どれぐらい歩いただろう
やっと彼女の下宿の前にやって来た
だが彼女の部屋の電気は消えていた
時計を見ると11時を過ぎていた
まだ帰ってないのか
寝ているか
どちらにしろ
彼女に迷惑になるに違いなかった
僕はため息をつくと
彼女の下宿に背を向けて真夜中の暗い夜道をあてもなく歩き続けた
次の日の昼過ぎ
サークル室でぼんやりしているとライアンがやって来た
彼は僕が打ち上げの途中で帰ってしまった事を心配してくれた
「あれからどうしたんだ、心配したぞ」
「あぁ、ちょっと酔って気分が悪かったんだ」
曖昧な言い訳をしていても頭の中はオコシの事ばかりだった
彼女にどうしても会いたかった
だが昨夜と違って一人で行く勇気はなかった
「オコシのとこに行こう」
「やだ。最近行き過ぎだもん」
僕はしぶるライアンを説き伏せて一緒にオコシの下宿に行くことにした
「いいか、オコシんとこは30分だけだぞ。お茶一杯飲んだらポテトのとこに行くぞ」
ライアンにそう釘をさされた
彼女の部屋の前で僕はドキドキしながらノックした
ドアを開けて僕を見た彼女はニッコリ笑ってくれた
心の中のもやもやが一気に消えていった
「まだ昼ごはん食べてないんだ」
と言うと
「おもちがあるから食べる?」
と言ってくれた
しばらくするとタマネギ入りの焼肉と白味噌の雑煮、目玉焼き、ご飯を出してくれた
すごいもてなしに驚いた
「ありがとう。でも実はタマネギが苦手なんだ」
と言うと
「なに~そんなら早く言ってくれればいいのに」
と言って自分の食べる焼肉を分けてくれた
なんていいこなんだ…
やっぱり来て良かった
しばらく話していたがライアンとの約束があったので帰ろうとした時に
「そうだ今日、『紙ふうせん』のコンサートがあるの知ってる?」
と僕が言った
「えっ?どこで?」
「M大学の文化祭で」
「わあ、なんで早く言ってくれんの」
とすごく行きたそうに言うので
「よし、行こうか?」
と言うとうれしそうな顔をした
「じゃあ着替えるから下で待っててくれる?」
と言われ部屋を出ようとすると
僕が片方の靴下しか履いてないのをオコシが気がついた
僕の靴は少しまえから片方に穴があいてしまい
雨が降ると穴から水が入ってくるようになってしまっていた
だから穴のあいたほうの靴下が濡れてしまったので脱いで片方だけ裸足だったのだ
「靴下貸してあげようか?」
と言うので
「そりゃあ悪いよ。靴がボロボロだから汚れちゃうよ」
「でも無いよりましだから」
と言って貸してくれた
オコシの優しさに心が温まる思いがした
ライアンの車に乗って3人でM大学に行くとコンサートは6時からだった
コンサートに並んでいる人の列はものすごく長くてとても入れそうにないと思うほどだった
でもオコシの為だと思って列に並んだ
そのかいあってなんとか会場に入ることができた
前座でアマチュアのバンドがいくつか出て
7時半頃から紙ふうせんのコンサートが始まった
僕が知っている曲は
「冬がくる前に」
「ささ舟」
「竹田の子守唄」
ぐらいだった
オコシは
「霧にぬれても」
という曲が
「すっごく好き」と言っていた
最後に「紙ふうせん」という歌をみんなで大合唱した
僕はステージよりも歌を口ずさむオコシの横顔を見ていた
アットホームな感じのいいコンサートだった
何よりもオコシがとても喜んでくれたことがうれしかった
帰る時にオコシはとてもうれしそうだった
彼女を下宿まで送ってからライアンと喫茶店で一休みした
「これであんたもどん底から浮かび上がってきたでしょう」
とライアンが笑いながら言った
彼の言う通りだった
僕は上機嫌でコンサートの歌を思い出して口ずさんでいた
「しかしヌルヌルに知れたら殺されるぞ」
二人で顔を見合わせて大笑いした
数日後オコシに借りた靴下を洗濯して返した夜
火星人とヌルヌルの下宿に泊めてもらうことにした
火星人のバイクでヌルヌルの下宿まで行ったがまだ彼は帰ってなかった
それで二人でまたまたオコシのところに行った
最近ちょっと行き過ぎじゃないのかと
着いてから少し弱気になった
こんなにしょっちゅう行っては彼女も迷惑なんじゃないだろうか
でもドアをノックすると彼女は笑顔で迎えてくれた
ホッとした
「ちょっと腹がへってるんだけどパンでもない?」
と聞くと
「パンはないけどご飯とハムなんかあるけど」
と言ってくれた
「じゃあちょっとパンを買ってくるわ。何か他に欲しいものない?」
と聞くと
「アイスクリームが食べたい」
と言うので買い物をして戻った
その日は紅茶にパン、ハム、ゆで卵、マグロのフレークを出してくれた
高校時代に料理部に入ってたことや旅行やセツルの話を長い時間話していた
やっぱり来て良かった
オコシと話すと心の中が暖かくなるのは何故だろう
きっと本当に彼女のことが好きなんだと
改めて自分の気持が分かったような気がした
帰る時にオコシが
「あの、また来て。もっと話がしたい」
と言ってくれて
なんだかうれしい気持ちでいっぱいになった
火星人のバイクに乗ってヌルヌルの下宿に向かった
「なんやお前らどこに行ったてたんだ?」
とヌルヌルが聞いた
「オコシのとこ」
と答えた
「なぬ?ええなぁ!」
「うん良かったよ、良かった」
眠くなったので
僕と火星人はヌルヌルの部屋のコタツで寝転んで
ゴロゴロした
僕はオコシとの会話を思い出していた
一人でニヤニヤしているうちにいつの間にか眠ってしまった。