《前回の続き》

 

 

CAD室に配属されて始めにしたことは、当然ながらCADの習得。

 

まだパソコンのOSはMS-DOSのバージョン5.1。

Windowsが出てくる気配すらなく、パソコンを起動しても真っ黒な画面にDOSのプロンプトという表示が映し出されるだけ。

 

 

まずは、CADを起動しないことには線一本すら描けない。

 

そこで、CADの発売元から起動ディスクという5インチのフロッピーディスクを渡され、それを起動と同時にフロッピーを入れるということを教わった。

すると、カチカチと音を立てながら起動ディスクに書かれたコマンドが実行され、トイレに行っている間にCADが起動した。

詳細は忘れたが、その都度おまじないみたいなコマンドを実行し初期画面が出るまでに数分を要したと思う。

 

それから、業務用フロッピーに起動ディスクを差し替え、継続中の図面ファイルを読み込む。

 

そうそう、最初のパソコンはフロッピーディスクを差し込むところが1箇所しかなく、CADが起動したらデータディスクを差し替えていたが、2台目のパソコンからはフロッピーディスクドライブが2段になったので、その都度起動ディスクを抜き差ししなくてよくなり便利になって感動した記憶がある。

断っておくが、その時点でハードディスクにデータを保存するという概念がなく、ハードディスクはOSとソフトしか入っていなかった。

 

とある日、ちょっと上のパソコンに詳しい先輩が言った。

 

 

 

 

先輩:「すぐすむので、ちょっと、そのパソコンを貸してくれないか?

一太郎で書類を印刷したいんだけど。」

 

 

私:「え?私は今、CADを触っているのですが。。。」

 

 

先輩:「だから、ちょっとだけなので、ここしかパソコンがないし。」

 

 

私:「パソコンではなく、私はCADを触っているのですが。。。」

 

 

先輩:「・・・・・」

 

 

 

 

さて、読者の皆さん、この不毛な会話の意味が分かりますか?

 

そうなんです。

私はパソコンを触っているのではなく、CADという機械を触っているものだと勘違いしていたのです。

それまでパソコンを見たことがない私は、よもや自分がパソコンを触っているとは想像もしていませんでした。

 

その後、先輩が私が今、触っている機械がパソコンであることを伝え、やっと私も理解しパソコンを譲りました。

 

数年が経ち、OSもWindows3.1に切り替わり、起動ディスクもなくなりました。

デジタイザーのペン(デジペン)からマウスに切り替わり、CADも某和製CADからAutoCADに切り替わりました。

 

気が付けば、CADオペレータなる職種もでき、設計者はまだ手描きがメインでしたが、徐々にCADも普及しつつあるかのように見えました。

 

この続きの話はまた今度。