空集合の記号の書き方についてです。


空集合の記号は、大雑把に言うと、

 「まる」を「斜め棒」あるいは「縦棒」で貫いた

形をしています。
ギリシャ文字の「ファイ(大文字Φ、小文字φ)」に似ていますが、
同じものなのかどうかはよく知りません。
本によって、特殊な記号を使っているものもあれば、
ギリシャ文字を使っているものもあり、いろいろです。


手元にある数Aの教科書(数研、最近、旧課程、筆者が高校のとき使っていたもの)
では、に斜め棒が入った

のような記号が使われています。
サンセリフ書体というのか、線の太さはどこでも一定で、教科書の文字の中では
“浮いた”存在になっています。

大学数学の教科書では、たとえば、内田伏一著『集合と位相』(裳華房、1986年)では、
上の記号を斜体にしたような記号が使われています。
ラテン文字「オーO」の大文字のイタリック(斜めった書体)に斜線を入れた感じです。
線の太さは変化があります。(普通の「オー」と同じで、縦線が太く横線が細い)


これらの本では、空集合の記号を、ギリシャ文字の「ファイ」とは違う記号として
扱っているようです。


一方、ギリシャ文字を使っている本もあって、

森毅著『現代数学と数学教育』(裳華房、昭和51年)では、
ギリシャ文字「ファイ」の大文字の斜体Φを使っています。

また、高校の参考書ニューアクションαでは、
ギリシャ文字「ファイ」の小文字φになっています。



筆者の推測ですが、空集合の記号にはだいたい次のような事情が
あるように思われます。

①空集合の記号は、本当はギリシャ文字とは違う記号だったが、
 印刷するときに特別な活字がなかったり、使うのが面倒な場合は、
 ギリシャ文字の「ファイ」で代用することが多い。

あるいは、

②空集合の記号はとくに決まりがなく、ギリシャ文字の「ファイ」を
 使ってもよいが、教科書等などで空集合の記号を際立たせたいときは、
 特別な活字を使っている。

これらはあくまで推測でしかないですが、確かなのは、
空集合の記号は本によって、特別な記号を使っているものもあれば、
ギリシャ文字を使ってるものもあるということです。


また、数学の現代的な記述の仕方の元祖となった本で、
ブルバギ著『数学原論』というのがありますが、
ブルバギでは、ギリシャ文字ではなく、「まる」か「ゼロ」を斜め棒が貫いた
記号を使っていたと思います。
空集合の記号を開発したのが、ブルバギだったような気がする(すごく曖昧な記憶ですが)
ので、もとはファイではなかったのだと思います。(また確認します)
しかし、ブルバギをよく知ってるはずの森毅がファイの大文字Φを使ってるので、
結局どちらでもいいんじゃないでしょうか。


そういうわけで、
手で書くときも、それっぽいものが書けていれば問題ないと思いますが、
一応具体例を図で挙げておきます。
手で書くときは、たとえば、

のような感じです。
とくに、こう書きなさいと言われたこともないし、こう書いて注意されたこともないので、
「まる」を「斜め棒」か「縦棒」が通ってたら大丈夫だと思います。
ただし、「棒」が“右下がり”になっているものは見たことがないので、
“右下がり”は止めた方がいいと思います。(下図)

あと、「まる」は、筆者の教科書ではでしたが、
“まんまる”でなく“少し縦長のまる”で書く人の方が、筆者の経験上は多いです。
横につぶれた「まる」になっているのは、見たことがありません。



最後に、ギリシャ文字「ファイ」の書き方について書いて、終わります。

のような感じです。
書き順は、あまり気にしなくていいと思いますが、
「まる」を先に書いて、次に「棒」を書くのが正しい書き順のはずです。
大文字のセリフ(「棒」の両端にある短い線)は、なくてもいいかもしれませんが、
小文字と区別するために付けた方がいいと思います。「アイI」にセリフを付けるのと
同じようなもんです。

小文字は、“二画”のやつと“一筆書き”のと二種類あって、
空集合の記号としては、もっぱら二画(上図左側のもの)を使います。
一筆書きのものは、「小文字のファイ」を使いたいけど、空集合とごっちゃになるのを
避けたい、というときに使います。
一筆書きの「ファイ」は、関数を表すときなどに使います。(fとかgみたいなもんです)