この頃はサークル活動で遅くなると
ライアンと一緒に行動し最後はヌルヌルの下宿に行って泊めてもらうという日々が続いていた

ヌルヌルの下宿は比較的大学の近くにあったのだが
ほとんどの住人が社会人で基本的には外部の人を泊めてはいけない事になっていた

その為僕らは夜中になってからコソドロのように音をたてずにヌルヌルの部屋の窓から入るという危ないことをしていた

10時半すぎに部屋の窓をノックするとヌルヌルが窓を開けてくれた

ライアンが
「ぬうぬう、腹が減ったー、何か食いたい」
と言うとヌルヌルは

「ちっ!お前ら本当にいい加減にしろよな」


「先輩!そんなこと言っちゃヤダ。僕ら先輩が好きなんだよ」
「うん、大好きなヌルヌル先輩何か食わせてよ」

「本当にお前らは~」
文句を言いながらもヌルヌルはホットケーキを作ってくれた

「やっぱりヌルヌルの作ってくれたものはうまいな。ここは僕らの家みたいなもんだな」

「あほか!お前らは!」

それから3人でセブンブリッジをして今夜の布団を賭けた

結局ライアンが勝ってヌルヌルの布団で寝た
僕とヌルヌルはコタツに足を入れて毛布をかけて寝た

寝ながら3人で話をした
「4回もアタックしたのに全敗じゃ駄目だな~」
とヌルヌルが呟いた

相手の名前は言わなかったが
どうやら最近誰かにアタックしてまたフラれたようだった
僕とライアンが集めた情報では
シャミー、タゴサク、ポテトの3人は確実だった
最後の1人はオコシだったのかもしれない

この中で特に有名だったのがタゴサクとの話だ
ヌルヌルが2年生、タゴサクが1年生のある夜
ヌルヌルはタゴサクの下宿を訪れた
夜遅くまで話した末に
ヌルヌルは大胆にも
「今夜泊めてくれ」
と頼んだのだ
タゴサクはさんざん悩んだ末にしぶしぶOKし
もしもの時の為に
木刀を抱いて寝たという事だった


ヌルヌルに女ができない原因は女心が分かってない
というのが僕らの見解だった

僕とライアンは勝手にヌルヌルにはあの子がいい
この子がいいといい加減な事ばかり言いながら夜中の3時まで喋っていた

もう少しで12月になろうとしていた


次の朝にヌルヌルの下宿を出て
一人で大学の図書館に行ってゼミの勉強をしていた

するとアールがやって来たので近くの喫茶店に行って話をした
アールは社会福祉学部の4年生だ

実家の群馬に帰って就職のメドをつけて昨日帰ってきたという事だった

東京に来年できる障害者の共同作業所の指導員になるという
月給は6万円ということだった


アール自身6万円で生活できるんか
とも思ったんだそうだがやっぱり障害者と一緒に生活を作って行きたいんだと熱く語っていた

自分の労働が自分をより豊かにするもの
作業所をよりしっかりするものに自分が関わっていくこと
そんなことがしたいと言っていた

自分が追求していきたいもの
仲間と手を取り合って一つのことをしていく喜びを貫いていきたい
大変なことだけどどうしてもやりたいと言っていた


「他のところは回らなくていいの?」
と僕が聞くと

「そう言われると迷いもでるけどもう頼んできたから」


「実を言うと家の人とまた言いあってきた『せっかく大学まで出たのに…もっとお金の貰えるところに行きなさい』って。一ヶ月ぐらい前からイライラしてサークルもゼミも手につかなかったんだ。大変な仕事だけどメドがつくとホッとしてな、なんだかウキウキしてるんだ。いままでお金が少なくて暮らしていけるかとか、就職できなかったらどうしよう、ってことで頭を悩ましてたけど、本当はそうじゃないんだよな。自分がどうやって生きたいかってことが大切なんだよ。いろんな人達と東京で話してきて、大きなところでしっかりしたものを持てて、いつもニコニコしてられるようになりたいって思ってな。障害者関係の仕事につきたいっていう人達も関係のない大学の学部を出てる人がほとんどで、でも『仲間と手を取り合って生きることを大学で学んだ。それを自分の職業に生かしたい』って言う人がいて凄くうれしくってな」

アールは目を輝かせてそんな話しを熱っぽく聞かせてくれた


そんなアールの姿が眩しくもうれしくもあった


喫茶店を出て別れて僕は家路に向かった


冬の北風の寒さが身に染みた

だがアールの語ってくれた情熱の移り火が僕の胸をまだ熱くしていた


頑張って欲しい

しかし月に6万円か…
どうやって暮らすのさ

果たして自分だったらやっていけるだろうか

僕はあれこれ考えながら地下鉄の駅へと歩いて行った。