないのか」という疑問があるかもしれない。光学異性体が問題になるような分子では、光学異性体の個数を調べるだけなら、アキラルな部分は無視してかまわない(「ない」と思ってよい)場合がほとんどだと思われるので、簡単のためキラル部分しかもたない分子モデルを考える。
注意3
証明の簡略化のため直線形以外のグラフは扱わない。しかし、光学異性体が問題になる様な分子ならば、同様の考え方で直線形以外のものにも同じ結果が成り立つと期待できる。
例
化学における

は、キラル部分を2つ持つので2-モデルが対応する。
定義6.(光学異性体)
Gを分子モデルとする。Gのキラル部分のうちいくつかを、面対称移動した図形で置き換えることによってできる分子モデルG’で、G’≠GとなるものをGの光学異性体という。
定義7.(メソ体)
分子モデルGがキラル部分をもつとする。Gを通らない平面に関してGを対称移動してできる分子モデルG’がG’=Gを満たすとき、Gはメソ体であるという。
定理2.(光学異性体の個数)
2n-モデルの光学異性体の個数は、自分自身も含めて、
個
証明
ステップ1
2n-モデルの光学異性体の個数は高々
個
である。
これは、各キラル部分が2個ずつ光学異性体をもつことからわかる。
ステップ2
2n-モデルの光学異性体のうちメソ体であるものは
個
であることを示す。
分子モデルはメソ体であるならば、メソ体の定義およびアキラルの定義より、アキラルな図形である。よって、「定理1.(アキラルの特徴づけ)」より、メソ体は面対称な図形である。対称の面をPとする。Pを境界にしてキラル部分はn個ずつに分かれる。面対称な分子モデルの個数は、n個のうち1個を固定して後のキラル部分について数えればよく、
個
である。
ステップ3
以上より、ステップ1で数えたうち、重複して数えているメソ体の分を除くことで、光学異性体の個数は
個
である。□
定理3.(光学異性体の個数)
2n-1-モデルの光学異性体の個数は、自分自身も含めて
個
証明
キラル部分が奇数個のときは、面対称になりえないので、光学異性体の中にメソ体はない。□
以下とくに断らない限り、Gは3次元空間における図形を表すとする。
定義1.(図形の相等)
図形Gを、回転および平行移動だけを用いて図形Fと重ねることができるとき、G=Fと書く。G=FでないときG≠Fと書く。
定義2.(図形の面対称性)
Gは、Gを通るある平面に関して対称であるとき、面対称であるという。
定義3.(キラル)
Gを、Gと共通部分をもたない平面Pに関して対称移動した図形をG’とする。
G≠G’であるとき、Gはキラルであるという。
つまり、キラルとは、鏡像と重ね合わせられない図形である。
注意(キラルがwell-definedであること)
Gが、Gと共通部分をもたない“ある”平面Pに関する対称移動で不変ならば、Gは、Gと共通部分をもたない“任意の”平面に関する対称移動で不変である。これは、日常生活における“鏡”を考えてみれば明らかである。
また、定理(アキラルの特徴づけ)の証明の中で述べるが、本当は、対称の面はGと共通部分をもってもよい。ここでは日常的な鏡をイメージして、とりあえず「共通部分をもたない」としている。
定義4.(アキラル)
Gを平面に関して対称移動した図形をG’とする。
G=G’であるとき、Gはアキラルであるという。
つまり、アキラルとは、鏡像と重ね合わせられる図形である。
定理1.(アキラルの特徴づけ)
Gがアキラルであるための必要十分条件は、Gが面対称であることである。
証明
Gが、Gを通る平面Pに関して対称であるとする。
Gを平面Pで2つに分ける。平面Pを境界にして一方の側にある部分をG1、もう一方の側にある部分をG2とする。
Gの面対称性より、G1は平面Pに関して対称移動するとG2と重なる。「定義(キラル)の注意」で述べたのと同じ論法で、G1と共通部分をもたない任意の平面に関して、G1を対称移動したものはG2と重なることがわかる。また同様に、G2を対称移動するとG1になる。したがって、任意の平面に関して、Gを対称移動してできる図形は、G1とG2からなるので、G自身である。
よって、Gはアキラルである。
逆に、Gがアキラルであるとする。あるGを通らない平面Qに関して、Gは対称である。GをQに平行でGを通る平面PでG1、G2に分ける。Gのアキラル性より、G1をQに関して対称移動したものはG2に等しい。同様にG2をQに関して対称移動したものはG1に等しい。よって、GはPに関して対称である。□
定義5.(分子モデル)
キラルな図形を頂点にもち、それらを結ぶ辺をもつグラフで次の条件を満たすものを分子モデルという。
条件1 どの頂点も辺によって他の頂点と結ばれている(孤立した頂点はない)
条件2 どの辺も異なる2つの頂点を結ぶ(端に頂点のない辺はない)
条件3 3つ以上の辺がつながっている頂点はない(直線状のグラフ)
また、そのキラルな図形一つひとつを分子モデルのキラル部分という。キラル部分をn個もつ分子モデルをn-モデルという。
注意1
化学における分子をイメージしている。キラル性の情報を持たせつつ、炭素原子だけにしたようなものである。
注意2
「アキラルな部分がある分子は考慮しないのか」という疑問があるかもしれない。光学異性体が問題になるような分子では、光学異性体の個数を調べるだけなら、アキラルな部分は無視してかまわない(「ない」と思ってよい)場合がほとんどだと思われるので、簡単のためキラル部分しかもたない分子モデルを考える。
注意3
証明の簡略化のため直線形以外のグラフは扱わない。しかし、光学異性体が問題になる様な分子ならば、同様の考え方で直線形以外のものにも同じ結果が成り立つと期待できる。
例
化学における

は、キラル部分を2つ持つので2-モデルが対応する。
定義6.(光学異性体)
Gを分子モデルとする。Gのキラル部分のうちいくつかを、面対称移動した図形で置き換えることによってできる分子モデルG’で、G’≠GとなるものをGの光学異性体という。
定義7.(メソ体)
分子モデルGがキラル部分をもつとする。Gを通らない平面に関してGを対称移動してできる分子モデルG’がG’=Gを満たすとき、Gはメソ体であるという。
定理2.(光学異性体の個数)
2n-モデルの光学異性体の個数は、自分自身も含めて、
証明
ステップ1
2n-モデルの光学異性体の個数は高々
である。
これは、各キラル部分が2個ずつ光学異性体をもつことからわかる。
ステップ2
2n-モデルの光学異性体のうちメソ体であるものは
であることを示す。
分子モデルはメソ体であるならば、メソ体の定義およびアキラルの定義より、アキラルな図形である。よって、「定理1.(アキラルの特徴づけ)」より、メソ体は面対称な図形である。対称の面をPとする。Pを境界にしてキラル部分はn個ずつに分かれる。面対称な分子モデルの個数は、n個のうち1個を固定して後のキラル部分について数えればよく、
である。
ステップ3
以上より、ステップ1で数えたうち、重複して数えているメソ体の分を除くことで、光学異性体の個数は
である。□
定理3.(光学異性体の個数)
2n-1-モデルの光学異性体の個数は、自分自身も含めて
証明
キラル部分が奇数個のときは、面対称になりえないので、光学異性体の中にメソ体はない。□