僕とライアンはアブさんの下宿に行き
3人で川の字になって寝た
明日の朝にオコシは帰ってしまう
どうしよう
名古屋駅まで見送りに行こうか
だが何時に帰るのかも聞いてなかった
駅まで追いかけてどうするんだ?
今さら何を言おうというんだ?
寝転んで話しているうちにいつの間にか眠ってしまった
何度もオコシの夢を見た
翌朝目が覚めるともう10時だった
もう手遅れだな…
外はいつの間にか強い雨が降っていた
今ごろオコシはどのあたりだろう?
きっともう大阪ぐらいまで行ってしまったんだろうな
自分はせっかくのチャンスをみすみす見逃してしまったんだろうか
もう少しオコシを独占することもできたのではなかったのか
もう本当にこれが最後なのかもしれない…
いつか僕はこの日のことを後悔するかもしれない
そんなことを考えながら昼過ぎに家に帰った
その夜に友人のHから電話があった
彼は「○○信用金庫」から内定をもらったと言っていた
「本当かよ。凄いな、良かったじゃないか」
と言うと
「なんか、あれで受かると、あんなもんかな~っていうかな。おれ○○信用金庫を買いかぶり過ぎとったなぁと思ったぞ。お前も受ければ受かってたと思うよ。だってお前のほうがよく知ってたもんな」
う~ん、確かに受けてみないと分からないよなぁ
でも自分は金融業を最終的に外したので悔しいとは思わなかった
翌日に「○ーユー」から速達が届いた
10月25日に話し合いがしたいから印鑑を持って来社して欲しいという内容だった
まだ選考があるのだろうか?
困ったな
そろそろ「○○ナカ」に断りの返事をしなくてはならないのに
すぐに「○ーユー」に電話してみると
25日は入社に必要な書類を作る為のもので
これ以上選考することはないということだった
先日に内定と言ったのは決定と同じで
ただまだ10月なので決定とは書面で書けないのでああゆう手紙になったということだった
良かった
これですっきりと次に進むことができる
すぐに「○○ナカ」に電話して内定辞退の話をした
それなら以前に送った書類にそういう事情を書いた手紙を添えて送って欲しいということだった
少しガッカリした様子だったが仕方ないということで理解してくれた
こんな感じで僕の就職活動は終わった
ライアンも希望していた地元の「○○コシ」というスーパーに決まった
一番の心配事から解放された僕らは残り少ない学生生活を楽しもうと連日遊び呆けていた
大学祭の日一人であちこちを歩き回っていると
アブさんがミッキーを連れていた
少し話しているとミルキーやカールにも会ったのでみんなで中華料理店に行って食事をした
アブさんは故郷の北海道の教員試験の結果がもうすぐ出ると言っていた
「あまり自信がなくてなぁ。でもどうしても教師になりたいんだ」
と不安な気持ちを打ち明けてくれた
それからみんなで後夜祭に出た
広場で学生達とみんなで肩を組んで大声で歌ったり踊ったりした
これで僕の大学生活も終わりだな
そう思うと寂しさが込み上げてきた
解散になると僕はアブさんと二人で彼の下宿に行った
「今日さ、ミッキーと朝から夜までずっと一緒におった。あの子いい子だ~。もう告白しようかなって思ったけど、最後の一言が出んのね。オレは北海道に帰るし…。しかしこれだけ燃えたのは2年ぶりだ~」
そんなことを喋りながらアブさんは寝てしまった
オコシが帰ってから1ヶ月が過ぎていた
彼女から手紙が来るかなぁと思っていたが来なかった
きっと仕事が忙しいんだろう
オコシから手紙がくるまでは自分から手紙を書くのはやめておこうと思っていたが我慢できずに書いてしまった
卒業してもう会えないと思っていたのに来てくれてうれしかった
仕事でつまずくこともあるだろうけど頑張って欲しいと
書いて読み返してみると自分が何を伝えたいのか分からなかった
本当に伝えたい気持ちはこんなことでない
結局僕はオコシに好きだという気持ちを伝えるだけの勇気がないのだ
もしかするとオコシはそんな僕に失望したのかもしれない
数日後、大学に行くと掲示板の前で久しぶりにレモンに会った
就職の近況を聞くと第一志望の公務員試験は駄目だったんだそうだ
最悪の場合は県庁で臨時採用で採ってもらうあてがあるけど
今から企業を探すと言っていた
大変なことだ
アブさんのことが気になったので下宿に行ってみると
アブさんが泣きながら酒を飲んでいた
「ナッツ先生、オレぼつっちゃった…」
酒の酔いで顔が真っ赤だった
教員試験に落ちたということだった
アナグマとユワサも一緒だった
アナグマは酔ってぶっ倒れて寝ていた
ユワサはアブさんを逆につめていた
「ふざけるんじゃないよ。自分の気持ちを誤魔化すんじゃないよ。たかが試験に落ちたぐらいで泣いた奴なんて初めて見たよ。一年ぐらいどうだっていいじゃないか。たかが一回落ちたぐらいで家に帰って、母ちゃんの尻にくっついて農協に行くんか。お前が会社勤めできる男か?聞いてて腹が立つよ!」
そう怒鳴りながらユワサも泣いていた
とても口を挟めない迫力があって
僕はただただ聞いていた
友達のツラい時に何も言えない自分が情けなかった
でもこの場にいてただ悲しみを分けあってやりたいと思っていた
夕方になり少し落ち着いてアナグマのところに行くことになった
7時頃アブさんと二人でアナグマの下宿まで歩いた
「昨日ミッキーと名古屋城に行ってきた。でも、もうアカンな。ナッツ、あの子をよろしく頼む」
「なんでそうなるの?」
「帰りに名城公園に行って、あの子を抱きしめた。そしたらあの子泣き出して、もうアカンわ」
仕方ないので自分がミッキーにアタックしたけどフラれた話をすると
「全く知らんかった」
と驚いていた
そうだったのか
試験だけじゃなくミッキーとのこともあったからあんなやけ酒を煽っていたのか
ツラい事って重なるものだな…
アブさんの心中を思うと僕の心も痛んだ。