それからしばらくして
卒業生を送る卒セツ式があった
大学の会議室を借りて
卒業していく短大2年生、4年生にそれぞれのパートの在校生からいままでの思い出とこれからの願いを込めて書かれた卒セツ証書が贈られた
短大2年生は
イモリ、モモヒメ、オコシ、オバコ、ドッツン
4年生は
タマ、ジェレミー、バカボン、スヌーピー、ヒョロ
アールやヌルヌルはゼミの行事や用事があって欠席だった
OBとして
スケスケ、トンボ、ピー、テレ、モリモリ
が来ていた
ピーは僕に初めて声をかけてくれたセツラーで
セツルに入るきっかけになった思い出の人だった
既に卒業していたがあの爽やかな笑顔は昔のままだった
スケスケは時々下宿に泊めてくれて昔話をしてくれた
「高校時代の夏休みにね自転車に乗って遠くまで旅をしたんだ。テントを張って何日も野宿してね、あの頃は怖いものしらずだったなぁ」
そんな話をしながら手作りのご飯を食べさせてくれた
トンボもよくお世話になった
下宿は遠いので泊めてもらうことは稀だったが
彼は詩を書いていて
自分でガリ切りした詩集をくれた
恋愛で感じたことを綴った詩集だった
日頃は冗談ばかり言ってはみんなを笑わせるような人だったが
見かけによらずロマンチストだった
卒業生は
男はスーツ姿
女はちょっと洒落たワンピース姿が多かった
うちのパートからはスヌーピーとドッツン
二人のいろんな思い出が蘇ってきた
スヌーピーは優しい女のコで悩んでいる時に姉のように心配してくれる人だった
ドッツンは目のくりっとした可愛いコで
明るく前向きな考え方で男たちからの人気も高かった
うちのパートの短大生が次々と辞めていく中で最後まで頑張ってくれた
オコシはやはり可愛かった
というよりも
とても綺麗になっていた
僕はずっとオコシを見ていた
彼女がなんだか眩しかった
やはりオコシは特別な存在だったことを改めて感じた
卒セツ式が終わると
場所を今池の鳥鈴に移して追い出しコンパが行われた
式に出席できなかった人達も来て全部で52人にもなった
アール、ヌルヌル、アメンボ、シキブも来ていた
ジェレミーは大学の独特の学生歌をギターを弾きながら僕に教えてくれた
バカボンは凄い読書家で哲学や集団主義教育や政治の本をいろいろと教えてくれた
タマ、アール、ヌルヌルには本当によく下宿に泊めてもらっていろんな事を教えてもらった
一番身近で頼りになる先輩達だった
それがみんな一斉にいなくなってしまうことは本当に悲しかった
コンパは酒を飲んで個人的に話をするといった感じになってしまった
やはりオコシのことが気になったけど離れていてあまり話していけなかった
自分としては今ひとつ盛り上がりに欠ける感じのまま9時過ぎに1次会が終わってしまった
次に2次会に行こうということになった時にやっとオコシと話すことができた
「ターザンと飲み比べしとって負けた。この前ほんとテープありがとう。スヌーピーさんのところに行ってあの夜聴いた。ナターシャセブンの『八ヶ岳』すごく良かった」
彼女は少し酔った赤い顔でニコニコと話してくれた
2次会は喫茶店と飲み屋に別れることになり
僕はオコシを飲み屋組に誘った
「オコシ、酒のほうに行こう、今日ぐらい一緒に飲みっこしよう」
オコシは笑顔で飲み屋組に行ってくれた
次の店は梅田屋というどて味噌煮の店だった
それでも20人ぐらいが残っていた
座敷組とテーブル組に別れた
僕は座敷組だった
僕の前はオコシだった
オコシは珍しく陽気にはしゃいですこぶる元気だった
座敷の人は一人づつ歌うことになった
もちろんカラオケなどない
みんなアカペラで歌うのだ
その時初めてオコシが歌うのを聴いた
中島みゆきの「ほうせんか」という歌だった
失恋した女心を歌った歌で僕の知らない歌だった
わりと上手いので驚いた
「うまいね」
と言うと赤くなって
「ぜんぜん、ぜんぜん」
とはにかんだ
スヌーピーはコンパになるといつも歌う十八番の「私の愛した街」を歌った
アイルランドの反戦歌のような歌で物語性のある心に残る歌だった
僕はユーミンの「卒業写真」を歌った
みんなへの感謝と願いを込めて
だが本当にこれでお別れだという実感はなかなか湧いてこなくて
いつものコンパのような感じだった
もしかすると自分自身がみんなと別れることを信じたくなかったのかもしれなかった
僕は飲めないくせにずいぶん飲んでしまって酔っぱらった
その後3次会にミスタードーナツに行き
4次会に大学の近くのスナックに行って飲んだ
いつの間にかオコシはいなかった
どこで彼女と別れたのかも覚えてなかった
4次会が終わったのは朝の4時過ぎだった
その頃には男ばかりが10人ぐらいになっていた
それから吉野家に行って牛丼を食べて
あぶさんの下宿に行ってくたくたになって眠った
寝ていて何度も夢を見た
歌を歌っていたオコシの姿
地域に行って子供達と遊んでいる自分といろんなセツラー達
夢の中で自分と卒業生の3年間を振り返っているような夢だった
長い眠りから目が覚めると既に11時だった
外はいつの間にかシトシトと雨が降っていた
あとは卒業式を残すだけになってしまった
もう一度自分が新入生だった頃に帰りたいと思った
もう一度卒業していくセツラー達と学生生活をゆっくりとやり直したいと思った
そんな風に思うのは
みんなと過ごした時間がとても素敵で充実した時間だったからなのだろう
雨はいつまでも暗い雨雲から降り続けていた
まるで僕の心の中を映し出したような空模様だった。