日本での通称バスレフ型、正確に表現すればポートを使ったバス・レフレックス型、=海外で正しくはPortedまたはVented型と呼ばれます。
... を考察します。
日頃、Ported(バスレフ)は音質が悪いなどと知ったか/半可通な事を描いていますが、本当のところ完全に解ってるわけじゃない。自身の勉強も兼ねて、AESの文献などもひっくり返しつつ、学習と考察をしてみます。
私がこれまで知る限りでは、Ported型の欠陥は以下の通りです。
(1) 汚い中域が高レベルでポートからダダ漏れになる (Midrange Leakage)
(2) 中~中高域では笛として動作する(Flute Noise)
(3) ポート音速上昇で乱気流/渦流が発生、大きなノイズ源となる (Turbulence/Vortex Noise)
(4) 群遅延特性が悪い (これは本論と無関係なので今回は割愛)
(1)中域の音漏れ
スピーカー(ドライバ)背面の音なのだから、そんなに高い音は混ざっていないと、「思いたい」じゃないですか。でも、その思いに反して、かなりの高レベルでポートから高い音が輻射されています。しかもキャビネット内部で複雑に乱反射され、位相もくそも無い劣化信号がフロント信号へ超高レベルで重合されます。再生音がタダで済むわけもありません。多大に再生音を汚します。
文章だけで伝えてもなかなか信用されないので、実測データの実例をいくつか観てみましょう。
ブランド名は伏せますが。超有名ブランドの有名なラウドスピーカーシステムです。
レッドがポートの音圧レスポンス。これがグリーンのウーファーレスポンスと重畳されます。
これもブランド名は伏せます。超有名ブランドの有名なシステムです。
いずれも、ポートの「低音用の輻射レベル」と同レベルか、または-5dB程度の超高レベル中音域がポートから漏れ出してしまいます。
実はこの特性には (2) Flute Noiseも密接に関わっています。
Ported型のポートは中高域で両開放端の共鳴管=笛になってしまいます。その周波数帯の信号が印加されると、そこの周波数が助長されて漏れ出す特性があります。両端開放では1/2波長となりますので、30cmのポートなら600Hz前後、15cmのポートなら1200Hz前後が共振のピークになります。この(2)も、ポートを持っていて=気柱共鳴が起きる形状であるかぎり、避けられないと言えそうです。
バスレフポートというのは本来ならポートチューン周波数である、例えば40Hzだけを再生してほしいのです。しかし現実には中域が染み出してきており、またフルートノイズである700Hzとかで強い共振レベルを示します。
ポートの向きに熟慮したり吸音材で遮蔽したりして出来るだけリーケージを減らそうとしたりしますが、何しろ笛ですから、共鳴周波数がドライバから僅かに励起されただけでもそれを助長した信号がポートから漏れ出して来るんです。
上図の2モデルはアマチュア制作ではなく又無配慮でもなく、それなりにバスレフポートの実装に拘ったプロが製造してコレですから、中高域の漏れはある程度避けられない、と考えた方が良さそうです。ただし、(1)(2)の解決策は、無くもないです。
カンタンに言えば、ポートを励起するドライバ(=ウーファー)に中高域を印加しなければいいんです。メンブレンから中域が出ていなければ、必然的にその背面のポート音の中にも中域が含まれづらくなります。
(改善例)
こちらも超・有名なコンパクトラウドスピーカーですが、ウーファーとミッドレンジのクロスが220Hz付近に来ています。それに付随して、ポートからも220Hz以上の帯域が出辛くなっているのが判ります。
逆に、
こういうシステムがあります。せっかくスーパーバスのXoverが低くても、(スロープ調整用に)ミッドウーファー、ミッドレンジ、全てがポートを持っているタイプでは、それらミッドレンジポートから中音域が染み出してきて再生音をカラーレーションします。
3) ポート音速によって乱気流/渦流が発生、大きなノイズ源
Ported型というのは、エンクロージャー内部のエアコンプライアンスとポート内のエアマスが組み合わさってヘルムホルツ共鳴システムを形成することで、ウーファー振幅変位が小さいまま、低域下限を伸長することに成功します。だが細いパイプの中を空気に圧力が掛かり出入りすることで、パイプ内の音速が周辺の音速(345m/s)より遥かに高くなり、ポート端面が境界条件になってしまいます。
私の学んだ限りでは、そのポート内の音速が速ければ速いほど/∝入力パワーが大きければ大きいほど、乱気流や渦流が発生し、ポートの音響システム(伝達関数)は強い非線形を示しはじめる。そして、その強い非線形は大きなノイズ源となって再生音を濁す。ということだけは学びました。小さな音量では計算通りに動くが、音量を上げていくにつれ線形性が崩れ容易に破綻するということです。大入力ではポート内の圧力が上昇、流速も上がってしまう為。
また一般に、ポート内流速を下げる(=ノイズ低減)には、ポートの直径を大きくすれば良い、ということが知られていますが、まさかエンクロージャーの1/3をポートで埋めるわけにも行きませんし、また伝達関数の挙動がPortedなんだかTLsなんだか判らないような形状システムにするわけにも行きません。つまり、ポート断面を広くするにも限界があるということです。
・・・という所あたりが私の知識の限界で、では、どういうレベルで、どないな感じで信号劣化しているのか?は知りません。
そこで、AESの論文のいくつかをひっくり返してみたりして、Portedの問題の解析をしているものを読んでみました。
端面が「パッツン」のバスレフポートは最悪
一般に、ポート両端をフレアードポートにすることで、ポート周辺の空気とブレンディングすると、ポートノイズを低減できるという結果が知られています。これはつまり、ポートの音響境界条件が急激に変化するところ、間にマッチングトランスのようなモノ(フレア)を置いて、周辺の空気との伝達関数のマッチングを取るわけです。本稿ではこのポートブレンディング技術を、単に「ブレンド」と呼ぶことにします。
逆説的に言えば、古来からの「パッツン」とポートが切れちゃっているPortedは最悪と言って良いです。
つまり、こういうポート。ブレンディングが無いモノ。
入口にも出口にも、フレアが付いておらずストンとキレているタイプのポートです。
これらポートは、少ない入力レベルでも強い非線形(ノイズ)が出るようです。
もし今後、Ported型システムを購入するチャンスがあれば、ポートが(見えない)内側も外側もフレアーが付いているかどうかを確認してから、購入するようにしましょう。
私の持っていたKENWOODのリアポートも、スーパーぱっつん(笑
対して、
ノイズレベル良好なのはこういうモノ。
こんな風に前後とも末端がフレア加工されたモノが良い。
では、どの程度のフレアなら性能が良いのか?満足と呼べるのか?
