「海を越えて、想いを込めて、新しい握手が、いままた生まれる、当たり前の僕らが…」

セツルメントの学生が集まるとみんなでよく歌を歌った
みんなで輪を作り
肩を組んで声を合わせて歌った

それは校歌や流行歌などではなく
独特の学生歌や労働者のことを歌った歌だった
冒頭の歌詞もそんな歌の一つだった
僕が入部した当時の新入生歓迎のいわばテーマソングだった

まだ何もセツルメントのことが分からない僕だったが
みんなで歌を歌っていると不思議な連帯感や力強さが沸き上がってくるのだった


講義が終わって暇になるとサークル室に顔を出すのが日課になった

そこに行けばいつも誰かが2~5人ほどいた

みんな暇つぶしに来てはいろんな事を話して笑っていた

僕はまだみんなに馴染めずに話をただただ聞いてうなづいていた

もともと人見知りの僕はなかなか話の輪に入っていけず
段々とそこにいるだけで苦痛になっていった


「しまった~やっぱりここは自分のいるべき場所じゃない。もっと自分の性格に合ったサークルを選ぶべきだった」

いつしかそんな事を考えるようになっていて
このサークルを辞めようと考えていた


「ナッツくん、今度の金土に新歓合宿があるんだけど、出るでしょ」
同じパートの新入生のあぶさんが言った

彼は同じ経済学部だった
一年前に違う大学に入ったのだが何故か一年でその大学を辞めて今年からこの大学に入ったらしい
そんな彼はとても大人に見えた

誰とでも気軽に喋り
笑い声の絶えない彼を
僕は眩しい思いでいつも見つめていた

「えっ?それってみんな出るの?」

「うん、新入生は特に出たほうがいいよ。楽しいみたいだよ」

「う~ん、じゃあ出る」


本当は気が進まなかったが仕方なく出ることにした
金曜日の講義が終わると集まった人達からいくつかのグループに分かれて出発した

地下鉄、電車に乗り換えて約2時間
海沿いの民宿に到着した


総勢30人ぐらいが集まった
この他に用事でこれない人や休部してる人を足すと全部で60人ぐらいになるという

着くとすぐに夕食となりその後コンパが始まった

勝手が分からずに呆然としている僕に次々とビールを片手にもった先輩達がやってきた

「あの僕ビール飲めないのでジュースにします」
と言うと

「まぁまぁ 寂しい事言わないでよ。コップ半分だけでいいからさ」

「はぁ」


恥ずかしながらそれまで舐める程度しか飲んだ事のないビールは
苦くてとても美味しいものではなかった

「なんだ大丈夫じゃないか」

「いやあの、本当に駄目なんです」

「ちょびちょび飲むよりぐいって飲んだほうが美味いんだよ」

「でも無理です」

「いいじゃない、いいじゃない」

と入れ替わり立ち替わり何人もの人達に注がれ
いつしか僕の顔は真っ赤っ赤になり頭がグルグルした

その後
各パートごとにスタンツがあって寸劇や歌やダンスがあった

幼児パートは「たまごたまご」という歌と振り付け

「た~まご、たまごがパチンと割れて、可愛いヒヨコがびょっ ぴよっ ぴょっ。ま~可愛い!ぴょっ ぴょっ ぴょっ」

ってやつで
幼児向けの踊りをいい若者が真剣にやる姿がなんだかとてもおかしかった

児童パートは「これっくらいの、お弁当箱に、おにぎり、おにぎり、ちょっとつめて…」
とか
「お化粧の歌」とかいうのをやっていた

「おしろい塗って、口紅つけて、ラインを引いたらつけまつげ、今日は彼とデート、今日は彼とデート…」

っていう歌で思わず笑ってしまった


そんな調子でコンパは延々と3時間ぐらい続き
僕は疲れて眠くなっていた

コンパが終わるとみんなで海まで散歩に出かけた

「これからはもう寝るんですよね」
とアール(同じパートの2年生)に聞くと

「な~に言っちゃってるの。これからが本番だよ」

「えっ?まだあるんですか?」

「いまから『夜な夜な語ろう会』だよ。朝までね」

「ひぇ~!」


みんな民宿に戻ると畳の大広間に各パートに分かれて輪になって座り
いろんな話を朝の5時まで語り合った

だが僕はまだよく分からない人達と集団で話す事が本当に苦手で
人の話を聞くのはいいが自発的に話す事がほとんどできなくて
みんなが楽しく盛り上がれば盛り上がるほど
どんどん自分が惨めに思えてくるのだった

やっとおひらきとなり布団の中で

「やっぱりこのサークルは無理だ。もう少ししたら辞めよう」

そう僕は考えていた


朝は8時に起こされた


なんだって~
まだ全然寝てないのに…



朝食後に「入セツ式」と言って新入生一人一人に入セツ証書が配られた

それから海辺に出て「ネコとネズミ」という集団遊びをした
みんな真剣にやってることが楽しかった

その直後2~3人の先輩達がみんなに手と足を捕まれて海の中に放り込まれた

「なんだこれは!なんて無謀な事をするんだ!」

とびっくりしていると

スヌーピー(同じパートの2年生の女性)が

「あ~あ、ジェレミーも落とされちゃった。これねぇ、毎年恒例の行事なの。頑張ってる人を落とすのよ」

と言って笑った

駄目!自分は受け入れられない

僕は心の中でつぶやいた

昼食後グループ討論が2時間ほどあった
朝海に落とされたジェレミー(小学1・2年パートの2年生♂)も同じグループで

「一年生はまだなかなか自分の意見も言っていけないと思うけど、まずはカッコつけないで馬鹿になる事が大事っちゅうのかな。大切な事やんね」

その言葉が僕の心にぐさりと突き刺った

そうだ自分は自分で殻を作って逃げているんだ
まず恥を恐れずに馬鹿になってみよう

合宿の帰りの電車の中で僕は
そう呟いていた

もう少しだけ頑張ってみようかな…



そんな気持ちになっていた。