季節は巡り
2年生がもう終わろうとする3月
自分が入学した時に3年生だったセツラーが卒業していった

その中で印象深いのがスケスケという先輩だった

スケスケはとても優しくて繊細な男の人で
地域の中で下宿していた

時々、家庭訪問が遅くなった時に下宿に泊めてくれた
忙しくても嫌な顔ひとつせずに笑顔で迎えてくれて朝起きると自分が食べるおかずも

「これも食べなよ」
と言って勧めてくれるような人だった
例えば卵やソーセージがあと一つしかなくても
フライパンで炒めてそれを出してくれた

「これはいいよ。だってスケスケの分が無くなっちゃうよ」
と言うと

「いいからいいから、今日は食欲がないんだ」

嘘ばっかり…
スケスケはいつも優しくて
そんな優しい嘘を時々言うのだった


「ナッツは先生になって欲しいな。人間味があるからさ」

と言ってくれた言葉がなんだかとても嬉しくて
今も記憶に残っている


しかし僕は教職課程の必須科目である「経済史総論」を落としたうえに
更に追試でも落としてしまった

仕方がない
また次の年に受かればいい

「ちょっと待てよ、『経済史総論』2年生で受からないと3年生の教職課程が取れないらしいぞ」

「いや大丈夫だって来年でも取れるって」

「ちょっと教務課に行って確認しようぜ」

結局は不安が的中した
2年生で「経済史総論」を落とした者は教職課程を取れなかったのだ

それは自分の学生生活で教師に進む夢が断たれることを意味していた

まったく僕は馬鹿な男だった
スケスケの言葉に応えられなかった自分が申し訳なかった
そして努力の足りなかった自分に腹を立てた


サークル活動に関して言えば2年生の後半からはレモンがキャップを務めてくれたので割りと気楽にサークルを楽しむ事ができた

新しいキャップにはドブ(1年♀)が候補にあがっていたが
自治会の役員に立候補した為にまた僕がキャップをやる事になってしまった

「他にやる人がいないからもう一度ナッツがやってよ」

仕方がない
またまたセツル漬けの日々が始まった

新入生はジャケイ(♂)とベーべ(♀)とシャモジ(♀)
シャモジは他のサークルと掛け持ちしていたのであまり来なくなり
ベーべは自律神経失調症になってしまいしばらく休部する事になり
僕とジャケイの二人で実践をする事も珍しくなかった
忙しい毎日がまた繰り返された

その頃ちょっと気になる女の子がいた

アリンコパートの一学年下のミッキーという女の子だった
いつしかよく話すようになっていて
本当に気楽に話しができる仲間にいつの間にかなっていた

僕の中でだんだんとミッキーの存在が大きくなって行った
サークル室に行くとミッキーの姿を探すようになった

ある実践の後でミッキーと話す機会があり
思いきって

「ねぇ、ミッキー今度映画を見に行かない?」
と誘ってみた

すると

「いいよ」
と軽い感じでOKしてくれた

やった!
ミッキーがOKしてくれた!
次の火曜日が講義が空くので映画に行こうという段取りになった

僕は有頂天になっていた
なんとか自分の気持ちを打ち明けようと決心した


二日後の火曜日
大学の図書館でノートをまとめていると約束通りミッキーがやって来た

黒いブラウスに白のスカートという大人っぽいスタイルだった
サークル室でいつも見ているようなラフな印象ではなく
なんだか眩しいぐらいに可愛かった

地下鉄で名古屋駅まで出て面白そうな映画を探した
二本立ての恋愛映画だった
有名な映画ではなかったがパッピーエンドのいい映画だった
正直映画の内容よりも隣にミッキーがいてくれていることに舞い上がっていた

映画が終わるとミッキーが
「お腹がすいた」
というので駅前の蕎麦屋に入ってソバを食べた

それから駅ビルの屋上に行って名古屋の街を眺めた

「僕と付き合ってくれ」と何度も言おうと思ったけど
どうしても言えずにアホな話ばかりしてミッキーを笑わせていた

このままじゃ駄目だと思いながら地下街を歩いたり喫茶店に入って話したが
結局本当に言いたい言葉は言えなかった

夕方にミッキーを地下鉄の駅まで送って別れた

このままでは駄目だ
ただの友達では嫌だ
そんなことばかり考えていた


次の日曜日に実践が終わった後で地域に下宿しているボッチを訪ねた
もしかすると同じパートのミッキーもいるかもしれないと思ったからだ

行ってみるとボッチ、シツレイ、ミッキーがいた

しばらくするとミッキーと二人きりになった

こんなチャンスはめったにない
ここで言わないと一生後悔すると思った

喉がカラカラに渇いて緊張していた

「まじめな話があるんだけど…ミッキーいま誰かと付き合ってる?」

「別に…」

「好きな人は?」

「別におらんけど」

「それなら僕と付き合ってくれん?」

気が遠くなりそうだった
心臓が爆発してしまいそうだった

長い沈黙の中ミッキーの言葉を待った

「あたし、あんまりサークルの中で付き合いたくない。あまり一人の人と真剣に付き合うのって好きじゃないの」

これは駄目かな~
と思いながらも言った以上は簡単に引き下がっては情けないと思い
いろいろと話していった

「あたし、付き合うっていってもあまり真剣なんじゃなくって遊び友達みたいな感じだったんだわ。最近もっと悩みなんか言い合えるようになりたいと思うようになったけど…高校の頃から付き合っとった人と2年半ぐらい続いたんだけどこの前の3月に別れて…」

「こんな事を言ったのはサークルに入ってからは初めてなんだ。一年の時は今みたいな人間じゃなくて…みんながいてもなかなか話せなくて、そんな自分が嫌で嫌で変えたくてでも簡単に変われなくて…」

「へぇ~そうだったの。えらいね」

ミッキーの緊張が少し溶けて
やっとちゃんと話せると思った時に
ボッチとシツレイが帰ってきた


僕はあわててさりげない話題を振ってしばらく話してからボッチの下宿を出た。