Xover考察、興味のある方だけもう少しだけお付き合いください。所詮は自作スピーカーやろうの戯言です。

 

 

おさらい

 

前稿では、色づけの原因になるのでミッドバスにできるだけ高い周波数を受け持ちさせたくない。という趣旨を説明しました。しかしトゥイーターとのクロスを不用意に下げると今度はトゥイーターが苦しくなる、というトレードオフの話もしました。

これを分かりやすいよう図示するとこんな感じになります。

 

 

 

もしこれが7インチミッドバスだとすれば、高い方まで使いすぎです。

これは2wayとして見たときは帯域バランス的にもウーファーに依存しすぎですね。それでもう少し左側へシフトしたくなるわけなんですが...

 

 

 

 

低いところまで使えるトゥイーターはレアなので、普通のドームだとトゥイーターが苦しくなりなかなか難しいねと、そういう話でした。

話を簡素化するため、スロープの話をしていませんでした。当然ですが、上記のフィルターの遮断特性もおおいに音に影響します。個性の抑制だけが目的ならスロープは急峻であればあるほど良い、という事ですね。

 

 

なんでこんな話を始めたのかっていうと、実は昔、結構鮮烈な体験があるからです。

当時、私は7inchのミッドウーファーを使った2wayを使ってたんですが、そのときトゥイーターとのクロスオーバーは2.7kHz位だったんですね。そのトゥイーターは極端に変位が取れるような物ではなかったので。で、音はそれなりに気に入っていて、独特の透明な空間感が好きだみたいなお話をしていたところ「それはこのウーファーの個性を聞いて好きだと言ってるだけだよ」と言われたんですね。実際、そのとおりだったんです。それからクロスオーバーを思い切って1.5kHzまで下げてみたんです。ほったらかしのブレイクアップもきっちり潰して、3次くらいだったかな。(アコースティックには4次くらいのスロープ) クロスを下げたうえに回路が複雑化、高級パーツも投下したのでお金も掛かりましたね...。

そうしたらね、音が変わったんですよ。ややそっけない音にはなったけど、とても静かになった。本当に没個性な感じになった。代わりに、何を聴いても違う音がするようになった。今まで聴いていたのはスピーカーの個性だと気づいた。これはショッキングでしたね。。。ロクハン程度で、3kHzが使えないってどういうこと?って、正直思いますが。

それでも、良くなったのはのは小音量だけで、ボリューム上げるとやっぱりトゥイーターがキャンつくというか悲鳴を上げるのですよ。それはそれで色づけでした。限界でした。この体験があるんで、Andromedaではクロスオーバーにポリシーというか方針みたいなものが有るのです。

 

 

Andromedaはミッドバスに無理させない設計思想

 

私がAndromedaを考え始めた時に、最初はミッドローを7インチで考えていました。しかしこれが最期のスピーカーになるし、あまり小型にはしたくなかったこと。また、スーパーローとの繋がりの連続性を考えたら、ミッドバスは8インチが良かろうと。

7" と 8" は、ほんの僅かしか口径が違いませんが、標準的エンクロージャー容積には大きな違いがあります。ざっと2倍くらい違う。

 

で、8inchならば高い方はどこまで使えるのかというXoverを設計するわけですが、このとき1kHzを上限と決めました。

Andromedaは、Upsilonを除いてすべてが8インチですが、3種類のウーファーは全て違うドライバーです。そんないい加減な決め方でいいんでしょうか?いいのです。口径によって分割振動の起き始める周波数はだいたい決まり、指向性が劣化しはじめる周波数もだいたい決まります。仮にカワムラセンセのような先達を知らなくても、経験則でそうしていたと思います。

 

 

ナニを上に持って来ようが、絶対にクロスは1kHzより上げない。」最初にそう決めました。このミッドバスの上はどんなドライバーなら1kHzまで使えるのだろう?という逆算から、中高域ドライバーをセレクトしました。

 

 

では、最終的な仕上がりをちょっと見ておきます。

 

これはAlpha (4way) です。ミッドバスとミッドハイの有効クロスはグラフ直読する限り、710Hz付近のようです。これは元々ミッドハイを加えて4wayですので調整に優位ですよね。全く問題ありません。帯域余裕も大きいから、セラミックのブレイクアップの遮断も優秀です。

