3月の中旬には会社のバイトがあって
2週間ほど名古屋の配送センターに通いながら
同じ新入社員と一緒に梱包や配達の手伝いをした

ほとんどの新入生が僕より一週間ぐらい早くバイトに来ていた
初めはみんなの話題についていけない孤独感を感じたが
段々と話せる人が増えていって最後には楽しくバイトをすることができた

取っ付きにくいと思っていた奴も共通の話題が見つかると驚くほど打ち解けてくれた
同級生の男はみんないい奴だった

3月の終わりには大学の卒業式があった
だがその直前に風邪をこじらせてしまって最悪の体調で卒業式に出るはめになった

卒業式の式典の間ずっと頭が痛くて
早く帰りたい
早く家で寝たい
そんなことばかり考えていた

式典が終わりサークルで集まった
みんな普段のラフな恰好ではなくスーツや袴姿で別人のようで思わず笑ってしまった

中でもワカメやマルチンの袴姿は可愛かった
プッチの着物姿もきれいだった

それにしても体調が悪くてゆっくり話すどころではなかった
レセプションは無理だから帰ろうと思ったが
アブさんとボッチに勧められて結局出席することにした

だが体調は悪くなる一方でどうにもならなずに途中で帰ることにした

なんてことだ
学生生活の締めくくりをみんなでしみじみと味わおうと思っていたのに
結局それどころではなくなってしまった

フラフラしながら地下鉄、電車、バスを乗り継いでやっと家に帰ると
すぐに寝た

なんてしまらない終わり方だ

でも振り返ってみれば
いい4年間だった
決して有名な大学ではなかったが
校風が自分に合っていたというか
人に対する思いやりのある学生が沢山いて
みんなが学生生活を楽しめるような雰囲気のあるいい大学だった
セツルメントというサークルも自分を人間的に成長させてくれるいいサークルだった
学生生活のほとんどの時間を使ってしまうようなハードなサークルだったが多くの出会いや悩みや喜びが詰まった充実した4年間だった

僕がまた4年間の学生生活を始めることができたとしたら
またセツルメントを4年間やってみたいと迷わず思うだろう



さよなら
僕の通った大学
僕を迎えてくれた学舎
いまは僕も大人になって
大学の門を旅立つ

さよなら
僕の好きなサークル
僕を育ててくれたサークル
いまは僕も成長して
サークルを卒業する

さよなら
僕の愛した人達
僕を愛してくれた人
いまは僕も大人になって
笑顔でみんなに別れを告げる…




4月になると社会人としての新しい生活が始まった
ネクタイをしめて
スーツを着て
1ヶ月の間研修の日々が続いた
配属が決まるのは4月の末だ
一体僕はどこに行くのだろう?



ある日家に帰ると大きな郵便封筒が届いていた

オコシからだった
中には手紙と一枚の色紙が入っていた

色紙には薄い緑色の背景に白い花びらを咲かせた花の絵が描かれていた
手紙は秋に名古屋に遊びに来た時のお礼のようなものだった


「名古屋ではいろいろお世話になり、今も楽しかったなぁー、行ってよかったとつくづく思っております。久しぶりに会ったけど、学生の頃にもどった様な…ことばでは言えないけど…こんな話がしたかった、というような話(わかってもらえるかな…?)ができて本当によかったです。
手紙もうれしかったです。自分の事をこんなふうに考えて下さって、うれしかったです。だけどやっぱり今の自分(まだまだ未熟でダメなところばかり目につきますが)に育ててくれたのはセツルの人達だったなぁ、と改めて感謝したい気持ちになります。もしセツラーに出会っていなかったら、もっと人の気持ちを知らない人、生き方などをふりかえらない人になっていただろうと思います。
ナッツにはやさしさを教えてもらったと思います。話していろんな考えを出した時、一度受け入れてから、相手を知り理解しようというやさしさです。大学を卒業して、それぞれの職について、それぞれの地で、はなればなれになっても、いろんなセツラーのやさしさとか生き方が自分の中で生きていることがすばらしいと思います。
これからはそれらの事を、今度は自分が他の人達に伝えてあげていきたいなと思います。

ナッツ君も元気で
あのやさしさを一人でも多くの人に伝えていってあげて下さい。
下手だけどナッツ君にいろいろお世話になったお礼に絵を描いたので送ります。
フリージアの花です。
受け取って下さい。
本当にありがとうございました。」


読んでいて涙がこぼれた

自分でも気がつかなかった自分のいいところをオコシが見つめていてくれたうれしさと
これでもうオコシとの糸が切れてしまうような予感の寂しさ
それに彼女に最後まで自分の気持ちを伝えることができなかった自分の不甲斐なさに涙が止まらなかった


オコシはどんな気持ちでこの絵を描いたのだろう
なんでフリージアの花なんだろう?

もしかしてフリージアの花言葉に何か意味があるのだろうか

僕は家にある書籍をさばくって花言葉を調べた


【フリージア】
純情、潔白、清香、無邪気


………

………


花言葉は関係ないのかな…


ただ気に入った花を見て
僕の為に描いてくれたのだろうか
それならありがたいことだ

それとも自分のはっきりしない態度に
いい人だけど無邪気で自分のことをどう思っているのか分からない
ということを本当は言いたかったのだろうか


彼女の真意は分からなかったけれど
その絵は僕の大切な宝物になった

額に入れて
いまでもその絵は
大切に保管している。