チャンネル別の信号処理を屠ってみよう
自作スピーカーをディジタルクロスオーバーで完全制御するの巻。
miniDSPのConsole上。
フィルターを始めとする、各チャンネルの信号処理は右側に見えている各チャンネルのパネルで行うことになっています。
今日はココを触ってみましょう。
このアウトプットには名前を付けられる(名称変更)ようです。
たとえば、私の場合はOutput1にSuperLow-Lと名前を付けました。
グレー背景の場所は、信号のルーティングを示しています。
上段が Input ch1, 下段が Input ch2 と考えれば大丈夫です。
ステレオ入力の場合、1をLch, 2をRchと考えて大丈夫です。
それぞれのOutput chにどの入力信号をアサインするか、このパネルで設定します。
パネルの説明
上段ライトグレーゾーン。
0dB : と表示されているのはこのchのゲイン設定を表しています。
INVERT: は位相反転の設定を表しています。ここが緑色にインジケートされると、位相が180度回転して出力されているということです。
下段のダークグレーゾーンは以下のとおりです。
PEQ:
パラメトリックイコライザーを設定します。
CROSOVER:
クロスオーバーの周波数や遮断特性を設定します。
Delay:
このchのディレイ時間(または距離)を設定します。
タイムアライメントが可能です。
Gain 0:
このchのゲイン設定です。
INVERT:
このchの位相反転設定です。
MUTE:
このchを消音します。
COMPRESSOR:
コンプレッサーを設定します。
RMS-Meter:
音楽を鳴らしていると、ここに信号がリアルタイムでレベルインジケートされます。
クロスオーバーを設定してみる
私の使っているAndromeda-Alpha (4way) を題材にとって、クロスオーバーの設定をしてみます。
上図、チャンネルコンソールの[CROSSOVER]をタップすれば、クロスオーバーフィルターの画面(下図)になります。
まずはSuperLowから・・・
上部MENUにおける「Link Channel」のスイッチをONにして、リンクを設定します。
これをリンクすることで、LchとRchに全く同じフィルターが設定されます。
Active Links : SuperLow-L <link> SuperLow-R
と表示されていることから、スーパーローチャンネルのLとRが同じ設定になっていることが判ります。
これはスーパーバスの設定ですから、
- LOW-PASS FILTER だけをEnableにする。
- Cut-off Frequency は45Hzに設定する。
- Filter Type はLinkwitz-Riley 48dB/octaveに設定しました。
これだけです。簡単ですね。
同じように、Midbass, Midhigh, Highチャンネルに対してもフィルターを設定していきます。
はい、4wayぶんの設定が完了しました。
DSP-408にはない遮断尖度。LRの-48dB/octにしてみました。
もし、この世のウーファーやトゥイーター=ドライバーが、全く同一能率、全く同一のアコースティックセンターで実装され、全帯域フラットで低域共振も高域共振もなく、振幅平坦位相直線であれば、これで設定は終わりなんです。
でも、そんな都合よいドライバーが在るわけ無いじゃないですか(だったらそれ1本フルレンジでいいじゃん)。ですから、このフィルターでも特性よく繋がるように、各ドライバーの特性を事前補償しなければなりません。
だから、(そういう機能の備わっていない)過去の”チャンネルデバイダー”と呼ばれる商品はすべてダメです。
このBlog上で繰り返し繰り返し書いてきたこととして、市販ハイエンドスピーカーは必ずクロスオーバーネットワーク上にスピーカーの補償回路が含まれています。すなわち、
- スロープや位相が正しくなるようインピーダンスを補償する
- スコーカーやトゥイーターの低域共振を無効化する
- バッフルステップを補償する
- 高域共振を補償して平らにする
- その他、平坦でないスピーカーの特性をならす
