それはまだ携帯電話が普及していない頃の遠い昔の話だ


当時付き合っていた彼女は
一つ隣の県に住んでいた

次の休みの日が
ちょうどバレンタインデーだった時に
お互いの中間点で会って
デートしようという事になった

二人が決めた中間点は
名古屋駅前のデパートだった

ところが
当日の14日の朝起きて窓を開けると

一面の銀世界だった

これには困った

とりあえず彼女に電話を入れると

「困ったわ、こっちも10㎝ぐらい積もってるの、きっと電車も遅れるわ、でもチョコ渡したいから、会いたいわ」

僕も同じ気持ちだった

お互いに遅れてもいいから会おうという事にした

しかし
家を出たのはいいが
バスがこない

雪の為に大幅に遅れているのだ
僕の帽子に雪だるまができそうなほど雪が積もった頃

やっとバスが来た

もしかすると
今日はとんでもない日になるかもな…
嫌な予感が頭をよぎった



僕は彼女と初めてデートした日の事を思い出していた

彼女と知り合ったのはあるパーティだった

初めて話すのに昔から知っている友達のように話が弾む女性で
僕らはすぐに意気投合して
電話番号を交換した

何度か電話で話してからデートの約束をした
彼女の家には車で2時間ぐらいかかりそうだった

「デートには僕が迎えにいくよ」

と言うと

「じゃあ明日、速達で私の家の地図を送るわね」

さすがに驚いたが

「うん、待ってるよ」

と笑いながら答えた


次の日の夕方に本当に速達が届いた

僕は速達で自宅の地図を送ってくる女の子を初めて知った


「なんだか、今日のデートも彼女らしいな…」

僕はそんな昔の事を思い出しながらクスクス笑った



バスはいつもの倍の時間をかけて駅に着いた

そしてやっぱり遅れてきた電車に乗って約束の場所についたのは予定を1時間ほど過ぎていた

名古屋の駅前もやはり雪が積もっていた

彼女はまだ来てなかった


僕は彼女を待つ間
雪を集めて小さな雪だるまを2つ作った


彼女はいまどこにいるのだろうか?
もしかすると電車が止まってしまって来れないのではないだろうか?

いろんなことを考えていた

それから40分ほどして彼女がやって来た

僕を見つけると彼女はうれしそうに手を振って小走りにやって来た

はぁはぁ
白い息の彼女はほっぺたを真っ赤にしていた

「お疲れさま。ほら、僕のお土産だよ」

と言って雪だるまを見せると

「わぁ~、凄く可愛い!」

と喜んでくれた


「え~っと、私からはね…あれぇ~」

「どうしたの?」

「やだぁ~、私ったら、家にチョコおいて来ちゃった!」

「おやおや…。よっぽど慌てて出てきたんだね。とにかく暖かい飲み物とご飯でも食べようか」

「うん…ごめんね、どじで…」

近くのちょっと洒落たカフェに入ると
やっと体に温かい感触が蘇ってくるようだった

僕はカフェオレ
彼女はレモンティを飲んだ

「あ~本当にあたしったら何しに来たんだか。情けないよ」

そう言って彼女はアップルパイをつついた

顔を合わせると僕らは笑い合った


カフェのガラス窓の外には太陽が降り注ぎ
積もった雪を眩しく照らしていた



そんなホワイト・バレンタインのデートの次の日に

彼女から
速達でチョコが送られてきた


ふふ

やっぱり楽しいよ

君は。