いまから25年以上も前の4月のことだった

僕はある地方都市の大学生になって大学の門をくぐった
桜の花がちょうど満開に咲いていた

誰ひとり知り合いもなく少し心細いながらも
新しく始まる生活に
ワクワクした気持ちでキャンパスの中をウロウロしていた

講義が終わると
いろんなサークルの人達がビラを片手に声を張り上げて勧誘活動をしていた

体育系サークルにしようか
文化系サークルにしようか

迷ってる僕の肩を後ろからトントンつつく人がいて振り返ると
いままで見たこともないような爽やかな笑顔の女性がそこに立っていた

彼女は長い髪をひとつに束ねて
白いプラウスに
淡いイエローのベスト
白いジーンズ
そして首に水色のギンガムチェックのスカーフを巻いていた

「君 新入生でしょ?」

僕はびっくりして

「はい」

とだけ答えた


それまであんなに爽やかで
あんなに優しい笑顔の女性に話しかけられた事など一度も無かったのだ

その人はニコニコ笑いながら

「どこから通ってるの?」
とか

「なんでこの大学を受けたの?」
とか
たくさんの話をしてくれて

「私達ね、こんなサークルをやってるの。ここに簡単な紹介が書いてあるから読んでみて。それでもし興味があったら、ほらあそこにある学生会館に部室があるから寄ってみて」

そういうと笑顔で手を振って学生会館に消えていった

僕はただただ
彼女のギンガムチェックのスカーフを後ろからぼんやり眺めていた

爽やかな笑顔と
優しい眼差しが
いつまでも余韻として残った


午後の講義の時間
なんだか教授の話も頭に入らず
ポケットの中から
さっきもらった小冊子を取り出して僕は読みふけった

それはボランティアのようにある地域に入って子供を集め
遊んで集団主義教育について考えたり
地域の人達と話していくといった地域実践系のサークルだった

なんだか難しそうだな…

自分にはあまり向いてなさそうなサークルだと思った

もっと自分向きのサークルに入ったほうが学生生活を楽しめそうな気がした

そんな気持ちがあって
僕は他のサークルをいろいろと覗かせてもらった

でも家に帰って部屋で寝ころんでいると
あのサークルの事が何度も思い出された


思い起こせば
僕は高校時代ずいぶんと無気力な学生生活を送ってきた

めんどくさい事には背を向けて
決められた事を淡々とこなしてきた
大きな問題もなかったが感動も無かった

そんな自分が本当は嫌だったし
できれば変わりたかった


きっと高校生の僕は
喜怒哀楽のない能面のような顔をしていたのだと思う

そこまで考えた時に
ギンガムチェックの彼女の笑顔が浮かんだ


そうか

僕はあの時
彼女が美人だから心惹かれたのではなく
生き生きとした生き方が顔に表れていたから
強く惹かれたのだと気がついた

もしあのサークルに入ったら僕も彼女のようになれるかもしれない


それから数日悩み続けた

そして一週間ほどしてから学生会館のあのサークルボックスを訪ねた


中にはたくさんの男や女がいて
素晴らしい笑顔で僕を迎えてくれた

「えっ?もしかして入部希望者?」

みんながガヤガヤと騒ぎ出した時に奥から顔を出した人がいた

「あっ!あの時の彼じゃない!来てくれたんだ」

そう言って
あの時の彼女が笑顔で迎えてくれた

「よろしくお願いします!」


なんだか恥ずかしくて顔が熱くなった
僕の笑顔はきっと緊張でひきつっていたに違いなかった


僕もいつかみんなのような本当の笑顔になれるだろうか


ギンガムチェックの彼女はうれしそうに僕を遠くから眺めていた。