ここでポートの形状とノイズの影響度を解析している文献から一部引用します。
上図は実験されたフレアードポートの形状を示しています。
- まったくブレンドを持たないもの。
- 端面にわずかにブレンドを設けたもの。
- 大きなブレンド:フレアーの中心直径を57, 59, 61mmと徐々に変化させてフレア率を変えた3種*です。
濃い実線はポートのアコースティックプレーンを示しているそうです。実際には、これが平面(平ら)であるほど、良好な性能が得られたようです。
3種* この57, 59, 61mmはポート中心部の直径を示していて、fb(共振周波数)は同じです。
開口部面積はほぼ同じなので、中心直径が小さいほどフレアーの度合いは強くなります。つまり、57mmがもっとも大きなフレア曲率を持ちます。
これらのポートノイズの出方を比較したのが下図。
ラウドスピーカーに印加する出力が上がるほど、ポートノイズが劇的に上昇。
ぱっつん=ブレンドを全く持たないポートは最悪だということが判ります。
わずかなパワー増加でノイズはぐんぐん上昇します。
時点で、ほんのわずかのブレンド(小さなフレア)を持つポートはだいぶマシになります。が、それでもパワーを印加していけば劇的に非線形が大きくなり、ノイズ上昇します。
そして、大きな曲率のフレアを持った直径57, 59, 61mmは性能がかなり良くなるようです。
こんなに違うとは思いませんでした。これならば、パワーを50W以上突っ込まない限り、ノイズフロアの上昇が最小限なので、フレアドポートなら(乱気流ノイズに関してだけなら)実用になりそうです。
ただし上図いずれのケースも、最小で0.1%を超えるノイズフロアから始まっているのは着目してよいでしょう。アンプになぞって言うならば、(1)(2)共併せPorted型は最初から歪率/SNRの悪いアンプを使っているのと同じ音質劣化があります。(THD+Nの検知限は0.05%とも言われます)ポートの悪影響を減ずるには出来るだけ小さな音量で聴取するのが対応策かもしれません。
また、今回の学習で、フレア曲率は大きいほど良い...というわけでなく、最適解があるという所、とても勉強になりました。今回のケースでいうと、59mmの真ん中のブレンドが一番成績が良くなっています。
[2024.05.21訂正]
嗜好テストでは、15名の被験者に対し、ブラインドテストが実施されました。
そして、聴感上の好ましさも上記グラフと完全に相関性が認められました。(ノイズが少ないモノほど高スコア)
また、40V以上の大パワーでは、59mmのポートが最も成績が良くなりました。すなわち、ブラインドの被験者はノイズの有無を鮮明に聴き分けた、ということです。(=特性上無視できない)
ただし、フレアードポートで解決できるのは (3) 要因だけであり、因子(1)(2)は別途解決せねばなりません。
ポートのフレア形状が示す大きな性能差を定量的に見ることも出来ました。少なくとも、この情報はお買い物ガイド的には使えそうです。
現在私が制作中のMX-1000HのMicroSubでは、ポート断面が小さいので音速が最大化され、( 1) 2)は無いんですが)3)は最悪です。少しでも症状改善できるよう、ポート前後端はフレア加工を一生懸命やることに決めました。
下の動画は面白かったのでご興味があればどうぞ。
ポートのスリットにツイストを加えることで、一定量タービュランスが防げるというものです。見た目に分かりやすい。
こちらは流体力学シミュレーターで擬似的に制作した動画とは思いますが、今はこんなところまでシミュレーションが可能になっているのですね、という好例でした。
以上です。ポートの示す非線形は音質に重大な悪影響を及ぼすようです。
多少の改善は出来ても、ポートから染み出してきた中音域や乱気流ノイズは着実に再生音を汚している。この定量的事実は着目しておいても良いでしょう。アンプの歪率、D/A変換の精度、ケーブルの音質差などとは比較にならない大きなオーダーでの音質劣化でした。
余談ですが、このPortedの音速歪の問題を回避するため、音速を意図的に下げようとする、VarioventまたはAperiodic ventと呼ばれる、Portedの亜種があります。吸音材でベントに制動を掛けるようなモノですね。自分でも作れそう。