高校数学では、実数を、数の標準として話が進んでいきますが、

ここでは、行列を、数の標準として、

関数、方程式、微積分などを考えていきたいと思います。




まず、数というからには、算法があるはずです。

実数には、足し算、引き算、掛け算、割り算がありました。


行列はどうだったかというと、

足し算、引き算、掛け算がありました。

それと、行列同士ではないですが、スカラー倍というのもありました。


まず、割り算がないというのは、大きい気がします。

割り算ができないと、まず問題なのは、微分ができないことです。

微積分といえば、数Ⅲ≒微積分というくらい重要度が高い概念ですから

これができないのは困ります。ブタネコ


   ブタネコ実は、割り算(分数)を使わずに定義する微分もある。

     行列にも援用できるはずだが、まだ実際にやってみたことはないので、

     今はあまり立ち入らない。


しかし、よく考えてみると、

行列も割り算ができなくはありません。

教科書で「割り算」としては出てこないし、「割り算はできない」と教わるのですが、

割り算とは、逆数を掛けることなので、

逆行列のある行列(正則行列と呼ぶ)で割ることはできます。


たしかに、逆行列をもたない行列がたくさん存在することは問題ですが、

実数も0では割れないのですから、

行列の世界には、0が何種類もあるのだと思えば、なんとかなりそうです。



そこで、これからは逆行列があるかないかということを

積極的に使ってい着たいと思います。

そのため、逆行列を持つかどうか判定できることが求められます。

よって、行列は2次正方行列に限って話を進めたいと思います。

最終的には、どんな行列にも通用することをやりたいですが、

とりあえず、簡単なところから考えます。


行列Aが正則かどうかの判定法は、デターミナントうお座を取ることでした。

すなわち、「detA≠0 ⇔ Aは正則 ⇔ Aは逆行列を持つ」 でした。


   うお座教科書にはないかもしれませんが、

     Aの行列式のことをデターミナント(determinant)といい、detAで表します。

     determineは英語で決定するという意味なので、

     detAが、Aが正則かどうかを決定するというニュアンスと思っていいと思います。たぶん。


デターミナントが出てきたからには、

もう一人登場しいただきたい方がおられます。

それは、トレースです。

trAと書き、Aの対角成分((1,1)成分と(2,2)成分)の和のことです。

トレースはたしかtraceと書くんだったと思いますが、跡?ということなんでしょうか。

なんでこの名前なのか、詳しいことは聞いたことがありません。

「トレースとか知らん」という人もいるかもしれませんが、

ケーリー・ハミルトンの定理に出てきます。


  CH定理 : p=trA,q=detA ならば A^2-trA・A+detA・E=O


このように。

覚え間違いがあると嫌なので、証明しておきます。


A=(a b  とすると、

   c d)

A^2=(aa+bc ab+bd , trA=a+d, detA=ad-bc であるから、

     ac+cd bc+dd)

左辺=(aa+bc-(a+d)a+ad-bc  ab+bd-(a+d)b

     ac+cd-(a+d)c       bc+dd-(a+d)d+ad-bc)

   =(0 0

     0 0)                                  □ペンギン



   ペンギン証明が終わると□を書いて喜ぶ風習があります。



ちなみに、Eは単位行列ねこへびです。

E=(1 0  です。

   0 1)


   ねこへび行列単位というのもある。

     (1 0 , (0 1 , (0 0 , (0 0

      0 0)   0 0)   1 0)   0 1)

     といった人たちのことである。



ちなみに、Oは零行列ヒヨコです。

すべての成分が0である行列のことです。


   ヒヨコ「零」はなんと読むのだろう?

     授業中先生方は「ゼロ」と読んでいるが、本の索引では

     ら行のところに載っているように思う。



で、

デターミナントとトレースは、行列の世界と実数の世界を結ぶ架け橋です。

行列の世界をM、実数の世界をRとすると、

     det          tr

   M → R      M → R

のような図式になっています。


デターミナントの方が複雑なので、魅力的です。

しかし、行列式がなにかと話題になることも多いのに対し、

トレースの話は今のところ聞いたことがありません。

そこで、これから実数界とのつながりがほしくなったら、

できるだけトレースを使うようにしたいと思います。



では、さっそく、トレースの性質を調べましょう。


でも、その前にデターミナントの性質を復習しておきます。


 掛け算に関する線形性 : det(AB)=detA・detB

 交換に関する不変性 : det(AB)=det(BA)

 転置に対する不変性 : det‘A=detA


名前はどうでもいいです。

転置行列はほんとうは、左上に小さくtとかTとかを書くのですが、

ここのワープロでは、そういう技は使えないので、しかたなく「‘」で代用します。


証明は省略しますが、1つ目、2つ目は直接証明するのは面倒ですが、

1つ目さえ証明すれば、2つ目はすぐわかります。



さて、トレースです。

トレースでも類似の性質があるか調べます。


すぐわかるのは、


 足し算に関する線形性 : tr(A+B)=trA+trB


です。これはデターミナントにはない性質です。しかし、


 掛け算に関する線形性 : tr(AB)=trA・trB


は成り立ちません。デターミナントは掛け算に強く、トレースは足し算に強いと

いえるかもしれません。


 交換に関する不変性 : tr(AB)=tr(BA)


は自明ではないですが、成分計算をすれば成り立つことがわかります。


 転置に関する不変性 : tr‘A=trA


は自明でしょう。




トレースについてもうひとつ重要そうな事柄を。


 CH定理の系フグ : Aが正則でないとき、A^n=(trA)^(n-1)・A (nは1以上の自然数)


   フグ系とは、定理を使うと容易にわかる命題のことです。


 証明 : 正則でないならdetA=0. よって、CH定理より、A^2=trA・A.

       これを使うと、nが2以上のとき

         A^n=A^2・A^(n-2)=trA・A・A^(n-2)=trA・A^(n-1)

          (ただし、A^0=Eとする)

       この操作をまたA^(n-1)に施して・・・をくりかえすと、

         A^n=(trA)^(n-1)・A

       となる。

       n=1のときは、CH定理そのまま。             □



正則でない行列は、実数における0のようなもので、割り算ができないが、

代わりに、n乗は、直接計算しなくても、trAのn-1乗を計算すれば事足りることがわかりました。

非正則行列は、扱いにくいばかりではないのです。



n乗が出てきたので、実数にはないものとして、

べき零行列おやしらずに少し触れます。


 定義 : べき零行列とは、A≠O でありながら、 A^k=O なる自然数kが存在する

       行列Aのことをいう。


実数は、0でなければ、何乗したって0になることはありませんが、行列の場合は、

Oでない行列でも、何乗かするとOになってしまうものがあるということです。


   おやしらず「べき」には漢字もあります。羃です。(四みたいな冠)+(幕)です。

     昔は活版印刷だったので、印刷する人のことを考えて、

     字が潰れにくいように巾という字で代用することにした人もいます。



さっきの系で、Aがべき零である場合を考えてみます。

A^k=Oだとすると、系より、(trA)^k・A=O です。

A≠Oなので、(trA)^k=0 ないと話があいません。

trAは実数であり、べき零実数は存在しないので、trA=0。

よって、Aが非正則かつべき零ならば、trA=0 ということがわかりました。

また、このとき A^2=trA・A=O ですから、k=2 ということになります。





今回はこの辺で。