これらの一部、または全て。これらを実施していないスピーカーは現代スピーカーとして落第です。
したがって、このConsoleもそれらの特性補償を前提としています。
それも実例を挙げれば分かりやすいのではないかと思います。
ウチのAndromeda-Gammaです。
一切のドライバー補償をせず、ただドライバー裸特性のまま、計算値だけの4次で繋いでみたのがコチラ。
グリーンが合成特性です。
うーんこりゃヒデえ。聴くまでもなく実用にならないヘンな音だと思います。
計算上のネットワーク回路定数だけを頼りに、答え合わせをしていないアマチュアビルダーの多くが、こうした特性に陥っている可能性が高くなります。
ウチのGammaの補償後(実測)はこちら。
全然違いますね。
ウチのGammaの音を完成たらしめているのは間違いなくドライバー補償だし、それ抜きではGammaの音でなくなってしまいます。それ、アンタの特殊なドライバー「だけ」と思っていますよね? これからも折りに触れ、「いかに机上計算のネットワークがダメか」事例を挙げて徹底的にダメ出しをしていきます。
(お相手を無視して”周波数を変えられるだけ”のチャンデバでは、良好な特性は困難)
(お相手も決まらないのに、”クロス周波数=***Hz”と書いてある、つるしの/出来合いのネットワークも同様)
PEQを使ってドライバーを補償してみる
ドライバーの特性補償には、PEQ(=パラメトリックイコライザ)という機能を用います。
フィルタコンソールから[PEQ]をクリックして、調整のUIを見てみましょう。
上図が、未調整状態で現れるPEQのUIです。
●最大で10種までのイコライジングを実装することが可能です。
●また、その10の各イコライザで出来るフィルターのモードは、以下の4種で、ほとんどの事ができます。
- Peak
特定の周波数帯域を強調、または減衰させるフィルタです。
Fsやブレイクアップを潰すにはこれを利用すればよいでしょう。 - Low Shelf
低域側のシェルビング(階段状)フィルタです。
バッフルステップ補償等にはこれを利用すれば良いでしょう。 - High Shelf
高域側のシェルビング(階段状)フィルタです。 - All Pass
振幅特性を一切変えずに、位相だけを回すためのフィルタです。
DSP-408に比較すると、オールパスフィルタが加わっており、一層柔軟な調整ができそうです。少なくともDSP-408のセットアップはminiDSP上でも完全再現ができます。
では、実際このPEQを使って、GammaのMidhigh = AMTPRO4を補償してみましょう。
実際に補正に使ったのは、10個あるうちの4個だけ。
オレンジのラインが補正後の特性を表しています。
ハイパスフィルターは未だ掛けられいませんから、低域も伸び切っていますね。
AMTPRO4に対しては、以下EQ1~EQ4の4種の補正を施しています。
1. 低域側をステップ補償します
2. 高域側をステップ補償します
以上の2つで、原理的に発生してしまうAirMotion型のハイ上がり傾向を線形補償します。
3. 低域側のFsを補償して耐入力を優位にしかつミッドバスとスムースに繋げます
4. 大型AMTでかつシェルフフィルタにより最高域が不足するので、ちょっぴり持ち上げます
以上は、Dayton DSP-408のセットアップをそのまま持ってきただけです。
-48dB/octのフィルタとは整合しないかも知れませんので、以後は計測しながら合成特性が整うように微調整するわけです。特にAMTPRO4の低域端がわですね。現状のAMTPROの低域側はLR24のカーヴに合わせてフィッティングした結果ですから、LR48になると、普通に考えて合いません。
今回は説明しませんでしたが、[ADVANCED MODE]の中では自分でフィルタ係数を記述できるようです。
以上miniDSPのフィルター設定UIは、経験者には解りやすく、かつ柔軟性も備わっているので調整に難しさは無さそうです。
次回は、どうしてディジタルドメインでクロスオーバー設計した方が優位性があるのか。もう少し突っ込んだ説明と、現代ハイエンドスピーカーが抱えている潜在的課題について事例を取り上げたいと思います。