 

 

 

これはGamma (3way) です。こちらが一番腐心したでしょうか。面積が大きいといえど、プレナーに1kHzまで持たせるのはそれなりに負担になります。現在は実効で960-1kHzあたりにクロスがあるようです。大音量再生しても、今のところ破綻は聴こえません。高次クロスなこともあり、まずまず上手く行っているようです。

 

もう1本のBetaですが、残念ながら有効な計測データが少なすぎてクロス線が描けませんでした。そのうち測らないと。

Betaのハイレンジは乱暴に言ってフルレンジみたいなものですから、一般的なコーンやドームよりずっと低い周波数まで使えます。おそらく現在のクロスは500~700Hz付近に来ています。

 

 

以前のレポートでも、「Alpha, Beta, Gammaの音は驚くほど似ている」とコメントしていたかと思います。その理由のひとつはミッドバスのクロスを限界まで下げて、中域~中高域の個性を抑えつけているからだと思います。ペーパーコーン、アルミ、セラミック・・・マテリアルが違うのに音は酷似するのです、特にファンダメンタルな帯域については。(高域や音場では違いを感じます)

悪さをする帯域を「使わないように」すれば、音は入力信号に近づいて、音が似ていくということだと考えています。

 

マルチウェイは、受け持ち帯域Oct.が均一になるのが理想です。Alpha, Beta, Gammaは図で見ても、ドライバー間の担当バランスがよく、うまく負荷分散できたかなと考えています。

 

 

分割振動は本当に悪なのか?

 

これまでの説明では、まるで分割振動を諸悪の根源みたいな表現をしていますが、もちろんそんな事はないのです。Andromedaでは、「振動板の個性が介在しない、ノンカラーレーションで生成りの音を聴いてみたい」と思っていたからそういうアプローチを採ったというだけです。もし完全にそれらを否定するのであれば、こんなモノを好きと言うわけがない。ブー

 

(全身が共振と分割振動のカタマリと言ってよい)

 

(10inchのフルレンジを50-5kHzで使って分割振動たっぷり。4兄弟の中にあってはこってり豚骨風味だが、捨てきれない魅力)

 

 

分割振動は起きないのではなく、所詮は起きるもの。ならばむしろ積極的に発生させ、かつ大きなインナーロスで収束し、平坦な特性にしてしまえ。その代表例がソフトドームであり、Bending Wave Transducerです。これらも現実を見据えた妥当なアプローチです。また市場を観察する限りは逆行も感じます。極端な忠実度指向より「個性」を尊重して加飾をくわえるタイプのプロダクトの方がずっと「ウケ」ているように見える。所詮は忠実再生など幻想でしかないのだから、オーディオならではの演色で「らしさ」を追求することこそ、現代オーディオだという考え方もあります。

 

また注目すべきは、極端な剛体ピストンモーション指向はフィルターにも高度を要求してくるという現実があります。代表例が、日本オーディオ全盛期のブックシェルフ3wayです。ハード系一色だった時代があります。それらは何処で聴いてもほとんどに個性を感じます。中を開けてみれば、ノッチひとつも載っていない只の2次であったりする。これでは、この結果は当然です。これだったらソフトな振動系を使った現代ハイエンドの方がよほど尤もらしい再現をします。ハード系のメンブレンを使いたいのだったら、徹底した不要帯域リジェクトをしない限りは、むしろソフト系より「個性的」な音質になってしまうという事だと考えています。; 逆算するとハード系はネットワークにも金が掛かるという事ですね。

 

B&Wの事例では、7inchに4kHzクロスは高すぎるんじゃないかな?的な揶揄を書きました。

しかしそれも思想の違いと思います。あのミッドは内部損失が非常に大きなメンブレンのようだし、特性としては平坦化されてるのでしょう(多分)。B&Wとしては、位相・アコースティックセンター・指向性に敏感な最重要ファンダメンタル帯域ではクロスオーバーを回避したい、というフルレンジ的な着想でXoverを考えているのかも知れません。それはそれでひとつのアプローチと思います。

 

おしまい。