まだ魂が
夢のはざまを漂っているような時間だった
突然の物音に無理やり布団をはぎ取られ
起こされたような気分だった


ベッドルームの扉を
ゴソゴソとまさぐるような不快な物音はまだ続いていた


またか…

心地いい睡眠を邪魔されたいら立ちと
何度注意しても直らない学習能力の欠如にイラっとした


「ちえこ!やめさない!いい加減にしないと怒るよ!」

荒々しくドアを開けると
その勢いに驚いて
ちえこは慌てて逃げていった



どうしてお前は何度注意しとも分かってくれないのだ
苦々しい思いを噛みしめながら僕は彼女の後ろ姿を目で追った


ガチャ

「うるさいなぁ、夜中に大声出さないでよ。目が覚めちゃったよ」

高校生の娘が目をこすりながら出てきた


「すまん、しかしちえこが…」

「ちえこはお父さんが好きなんだよ。それなのにベッドの部屋には立ち入り禁止にしてるからさ。可哀想だよ」

「けじめだよ。けじめは必要なんだ。入っていけない部屋もあるんだ」

「だいたいさ、なんでネコに女の人みたいな名前をつけるの?おかしくない?」

「いや、それはつまり…ネコだって家族の一員だからね、ちゃんとした名前をつけたほうがいいんだよ」

「それにしても人間みたいな名前って変だよ。友達に話したら『げっ、キモイ。もしかしたらお父さんの愛人の名前じゃね?』って言ってた。そうなの?」

「なっ、なにを…馬鹿なことを言ってるんだ。そんなことあるわけないだろ」


いつの間にか足元にキジトラの
「けいこ」
がやってきて体をスリスリとすり寄せている


「お前はいいこだなぁ、『ちえこ』と違っておとなしくて、どうした?もうエサがないか?」


リビングのエサコーナーを覗くと
エサ皿はからになっていた

「よしよし、いま出してやるからな」

じゃらじゃらとドライフードを出すと
その音に誘われて三毛猫の
「さなえ」
が出てきた


「お前たち二匹は本当にいいネコだなぁ。『けいこ』はおとなしいし『さなえ』は甘えん坊だし、『ちえこ』もお前たちを見習ってくれるといいんだが」


「『ちえこ』だけだもんね、いつまでたってもなつかないのは。あたしが背中を撫でようとしたらまた噛まれたよ。この前なんかあたしの部屋でゲ〇したし!」

「それは仕方ないんだよ。ネコはよく吐く生き物なんだ。動物病院の先生がそう言ってた。毛づくろいするからお腹に毛玉が溜まるんだ」

「それは分かってるけど、『ちえこ』を貰ってきたのはお父さんなんだからね『黒猫がいいって』だからちゃんとしつけてよ。それとこれからネコに変な名前つけるのやめてね」


「……うん」




バツが悪くなり
娘から視線をそらすと

テレビの後ろから
ビックリしたような顔で僕を見上げていた
「ちえこ」
と目が合ってしまい

なんだか気まずい気持ちになってしまったのだった。