市販ハイエンドスピーカーはアンプ破壊者

 

最近、いつものようにStereophileの製品レビューを眺めていて、特性の良さに感心したのがこちら。KEF のBlade Two Metaというラウドスピーカー。

ローエンドの伸びこそウチのAndromedaには敵わないものの。300Hz - 18kHzでのフラットネスは驚異的。±1.5dBというところでしょうか? これにはウチのAlpha (±2.0dB前後)も歯が立ちません。しかもこれはメーカー発表のいんちき特性でなく、Stereophileがいつもの美術ホールで測った疑似無響特性ですから。他人が証明したゴマカシない本物といえるでしょう。他の自称ハイエンドスピーカーを漁っていても、このレベルは滅多にお目に掛かれません。

300Hzより下は近接場の無響特性/300Hz以上がFarFieldでの疑似無響だそうです。ウェイブガイドが効いてか、水平方向指向特性もじつに揃っています。低域が+5dBほど盛り上がっていますが、こんなのはご愛嬌でしょう。調整範囲内だと思います。

 

そんな整ったBlade2 Metaですが、感心できないのは、インピーダンス特性(アンプへの負担)です。

電気位相特性はこれといって特筆すべきところはありませんね。凡庸。

徹底して振幅特性を平坦に整えた「ツケ」として、インピーダンスがやばいことに。

 

EPDRは、30-39Hz間、813-881Hz間において2Ω未満にも達する。

また、3.9k-14kHz間においては3Ω未満に達している。

最小のEPDRは34Hzにおいて1.23Ω

813Hzと881Hzにおいても1.64Ωに達している。

 

まさにアンプキラー。ゲロー

凡百なパワーアンプでは保護回路が動作してしまうことでしょう。

また仮に、保護回路が働かなかったとしてもこれだけ低い容量性/誘導性負荷がかかっているということは、アンプ動作としてもタダでは済むはずもなく。正常な動作点ではなく、音質にも重大な影響が出るほどの重負荷であると想像されます。

 

EPDRとは?

Equivalent Peak Dissipation Resistanceの略。

スピーカー側でのインピーダンスカーブだけでなく、その周波数での位相も加味することで、アンプ側から見た実効負荷を算定する新しい指標です。「インピーダンス単体では3Ωでもアンプ負荷としては2Ω切っている」など、現実のアンプ負荷の厳しさを、より正確に評価できる指標です。

 

いくらラウドスピーカー単体の静的物理特性がよくなっても、アンプに絶大な負荷を掛け、アンプ本来の音質さえも歪曲させてしまうインピーダンスカーヴは、いかがなものか。必然性は理解しつつも、現代の潮流はあまりにも極端な方向性へ倒れています。KEFのBladeを真空管アンプで駆動するだと? ......狂っているとしか。少なくとも「自称プロ」の方々は無配慮にそういうこと人に薦めてはいけません。

 

 

 

ディジタルクロスオーバーの絶大なメリットのひとつに、まさにこの

パッシヴクロスオーバーで多大だったアンプ負荷をほぼ解消できる

があります。

パワーアンプは各ドライバにほぼ直結となりますので。アンプは余裕しゃくしゃく...つまりアンプの音が良くなります。また、極端な多パラレル終段のモデルをチョイスし、高域特性を劣化させ、フォーカスもボケた音質のアンプを使う必要はなくなります。

 

 

インピーダンス急下降こそが現代スピーカーのトレンド

 

今回はKEFを取り沙汰しましたが、現代ハイエンドはどのブランドも大なり小なりこの傾向があります。

いつの頃からか、クロスオーバーを内蔵しているラウドスピーカーの最低インピーダンスは急転直下の一途を辿った。「公称インピーダンス」などというものは何の意味もなさないので信用してはいけません。(Blade twoで公称は4Ω、しかし実効EPDRは1.23Ωですから。)

 

私も古い時代のトレンドに詳しいわけでもありませんが、この流れはリボンやプレナータイプのラウドスピーカーが一挙にトレンドとなった北米で始まったそうです。インピーダンスが平坦なだけでなく、帯域によっては2Ωを切るようなプレナー型が大量に市場に出回った。当時市場にあったアンプは片っ端からクリップ・故障・保護回路が働いたそうです。

それら次世代ラウドスピーカーに対応するため、米国アンプは設計が豹変した。やたら多パラレルでインピーダンス変動に強く大突入電流に耐えられる設計。おそらく、このアンプのプレナー対応がラウドスピーカーの設計を変えていったと推測しています。クレル、ジェフ、マーク・レヴィンソンなどですね。

 

プレナーではない従来型の直接放射導電型ラウドスピーカーも、このアンプの性能により掛かるようになった。また、まるでプレナーのようにホログラムが浮かぶ音場型スピーカーが出現しはじめた。代表格はWilsonのSystem5でしょうか。

この頃から欧米ハイエンドは、強烈なドライバー補償によって、なかば強引に振幅平坦/位相直線(コヒレンス)を目指すようになった。しかし、この強引な特性補償のツケが何処に来るかと言うと、実はインピーダンスの低下に現れます。

 

例えば高域ブレイクアップのノッチ。これを効果的に潰すには、たとえばそこのインピーダンスがゼロに近づくくらいその帯域を「ショート」してしまえば潰れるんです。アンプに掛かる負担は一切無視し、ひたすらラウドスピーカー側の特性改善だけを目指すと、インピーダンスは底の抜けた樽のように低下してしまいます。

 

上図は、VituixCADのクロスオーバー・オプティマイザです。

 

図に示すとおり、最低インピーダンスの設定があるんです。

ここのチェックを怠ってオプティマイズを走らせると、オプティマイザは無制限にインピーダンスを低下させるように動作してしまいます。つまり、強い位相・振幅補償はインピーダンスの低下=アンプの負担上昇とトレードオフにあります。

 

 

 

現代のハイエンドラウドスピーカーは、あまりにもアンプの体力に「おんぶにだっこ」過ぎるということが解りました。アンプの音質劣化や経年劣化を配慮してくれていない。自分良ければそれでよしという利己主義的。

特性や精度でパッシヴネットワークに水を空けつつ、そちらも改善できるのがディジタルクロスオーバーのメリットです。

 

ドライバー単体でのインピーダンス未満には、どうやっても沈下しなくなります。当たり前ですね。アンプ直結なんだから。つまり、

 

ディジタルXoverはアンプを救済し、本来の音質を取り戻す

ラブ