ライアンとの旅行から帰った翌日にジャンケンパートのコンパがあった
夕方に会場になるアブさんの下宿に行った
もうコンパの準備もできているだろうと思ったら準備どころかいたのはアブさん1人だった
相変わらずみんな名古屋時間だなぁ
アブさんと会うのも久しぶりだった
いろいろと話を聞くと
もう一年名古屋でバイトをしながら教員試験を受けることにしたんだそうだ
それに影響されたのかイワサも決まった就職先の生活協同組合を断ってバイトをしながら教員を目指すことになったということだった
もう一度やり直す決心をしたせいか悩みの取れたすがすがしい顔をしていた
やがてレモンもやって来たので3人で買い出しに行った
今日はすき焼きパーティーだ!
準備を整えて料理を作り始めると
チクワ、ジャケイ、パーマンがやってきた
なかなか美味しいすき焼きだった
もうこんな風にみんなで笑いながら鍋をつつくことも無くなるんだなぁ
と思うと寂しくなった
いよいよセツルとも
大学生活とも別れの時が近づいているんだ
夜にアブさんに布団を敷いてもらってオノロケ話を聞かされた
お母さんが倒れて北海道に帰った時にミッキーから手紙をもらったという
「お母さんが倒れたと聞いて何もしてあげられない自分が悲しい…大須観音でアブさんが名古屋にいられるようにお祈りをしました…」
ふ~ん
いい感じじゃないの
アブさんはもう一年名古屋にいられる訳だし
ミッキーは3年生だからもう一年は大学にいる訳だからいつでも会える
いいよなぁ
布団をかぶりながらアブさんと4年間の思い出を語り合った
僕から見るとアブさんは本当に楽しそうに生き生きと4年間を過ごして来たように見えた
「アブさんを見てると羨ましいなぁ、ってよく思ったよ。悩みもなくてみんなとワイワイやって、いつも笑っててさ」
「よく言うよ、オレなんか思ってることの半分も言えない人間だからさ。ナッツみたいに本能のまま動く人間が羨ましいよ」
「なに言ってんの。口から先に生まれてきたようなあなたが羨ましいよ。女の子にだって鍛えた話術で口説きまくってさ、よくあんだけ話が続くもんだよ」
「いや~、でもナッツも成長したよ。結局彼女はできんかったけど、陰ではオレの知らないところでいろいろやってたんだから。オレ知ってんだから」
「ははは、自分は自分なりに頑張ったつもりだったけどやっぱり力不足だったね」
「ナッツ、コロコロもういっぺん行け!オレの経験からすると一回の失敗は失敗のうちに入らないぞ」
「もう遅いよ。自分がこれからどこに転勤になるのかだって分からないんだから」
「う~ん、そうだなぁ…」
思い出話をすれば一晩中話していても話足りない
でもいつもアブさんは途中で寝てしまう
今回もそうだった
身を乗り出したままの態勢で動かなくなってしまったアブさんに布団をかけてやると僕は1人で4年間を振り返った
アブさんはもしかすると一番僕を助けてくれた人間だったかも知れない
人見知りが激しくてなかなかみんなと打ち解けれない僕のクッション役になってくれたのは彼だった
同じパート員として実践やパート会はもちろん
いつも遅くなると嫌な顔一つしないで下宿に泊めてくれた
僕が4年間セツルが続けられたのは彼がそばにいてくれたからかもしれない
ありがとうアブさん
どんな時も偉ぶることがなく
いつも笑顔でみんなの輪の中心にいて
みんなからは
「アブさんの下宿はナッツの第二のお家だね」
とよく言われた
ちょっとスケベで気に入った女の子には積極的に話しかけて酒が入るとよく口説いていたアブさん
泊めてもらうといま女の子で誰がいいと思うかと必ず話していたアブさん
手抜きも上手くて
見ていて時々腹が立ったけど頼るとブツブツ言いながらでもやってくれたアブさん
アブさんはプロ野球選手になりたくて中学を卒業すると故郷の北海道を出て野球の名門・奈良の天理高校に野球留学した
結局野球で成績を残すことはできなかったけどずっと1人で頑張ってきた
テレビで野球中継をやっていると講義をサボってよくアブさんの下宿で終わるまで見たものだった
酒が好きでギターが好きで歌が好きで
コンパがあるとフォークソングから歌謡曲、演歌までレパートリー豊富に延々と歌っていたアブさん
万年金欠病で吉野家で半額セールがあると3食牛丼をうれしそうに食べていたアブさん
寅さんの映画が大好きでよく映画館に行って観ていた
「オレさぁ、寅さん観てるとナッツを見てるみたいでいつも泣けそうになるんだ。いっつもいいとこでフラれてさぁ」
それが口癖だったけど
誰よりも寅さんそっくりなのはアブさん本人だった
ありがとうアブさん
あなたがいなかったら僕は4年間セツルを続けることはできなかったでしょう
あまりに身近にい過ぎた為に
僕は本当のあなたの素晴らしさに気がつかなかったのかも知れません
誰とでも仲良くなれるあなたを
僕は羨ましく思って
時には落ち込んでいました
女の子と気楽に話せるあなたに嫉妬して
時には疎ましくさえ思ったこともありました
でも結局それは
僕ができないことをアブさんがいとも簡単にしてしまうことへの憧れの裏返しだったのです
ありがとうアブさん
あなたは僕の知らないうちにずっとずっと僕を支え続けてくるたんです
僕は4年間あなたと兄弟のように過ごせた日々を誇りに思います
あなたがいつか教師になれる日を僕も心から応援します
これからはみんな遠くな離れてしまうけれど
またいつか会えるよね
年は過ぎていっても
この気持ちはずっと変わらないと思うよ
本当にいままでありがとう。