埃っぽい真夏の停車場で僕はバスを待っていた

太陽は頭のてっぺんで
容赦ない焼け付くような日差しをジリジリと照りつけていた

熱風が白い砂を舞い上げている
一瞬ハレーションを起こしたように目眩がした

そんな時に
やっとバスがやってきた


いまどき冷房もない珍しいバスで
すべての窓を開け放していても汗が噴き出して止まらないほど暑かった

乗客は老人と赤ん坊を抱いた母親
それに若い女が一人だけだった


若い女はチラチラと僕を覗き込んでいる

一体なんだというのだ

20代中ばぐらいだろうか

ショートカットの勝ち気そうな顔をした可愛い女だった

しかし僕はぶしつけな視線を送られて少し不機嫌になって窓の外を眺めた

バスはゴトゴト山道を越えて緑の木々の中を進んで行った

暑さで意識がだんだんと途切れ
ウトウトしかけた頃に
バスは終点のひなびた海辺の町についた

強い潮の香りに社中は包まれていた


降りたのは老人と若い女それに僕だった


太陽は少し傾き
潮風のせいか暑さも和らいで感じられた

僕はバス停のベンチに座って煙草をふかせた

若い女は僕をじろりと横目で見て
旅行カバンを抱えてどこかへ去って行った


このひなびた海の町に大した目的などなかった

ただ昔付き合っていた女と
一度だけこの海に泳ぎに来た思い出だけがあった


しかしそれも5年も前の事だった


僕は海岸沿いにブラブラ歩きながら
売店で取れたてだという貝とビールを買って砂浜を歩いた

海水浴の人達を避けるようにして誰もいない砂浜まで歩き続けた

夕陽が沈もうとしていた
大きな太陽はオレンジ色のかげろうをまといながら少しづつこの日の仕事を終えようとしていた


僕は波で流れついた木の枝を見つけると
砂浜に昔の女を思い
ラブレターを書いた

あの時に言えなかった言葉をどうしても書いてみたくなった


それから小さな枝を拾い集めて
火を着けて貝を焼いた

パチパチと炎が燃えて
貝が開き
あたりにいい匂いが立ち込めた


人の気配にふと振り返ると
バスの若い女が立っていた

「やぁ」

僕が声をかけると

女は始めて微笑んだ

「一人じゃ食べきれないんだ。一緒に食べてくれないか?」

そういうと女は

「うん」

とうれしそうに笑った


僕らはビールを飲んで貝をつまんだ

女はバスの中の不機嫌そうな顔が嘘のように
よく笑い
よく喋った


いつの間にか周りは暗くなり

満潮の波で

ラブレターは少しずつ消されていった。