年が明けると
憂鬱な学年末試験が待っていた
去年は甘く見ていたせいで大事な教職必須科目を一つ落としてしまった
今年こそは悔いのないように試験対策を練らなくてはならない
出来る限りの出題情報や参考資料を集め連日試験勉強に励んだ
そのかいあって今回の試験は一つも落とすことなく無事に単位を取ることができた
短大2年生や4年生は
試験プラス卒業論文があるのでオコシのとこに行くのは遠慮していた
2月になったある日
パート会が終わると僕は一人でオコシの下宿に行った
大学から地下鉄に乗って彼女の下宿に着いたのは7時半頃だった
「もうご飯を食べた?」
というので
「まだ」
と言うと
お餅、ソーセージ、ゆで卵、ふかし芋を出してくれた
卒論の話やら就職の話をいろいろと話してくれた
「先月に家のほうに帰って私立の保育園の試験を受けてきたんよ。なんかセツルに似たことを意欲的にやってるところでそこに入りたいの。でも試験は悲惨やった。ピアノなんかめちゃくちゃ手が震えて。9人受けにきて1人が正式採用で、2~3人を臨時でとってくれるの」
目を輝かせて話すオコシを見て
なんとかその園に行かせてあげたいと思った
それからお正月の話やら成人式の話をしているとあっという間に11時を過ぎていた
そろそろ帰らなくてはと思ったが
ちょっと話すとオコシがいろいろと話してくれて
やっと腰を上げたのは11時半だった
ニッコリ笑ってさよならをした
冬の夜道を歩きながら
僕の心は複雑だった
オコシと心を割って話せる喜びと
もう少しで別れなくてはならない寂しさで
それからしばらくして
オコシが保育園の採用試験に合格したらしいということをジャケイから聞いた
本当に良かったと心から思った
2月中ばに成績発表があり学生課まで行った
D(再試)はひとつもなくCが一つだけ
あとはAとBだけだった
やれやれこれで本当に肩の荷が降りたような気持ちになった
学生課を出るとオコシの下宿に向かった
「保育園合格したんだって、おめでとう。正式なの?臨時なの?」
と聞くと
「正式なんだけど、知らされた時信じられんかった。あんなうれしかったことなかった」
いろんな話をしてから僕が持ってきた
ますむらひろしの「青猫島コスモス紀」という画集のような漫画本を一緒に見て笑った
太った猫のヒデヨシを見て
「これは何?もしかして猫?」
と言ったり
ビートにうるさいヤマモトガニを指しては笑い
猫のチビ丸を見て
「これは悪そうな猫だなぁ」
なんて言って笑った
卒業前にオコシと写真が撮りたくてその日はカメラを持ってきた
「撮ってもいい?」
と聞くと
顔を赤くして
「いいよ、やめよう」
と言ったのだが
「これが最後だから」
と言うと
シブシブ承知してくれた
セルフタイマーで二人並んで撮った
オコシは真っ赤な顔をしていた
ちょっと強引だったかな
と少し反省しつつ
「写真ほしい?」
と聞くと
「一応ちょうだい」
と言った
なんとなくぎこちないような
なんとなく寂しいような気持ちを感じて
僕は少し落ち込んでしまった
その日は3時にライアンと待ち合わせる約束をしていた
試験発表も終わったから二人でボーリングに行こうと話し合っていたのだ
「良かったらオコシも行かない?」
と言うとすごくためらって葛藤してるようだった
「すっごく下手なの。ガーターばかり出しよるんよ」
「そんなのいいよ。僕もすごく下手だから」
「う~ん、いくんなら行ってもいいよ」
そう言ってくれてホッとした
でも今日はなんとなくお互いにぎこちなかったような気がして落ち込んでしまった
写真とかちょっと無茶振りすぎたかな
オコシが戸惑っていたような気がして
この辺で自分の気持ちにストップをかけないといけないような気がしていた
大学に戻ってサークル室に行くとデンバーが
「ライアン今日来れないって。さっき電話があった」
ガーン!
仕方がないので帰ることにした
帰りにオコシの下宿に電話した
「ライアン来れないんだって。だからボーリングは中止なんだ。誘っておいてごめんね」
「あっ、はい。ありがとう」
「もしかして練習してた?」
「えぇ?練習してたりして…シューって」
「あはは、本当にごめんね」
「いえいえ、うん。さよなら、ありがとう」
オコシが何度もありがとうと言ってくれるのがうれしかった
次の日にライアンの家に電話してオコシをボーリングに誘ったことを話すと
「うそや~しまった」
と悔しがっていた
「そういえばオコシがFM愛知の『エフバラ』にリクエストハガキを出したのってあんた知っとるか?」
「えっ?なんだそれ」
「Y写真館のKっていうネームで、なんか学生生活を振り返ってって感じの内容でさだまさしの曲をリクエストしたんだと」
電話を切ってからも
その話が気になっていろいろと考え込んでしまった
彼女はどんな気持ちでリクエストハガキを書いたんだろう
その曲ってどんな内容なんだろう
もんもんとしながら眠りについたのだった。