それは温かい春の昼下がりだった

あまりにも温かくていい天気なので
僕は近所を散歩する事にした


道端にはたくさんのタンポポが咲いていた
頬にあたる風がほんのりと優しく温かかった


時々買いにくるパン屋の横道を入ってしばらく行くと

見た事もない通りに出た

しばらくそのまま歩いていくと
不思議な洋館を発見した


蔦のからまるレンガの外壁の古びた洋館

初めて見るのに
なんだか懐かしい気がした


その正面までくると「めもあーる美術館」と書かれている


美術館なんだ…


こんな近所に美術館があるなんて聞いた事もなかった



入ってみようかな



庭にはピンクや黄色の綺麗な花が咲いていた
入り口に中年の女性がいて入場は無料だという


薄暗い館内は
壁に油絵がたくさん飾られている


僕は一つ一つの絵を丹念に見て行った



「保育園のクレパス」

という作品の前で立ち止まった


園児がクレパスを持って絵を描いている


あっ
このクレパスは…

覚えがある




僕が保育園に通っていた頃
僕はいつも行くのを嫌がっていた
母親に園まで連れていかれると
いつも泣いていた



僕は他の子供達と一緒に遊ぶのが苦手で
いつも一人で砂遊びをしていた



担任の保母さんはそんな僕をどう扱っていいのか
いつも困っていたのだと思う



ある日
僕は保育園に行かないと行ってダダをこねた

前の日に砂遊びをしていたら
ワンパクな女の子に頭から砂をかけられて大泣きをしたからだった


何日もお休みをしたある夕方
担任の保母さんが訪ねてきた

「〇〇ちゃん、また保育園にきて、先生とまた遊ぼうね」

そう優しい笑顔で僕に話かけた


僕は母親の後ろに隠れてイヤイヤをした

「…〇〇ちゃん、お絵描きが好きだよね、先生クレパスのお土産持ってきたから、これでお絵描きしてね」

そう言って先生はクレパスを置いていった



次の日
やっぱり僕は園を休んだ

休んで家で絵を描いていた


先生がくれたクレパスで
一生懸命いろんなものを描いていた



翌日
僕はまた保育園に行った


母に手をつながれて少し不安そうに園に入ってきた僕を
先生は嬉しそうな笑顔で見つめてくれた



「せんせい…これ」
そう言って僕は昨日描いた絵のうちの一枚を先生に渡した


それは先生を描いたへたくそな絵だった


先生はそれを驚いたような顔をしてじっと見つめ

ポロポロと涙を流した

先生の涙は頬をつたい僕の手落ちた

温かい涙だった

その温かさが僕に伝わって
先生の優しさを感じた

僕はそれがうれしくて笑おうと思ったけれど
なぜか悲しい気持ちになった

そして やっぱり園に来て良かったと思った




いつの間にか

僕は泣いていた


気がつくと


そこは


美術館などではなく

見慣れたパン屋の駐車場だったのだ。