プールから帰る時、彼女はまた僕を見送ってくれた。

自転車をこぎながら、

彼女の優しさに僕の心は温かくなった。



次の朝、僕は上機嫌で学校に行った。

人は恋をすると、退屈な毎日が一変するものだと僕は初めて知った。

青い空も、道端の花も、生き生きとして輝いて見えた。

そんな風に感じたのは初めてだった。


友達にも笑顔で挨拶ができた。

休み時間に同じクラスの山下と話している時に女の子の話になった。

誰が可愛いか、といった他愛のない話だった。


山下は隣りのクラスの仲井が可愛いと言った。

ショートカットで目のクリッとした女の子で、確かに可愛い子だった。


「 明、お前は誰が可愛いと思う?」


山下に聞かれて


「 あのさ、一組の松本って結構可愛いくない?」


「 え〜、お前趣味悪くないか。あのガリ勉の松本のどこがいいんだ?顔だって真っ黒だしな。」


「 いや….、なんていうか、健康的でいいと思うんだよ。」


「 まあ、人それぞれで好みは違うから、いいけどな。俺はちょっとパスかな。あっ、でもアイツ付き合ってるらしいぞ。」


ドキンとした。


えっ?誰と?

彼女と話した時、そんな話は出なかったけど…


「 生徒会長の二組の三浦だよ。松本も生徒会やってるからかな。優等生同士のカップルってとこだな。まあ、噂だけどな。」


ショックだった…。


噂だけかもしれないけど、

本当かもしれない。



確かに生徒会長の三浦ならお似合いかもしれない。


それに比べて松本と僕では、月とスッポンだ。

学年トップクラスの松本なら、志望校は当然市内最難関のE高校だろう。

僕なんかは逆立ちしたって行けない。

もし僕がE高校を受験したいと言ったら、担任は全力で止めるだろう。


三浦か…。


朝の高揚感はわずかな時間で吹き飛んでしまった。

こんな事なら女の子の話なんかしなければ良かった。

どうせ叶わぬ恋なら少しの間だけでも夢を見させて欲しかった。


暗い気持ちで廊下を歩いていると女の子のかたまりがいた。

あっ、松本だ!

そう思った時に彼女と目が合った。


彼女は一瞬だけ僕に微笑んだ。

でも、次の瞬間にはまた女の子達の会話に戻っていった。


でも僕は嬉しかった。

僕らは秘密を共有した仲間なのだ。

学校では知らないフリをしても、

彼女には付き合ってる人がいても、

僕らは二人だけの特別の存在なのだ。


そう思いたかった。

そう思っていたら幸せだから。



そういえば、昨夜は何故彼女はGパンだったのだろう?


風邪でもひいていたのか?

いや、そんな話はしてなかった。

何故…。


いろいろ考えた末に出た結論は、

彼女は昨夜、「 あの日 」だったのではないかという事だった。

もしそうなら泳げないもんな。

僕だってそれぐらいは分かる。

来年は高校生だからな。


まてよ、もしそうなら

そんな時でも、僕に会いたいと思って来てくれたのではないだろうか。


もしそうなら…

その気持ちだけで充分じゃないか。

数学の授業中、僕はそんな事をずっと考えていた。


「 坂道の途中で、拾ったような恋…」


昨夜聴いたラジオから流れた、歌手もタイトルも分からない歌が、僕の頭の中で流れていた。


そう…

僕の恋は、歩いていて偶然拾った石ころのような恋だ。


でも、いまでは大切な宝石のような石ころだ。

どうなるか分からないけど、

大事にしたいな。


授業中、外の風景を眺めながら

僕はそんな事をボンヤリ考えていた。