複素数という言葉は、はじめて聞くと大変違和感を感じる。
それまで、自然数、整数、有理数、無理数、実数と習ってきたわけだが、
これらは、ある程度納得がいく命名であった。
自然数は、「自然」の「数」ということで、
「自然の数?」の意味がわからないにしても、
「自然」、「数」ともによく知られた日本語であるから、
そういう言葉があるんだな、ということはわかる。
整数、実数は、
「漢字一文字」+「数」だから、熟語、用語としてすっきりしており、
ちょっと意味はわからないにしても、受け入れられる。
有理数、無理数は、上記のような納得の仕方はできないが、
対になっているから、まあ許せる。
しかし、複素数は、おかしい。
まず、素数となにか関係があるんじゃないかという疑問が生じる。
しかし、実際は素数と関係はないので、じゃあなんで「素数」って
ついてるんだ、とイライラする。
それに、「複素」という言葉はないので、意味不明に三つの文字が
並んでおり、理解に苦しむ。
なんで、こんな言葉ができたのだろうか。
あるいは、なぜこんな訳語になったのだろうか。
F.クラインの『高い立場からみた初等数学』によると、
ガウスが、「虚」ということばの代りにより明確な「複素」ということばを
提案し、その後実際に用いられてきた
らしい。
ガウスは、ドイツ人なので、複素数のドイツ語を調べてみると、
複素数はKomplexe Zahlであった。
英語のcomplex numberと大差ないと思ってよいだろう。
Komplexは、「複合した、入り組んだ」という意味である。
Zahlは、「数」である。
筆者のいた高校の先生によると、整数全体を表す記号Zはこれに由来するらしい。
ここまでわかったところで、
Komplexe Zahlを訳すとしたら、どうなるだろうか。
複合数?
手持ちの情報からすると、こんなところか。
しかし、現実には、「複素数」と訳されている。
「複素」あるいは特に「素」という言葉はどこから出てきたのか。
「素」を漢字辞典で調べてみると、
「はじめ、原料、前もって、、、」などなどの意味が載っているが、
どうもしっくりくるのがない。
そこで、さっきの『高い立場から~』をもう少し読むと、
複素数は、単位をiよりも増やしたものを考えることができる、
と書いてあり、そのようなものを「高次の複素数」と呼んでいる。
上図青囲みのように、
単位(1とかiとか)が、1とiのものが、
高校で習う、普通、複素数と呼ばれているもので、
そういえば、iには、虚数単位という名前がついていた。
上図緑囲みのように、
単位が3個以上あるものが、「高次の複素数」である。
そうすると、複素数と言うのは、単位が2個以上ある数のことだ
と考えられる。
単位が一個、すなわち、1しかないやつは、もちろん実数である。
すると、「素」とは単位のことではないか、と思える。
漢字辞典に戻ってみると、やはりピッたと来る意味は載ってないものの、
熟語には、単位に意味的に近いものがある。
化学で出てくる「元素」や、(高校では出てこないが)電気回路で使う
「素子」における、「何かのもとになるパーツ」という意味が、単位に近い。
敢えて言ういなら、「原料、もと」だろうか。
以上のことから、
複素数というのは、パーツ「素」が、2個以上「複数」ある数
という意味であると思われる。
そうすると、
iは、虚数単位じゃなくて、虚数素とか、虚素とか呼べば、
整合性があるような気がするが、語呂が悪い。