KENWOOD LS-11ES、お戻しシリーズ~。

その後もリペアを進めていましたが、

とうとうお戻しが完了しました。

元のジャンクとは別物になりました。外装の打ち傷をキレイに補修しても良いのですが、補修が余計なお世話なこともあるためそのままにしておきます。

 

 

測定比較

 

さて、ウーファーの軟化処理によって、特性はどのように変わったのでしょうか。

FsやQtsが低下したのは判りましたが、周波数レスポンスは?

 

青がLch、赤がRchです。

時間窓5msと無限長のBlendedなので、疑似無響相当なのは400Hz付近まで。

1/12th oct.のスムージングを掛けています。

 

ね、凄くありません?この測定再現性。きちんとアライメントして同一条件で測定すれば、きっちりアーティファクトの除去ができて、何度測ろうが同じような測定結果になるのです。

それにしてもこのスピーカーシステム、L/Rの特性にほとんど差がなく揃っているところは素晴らしいです。暴れ方までほとんど同じなのだから(笑)

 

一番注目するのは、ウーファーサラウンドの軟化処理での低域改善です。

それなりの改善の形跡は見られますね、よく分からん落ち方ですが。

低域は段差を伴いながら、超低域までダラダラと伸びており、グラフの見ようによっては「35Hzまで伸びている!」みたいな見方も出来るかもしれません。しかし、聴感上はまったくそのようには聴こえないです。中低域と-10dB以上の段差ができてしまってるので、「凄い超低域まで再生できている!」との印象にはなりません。普通に小型ブックシェルフの限界のある低域です。

 

こちらは、Before / After の比較グラフ

グラフが見やすいように、若干レベルをシフトしています。脳内でレベルを重ね合わせて見てください。

薄緑が我が家にやってきたばかりのLS-11ES。

ブルーはウーファー軟化処理され、側板が補強された、現在の特性。少し形が違いますよね。

でも中高域の妙なカタチは相変わらずでそっくりそのままかな。

 

グリーンの方がナミナミしているのは、スムージングに 1/12th, 1/24thと違いがあるためです。総合的なf特のアバレにそんなに大差はありません。対策が効いたためか、相対的なローエンドは伸びています。低域の段差も少なくなっています。中低域(140Hz - 350Hz)の盛り上がりもなりを潜めています。

 

本邦初公開~っ

 

サランネット、アリ/ナシのf特の違いを見てみましょうか。

(5msec.のファーフィールド完全疑似無響)

 

青がサランネット無し。赤がサランネット有りです。

 

うぉおおおお この結果は私も驚きました。想像とまるで違います。

ほとんど違いが無いじゃないですか。

もう少し高域が落ちるものと思ったんだけどな・・・。

 

これは、よく言われる「サランネットの音の透過率」には全然問題がなくて、f特の違いはむしろ、ドライバ前面に干渉するサランネットフレームによるディフラクションによって生じた差、と読みました。だから違いがうんと高い周波数よりは2-4kHz付近に出てるんですね。

このようなビミョウな特性差でも、人はサランネットの有り無しによる音質差を如実に感じますよね?物理特性によって音は決まらない、というマニアも沢山いらっしゃいます。ですが上記事実からも、我々はもっともっと、周波数特性/物理的な特性が整うことに神経質になっても良いと思うのです。

 

 

サランネットに関するすこしのウンチク

 

一部のブランド・スピーカーシステムは、サランネット装着を前提として音作りをしていることご存知でしょうか。

代表例が、Avalon Acousticsや、(無くなっちゃたけど)Thiel Audioです。あと、TANNOYもそうかな。

AvalonやThielはサランネット装着を推奨しています。だから、外して聴くと彼らの想定よりはちょっぴりブライトな音色になってしまうそうです。

 

Avalonの場合は、サランネットフレームの裏側にフェルトが張り込んであり、それによって中高域の輻射を防ごうという狙いがあります。また、Thielの場合はサランネットがバッフル面を覆うことにより、中高域のバッフル面からの輻射を抑止します。つまりバッフル上の中高域輻射は二次音源=定位を阻害する邪魔なものとして、それを排除するような設計思想ということでしょうか。WilsonAudioではバッフル側に装着されるスポンジと同じ効能が、AvalonやThielではサランネット側に仕込まれているようなイメージかな?

 

日本人だと恐らく、サランネットなんて”音を阻害するジャマな存在”という固定観念と生理的拒否感があり、サランネットを外すことこそピューリズムということで外してしまう事が多いと思うんですが、欧米ではその真逆のアプローチをしているエンジニアがけっこう居るということです。

TANNOYプレスティッジの場合は音響追求というよりはインテリアとしての佇まいを重視しているのでしょうから、サランネット装着を前提として音作りをしており、しかし外された場合の特性補償として、各種の中高域チューニングの仕掛けが標準で搭載されているというわけです。それは卓見だな。タンノイもネット外すとちょっとキラキラしてますが、調整可能な仕掛けを用意していることは評価に値します。

「どこぞの誰かから刷り込まれただけの無根拠な常識」を盲信せず、それは本当に正しいか?と常に自問自答する批評性や論理的思考が重要に思います。

 

 

 

ラスト視聴

 

元のクロスオーバーに戻して、オリジナルの状態で久々に視聴してみました。

 

ウン・・・イイ感じ。以前書いた感想文と同じです。確かに低域は少しだけ伸びて良くなった気がしますが、でも総合的な印象はそんなに変わらないかな。私が揶揄していた中低域の「クセ」みたいなものは、相当に良くなった気がします。これはウーファーサラウンドの軟化が効いたのかも知れないし、もしかしたら側板の補強も多少効いてるのかも知れないです。そのことは周波数特性上も現れています。ただ、それによって「低域が凄く伸びて良くなったな…」とかはあんまり無いですね。

 

以前聴いていた「最適化自作パッシヴクロスオーバー」や「miniDSPマルチアンプ」に聴き比べてしまうとな、、、、様々な視点で劣ります。

 

ばっさり判定するとこのスピーカーシステムは「メリハリ型」という表現になるのでしょうか。

ハキハキとくっきりとしゃっきりと、鮮明にイロイロな事を提示してきます。その割には本当の分解能があるわけでもないんだな。だから、くっきり鮮明な音が好きな方には刺さるのではと思います。少しハイ上がり気味だから爽やかでもある。f特には大小の凸凹が沢山あり、しかしトータルでぼんやり見ればバランスが取れているというタイプ。これは私が聴くとかなり癖があるスピーカーですが、この癖が好みという方が居てもおかしくない音質だと思います。繰り返しになりますが中域には独特の良さがあると思いました。 ==以前の感想から大きくは変わりません。

 

例えば今日はなとり聴いてたんですが、正直言うと10分ともたない。すぐに停めたくなってしまう。

 

 

このサイズのラウドスピーカーは上は300万円くらいから、下は3000円くらいまで。ダイナミックレンジが激しすぎます。これは下から数えた方が早いくらいのスピーカーシステムだとは思いますが、それにしたって、ナニが要因で価格がそんなに違うのよ。というのは素人でなくても疑問に思う部分ではあります。もちろん私も説明不能です。