Mike Oldfield : Amarok  (1991)

アマロックとはイヌイット語の方言で”狼”という意味とのことです。

 

今日はガラにもなくレコ評っぽいものを書いてみようと思います。

 

 

マイクといえば、レコード屋のヴァージンのオヤジが若かった彼の才能に惚れ込んで支援し、Tubular Bellsで伝説のVirginレーベルが立ち上がった。というのは余りにも有名な逸話です。

 

そんな伝説をさっぴいても、現代音楽や民族音楽やミニマルやプログレッシヴ・ロックを全部呑み込んで咀嚼し、万人に理解できるポピュラリティーを持ちつつジャンル障壁を取り払い聴衆の視野を広げた功績は絶大です。いやいや。そんな大上段な音楽的考証ではなく。マルチ楽器プレイヤーであって、オーヴァーダブおたくだった彼が、自身の得意とする重層的な和音で紡ぎ出したそれはまさに「ロック万華鏡」で。それは余りにも美しく、切なく、そして楽しく、大きな驚きをもってロックファンに迎えられたのです。(チューブラベルズの話ね。)それを自宅で友人に”通し”で聴かせると一発でファンになり持ち帰ったのも昨日のように思い出します。

 

’80年代に入ってからの彼は折しものロック廃止や難解音楽廃止の波にのって、若干ポップス寄りの音作りでそれはそれで楽しいしポピュラリティーも獲得しました。しかし、1990年になって彼は再び自身の原点とも言える「たった一人でオーバーダブで万華鏡を作る」という世界感へ回帰してきました。それがこのAMAROKです。

 

 

 

少しオーディオ的な視点でAMAROKについて書いてみます。

コレ、とても録音がいいんです。彼の記録の中でも録音の質では傑出していると思います。そして、これについてはアナログ盤も持っています。面倒くさいからCDも買いましたけど、音ならアナログがナンバーワンです。悔しいかな、Amazon HDもCD(をリップしたデータ)も未だ敵いません。

思えば、Tubular Bellsの時代は素晴らしい音楽なのだけれど、オーバーダブを繰り返す度に、音の鮮度は極端に低下していった。90年代になり、ディジタルレコーディングとディジタルドメインでのリサンプルやミキシングが常識となり、ようやく彼が本来録りたかった音が穫れるようになったのではないかと、愚考します。そのくらい、鮮度が、透明感が違う。

 

久しぶりにAMAROK全曲を通しで聴きました。ポピュラー系では珍しく、60分とおし1枚で1曲なのです。

そしてAndromeda-AlphaでAMAROKを通して聴くのもこれが初めて。

 

 

素晴らしいですね。改めて驚嘆し、感激しました。

 

AMAROKはA級録音とか、そういうものではないんですけれども、とにかく音が澄んでいます。歪感が低いんです。切れ味鋭く、生命感に満ちた透明な音像が空間に点在浮遊します。そして、低域も深く深く沈みます。かなりワイドレンジです。(そりゃRRやDorianほど超低域が伸び切っているわけではないんですけれど)30Hz未満のフルフルした空気感の帯域も含まれ、鮮度が高くHi-Fi調の鳴り方をします。低域はゴツゴツ岩のような硬いシーン、朝青龍の張り手のようなインパクトのシーン、春風棚引くような柔らかいシーンまで実に表情豊か。中・高域は細かい気配感までよく捉えられており、疑似音場感も広大。ポピュラー系の録音としては上級の部類に入ります。

 

前から良い音で鳴ってはいたが、Andromedaで彼の意図した真髄を聴けた気がしています。

 

 

 

作品としての最高評価は、初期のTublar BellsやOmmadawnが妥当。ということになるのでしょう。でも、私としては音の質も含めての総合評価で、このAMAROKを推します。というのも彼の音楽には録音の質が重要な立ち位置を占めると思うからです。90年代になり環境が整って、ようやく自身がイメージする音が残せるようになった。そうして結実した集大成こそがこのAMAROKかと思います。

 

ただ、これを録るには全身全霊の力を使い切り、燃え尽きたのでは?とも思います。なぜってこれ以降のマイクはシュリンクしてこじんまりした作品だけ出すようになります。そういう意味でもこれは、最初で最後の大玉花火だったと思っています。

 

彼の音楽は「地球」「大地」「大自然」「生命」というワードがよくイメージされる音楽ですし、タイトルにもそうしたものが多い。Alphaで聴いて、あらためてAMAROKは「これは生命賛歌だ」と強い印象を抱きました。一般の人にも解りやすく、孤独で厳しく、愉快で楽しく、限りなく美しくて切なく、そしてはるかに遠い。まるで人の一生のようです。

 

ラスト近くで高らかに打ち鳴らされる、チューブラベルズの余韻。これを聴いて胸が熱くなるのは、長年の彼のファンならば共時感覚なのではないでしょうか・・・。