去年の夏のことだった
数十年ぶりに中学の同級生だったMからハガキをもらった

Mは僕よりもずっと頭が良くて、いつもテストでは学年で上位に必ず入っているような勉強のできるやつだった
でも冗談が好きでいつも面白い事を言ってはみんなを笑わせるような人気者だった
Mとはいろんな話をしてはよく笑った記憶があった
だが友達だったかと言えば、それほど親しかった訳ではなかった

そんな彼が数十年経ってなんで僕のところにハガキを送ってきたのかは分からなかった

ハガキによると彼は大学を卒業すると中学の教師になり、現在は長野県の山奥の中学校の数学の先生をしているんだそうだ
お盆休みに遊びにこないか、という事だった

なんだか急にMの顔が見たくなって僕は電車に乗って長野県に向かった
小さな田舎の駅を降りると
そこは周りを山に囲まれた自然豊かな何もないようなど田舎だった

駅にはMがライトバンで迎えに来てくれていた
Mはニコニコ笑っていた
「よく来てくれたな、よっちゃん。久しぶり!あまり変わってないな!」

「よっちゃん」は当時の僕の呼び名だった
そのせいか僕らは中学生に戻ったように再会を喜び、はしゃぎ合った
「Mちゃん、お互いに頭は少し寂しくなったけど、頭の中はあまり変わってないな」
「あっはっは、本当だ。本当だな」

Mの車は山の中にどんどん進んで行った
木々の緑が真夏の太陽を和らげてくれた
道の下を流れる谷川の流れが涼しげに感じられた
一時間ほど走った山奥にMの中学校はあった

古い木造の小さな校舎だった
「ここだよ、田舎の分校だから生徒は10人だけなんだ。教室が余ってるからオレはそこで暮らしているんだ。」
校舎に入ると懐かしい匂いがした
まるで自分が小学生に戻ったような気持ちになった
廊下も天井も木でできていた
古い古い校舎だった
よくこんな古い建物がまだ残っているものだ

グランドは広くも狭くもない丁度いい広さだった
そのまわりを囲むように大きな木がたくさん立っていた
真夏なのにあまり暑く感じないのは木陰が多いからなのだろう
グランドには3人の生徒が遊んでいた

「夏休みでも運動場は開放してるから、いつも子供達が遊びに来てるんだ」
Mは嬉しそうに子供達を見つめていた

グランドの風景は素晴らしかった
西の方角には遥か遠方に大きな山があって
それは不思議に郷愁を誘う眺めだった

Mに校舎の中を案内してもらっていると
後ろから子供達が着いてきた
「こら、お前らコソコソせんと、お客さんに挨拶せんか」
Mは笑いながらそう言った

「こんにちは…」
恥ずかしそうな男の子の顔がかわいかった
僕らは教室を改造したMの部屋で昔話に花を咲かせた

ふと窓を見ると外が赤く染まっている
Mが「ちょっと外に出て見ようか」
と言った

Mと一緒に校舎を出た僕は思わず立ちすくんだ
グランドや校舎が鮮やかなオレンジ色に染まっていたのだ
遠くの山に沈みかけた太陽は見たこともないような美しさだった
太陽も空も雲も
美しい不思議なオレンジ色だった

「きれいだな…」

「あぁ、きれいだろ」

Mは夕焼けを見つめたまま微笑んで
そう言った


夕食はMの手作りの料理だった
川で取れた焼き魚や
山菜の煮物だった
「料理上手いじゃないか。しばらくここに居ようかな」
そう言うと、なぜかMは少し寂しそうに笑った

夕食が終わって
僕らは少し酒を飲んだ
中学時代の笑い話で盛り上がっている時に
僕は突然激しい目眩に襲われた

グルグルと回る視界の中に
Mの心配そうな顔が見えた
Mの顔はあのオレンジ色の夕焼けに変わり
僕は今日の出来事をビデオの逆再生のように見ていた

やがて視界が真っ暗になった



次に目が覚めた時
僕は病院のベッドに寝ていた
点滴が僕の腕に刺さっていた


僕は交差点で信号待ちをしていた時に
猛スピードで交差点を曲がった車がスリップして転倒した事故に巻き込まれたのだった
3日の間意識がなかったのだそうだ



思い出した…
Mはもう10年も前に亡くなったのだった
当時Mは中学校の教師だった
だが彼の仕事は多忙を極め、帰宅するのも遅く、帰ってからも持ち帰った仕事を
深夜までこなす毎日だったのだ
そんなある日
Mは家に帰ると玄関で倒れ
そのまま亡くなってしまった
過労による心筋梗塞だったそうだ



あのMからのハガキは何だったのだろう

退院すると僕はそのハガキを探した
しかし、そんなハガキなど勿論無く
あったのは数十年ぶりに開催される中学校の同窓会のハガキだった


僕らが時々、彼らに会いたいと思うように

彼らもまた、
僕らに会いたいと
思うのだろうか…。