はじめてその少女から手紙を貰った時は
ずいぶんと面くらったものだった
「はじめまして、おじさま。私はいろんなところを旅して人生について考えるつもりです。おじさまは私のことを知らないけれど私はおじさまを知っています。私は旅の先々でおじさまに手紙を書きます。それでは行ってきます」
なんだこれは?
僕は少女に全く心あたりはなく
おそらく人間違えであろうとほかっておいた
しかしそれから時々
少女から絵はがきが届くようになった
「こんにちはおじさま。私は悲しみの海に沈んでいます。エーゲ海より」
「こんにちはおじさま、私は犬年生まれの魚座です。絵に書くと笑ってしまいます」
「こんにちはおじさま。私が死んだら、ラベルの『逝ける王女の為のパバァーロ』をかけて欲しい」
人違いだと割りきっていたのに
いつの間にか彼女の事が気になるようになっていた
しかし絵ハガキは来るものの
彼女の住所は書いてないので返事を書く事もできない
「こんにちはおじさま。おじさまの気持ちはよく分かります。お返事は気になさらないで。私の言葉だけ聞いて頂けたら私は幸せです」
う~ん
なんかお見通しみたいだなぁ
「こんにちはおじさま。マトリョーシカになってしまった夢をみました。私の中にちょっとづつ小さな私がいて、私を割ると果てしなく小さな私がいるの。やっと夢から抜け出して甘い蜂蜜をたらして熱いロシアンティーを飲んでほっとしているところです」
う~ん
女の子っておかしな事を考えるもんなんだな
あっ
夢の話か
それにしても彼女は僕にどうして欲しいのだろう
「こんにちはおじさま。おじさまはただ私のハガキを読んでくれたらいいのです。私という人間がこの世に存在していたという事を知っていてくれたらそれでいいのです」
う~ん
なんだか切ないな
なんだか本当の娘のような気持ちになってきたぞ
「こんにちはおじさま。王様とロバと私、あしたはみんな死ぬ。王様は退屈で、ロバは病気で、私は恋で」
おやおや恋をしてるんだね
「こんにちはおじさま。あいつのせいで私はすっかり死体です」
うわっ
失恋したのかなぁ
悪い男に騙されてなきゃいいけどなぁ
「こんにちはおじさま。私は豆の木をどんどん登っています。人間もお家も小さくなって、地平線が丸く見えます。もう少しで雲に届きます。とてもすがすがしい気分です」
うん失恋から立ち直ったのかな
良かった、良かった
ところが
それから少女からの手紙はパッタリと来なくなってしまった
彼女はいまどこを旅しているのだろうか
外国?
それとも
日本のどこか?
もしかすると
本当に空の上に行ってしまったのだろか?
僕は彼女の事が心配で
今日も郵便ポストを覗いているのだ。