季節は巡り冬になった。
出張から大阪に帰るとケイちゃんのいる「ダンボ」や「樹海」を交互に行くような感じに変わっていた。
「ダンボ」の行き帰りはタクシーを使って行った。
いつも4人ではなく、僕と中井さん、僕と小野田さんという組み合わせが多くなった。
「ダンボ」はケイちゃんの他にもう一人若い女の子と陽気なマスターがいた。
繁華街に店を出すだけあって、マスターの会話は洗練されていて盛り上げ上手だった。
1月の終わりに小野田さんと「ダンボ」に行った時に小野田さんが
「寮の中が寒くって、電気ストーブを買おうと思ってるんだ。」
というので、ケイちゃんが、
「ほんなら、家に使ってない電気ストーブがあるから貸してあげようか?」
と言うので、店が終わるまで飲んで一緒に帰る事にした。
小野田さんはずいぶんと酔っていて、ケイちゃんのマンションに行って少し喋ってるうちに寝てしまった。
「ええやんか、少し寝たら起きるで。」
「ごめんね。すぐ帰るつもりだったのに。」
なんだかんだ話すうちに、
「今までジブン(僕のこと)がおらへんかった時に、他のメンバーが飲みに来てくれたり、遊びに来てくれたんや。でも、そんな時に、何か足りんな、何か足りんな、と思ってたんや。それでな、ジブンがおらへんからや、って気がついたんや。ジブンは特別騒ぐ訳でもないし、大声をだす訳でもないんやけど、そこに居るだけでホッとするんや。だからな、それに気がついてからは、いつもオマケ早よ帰ってきいへんかな、早よ帰ってきいへんかな、っていつも思ってたんや。」
思いがけない言葉に驚いてしまった。
「ありがとう。そんな事言われた事がないからビックリした。でも、本当にそうかな。」
「ジブン達のメンバーはわたしも色んな人達と話してきたけど、一番いいメンバーだと思ってるんや。四人それぞれの持ち味は全部違うやんか。でもみんなで一つになってるんや。オマケちゃんもその中でええ味を持ってるんや。以前、中井さんと話してる時に私言ったんや、[オマケは絶対にいいもんを持っている。ただ、あの子自身まだまだ自分の持ち味を分かってないし、伸ばし切ってない。だから中井さんはオマケのそんないいところを引き出してやらにゃあかんのや。もしかするとそれは中井さんより上に行くもんかもしれん。それだけのものがあるんや。だから、それを引き出すまで、時には鬱陶しく思われても、嫌がられても、引っ張り出してあげなあかん。]そう言ったんや。中井さんも、[僕もそう思ってる。]って言ってたわ。」
「そんなの褒めすぎだよー。僕のどこがそんなにいいの?」
「第一にジブンは人を不愉快にさせへんのや。それは凄く大切な事なんや。まあ、うまいこと言えへんけど、わたしは絶対そう思ってる。」
心の底から驚いた。
彼女はただ陽気に騒いでいた訳じゃなかった。
一人一人の人間の中身をしっかり観察していたんだ。
それにしても、自分はそんなに立派な人間ではない。
不愉快な事を言われたら頭にくるし、怠け者だし、頭が固い。
でも、こんな風に自分を励ましてくれた人は初めてだった。
不思議に頭の中のモヤモヤがスッと消えていくような気持ちになった。
ありがとう。
ケイちゃん、君は大切な親友だ。
小野田さんは相変わらずイビキをかいて寝ている。
それからケイちゃんはいろんな話しをしてくれた。
「ダンボ」での悩み、
なんで「樹海」から「ダンボ」に店をかわったのか、
30歳ぐらいの男の人から交際を申し込まれて悩んでいる事、
若尾文子に似た叔母さんの話…。
彼女は心の中にある全てを打ち明けてくれたような気がした。
胸を打たれた…。
いろんな話しを結局朝の6時までしていた。
小野田さんが突然ムックリと起き上がった。
「ごめん、知らん間に寝てた。帰るわ。」
ケイちゃんはニッコリ笑って僕らを見送ってくれた。
僕も笑って手を振って返した。
清々しい気持ちの朝だった。