測定をはさみながらの、24時間の耐久ブレイクインが終了しました。

それでは、結果発表したいと思いまーす。

 

まずは、インピーダンスカーブを重ねてプロットし、インピーダンスの変化を見ていきましょう。(スプシを使いました)

 

黄緑色から、ブルーにかけて、徐々に徐々に、Fs(共振中心周波数)が左へシフトしていることが分かりますね? ... ってこれじゃぜんぜん判らないか~。

 

では、スケールを伸長すれば少し分かりますかね?

 

これでもまだ分かりづらいですね。だいたい、Q・・・というかインピーダンスの極大値が上下に結構フレているのが謎ですね。

つまり、それくらいFsやQtsは環境因によるアーティファクトが大きいって事なんですけど...。

でも、だんだん周波数が低い方へシフトしていってることだけはハッキリしてますね。

 

それでは、取得した数値を具体的に見ていきましょう。

 

 

大雑把に俯瞰すれば、

  Fs(ブルー) Qts(オレンジ)は下降傾向。

  Vas(グリーン)は上昇傾向。

ってことだけは間違いないです。

でも、途中で上下動の逆転現象がありますね。3時間毎に観測しているのですが、6h、9hのあたりが怪しい。(これはのちに原因がハッキリするのですが)

 

まとめると、ブレイクインによってFsとQtsは下降する。Vasは逆に上昇する。そして、24時間ほどブレイクインすると、値の変化が収斂する。測定誤差範囲ぐらいでしか変動しなくなり、だいたい似たような値に漸近します。

 

ただ、ちょっと困ったちゃんな現象があります。この現象は往々にしてあります。特にTangbandにはこの傾向が多いみたい。

点線のラインが、それぞれの「公称スペック」を表しているんです。つまり、最終的なターゲットラインを示しています。どうでしょうか??

Fsは、まあいいでしょう。ターゲットの近くまで下降しているんだから。

Vasも、まあいいでしょう。目標値は越えてるし、へたすると、ブレイクインを継続したら更に上がりそうな勢いです。

 

問題は、Qtsです。下がりきらないじゃないですか。

しかも、これ以上下がらないよという、ドン詰まり傾向が既に見えています。困るんだよね、FsやQtsは公称どおりに下がってくれないと。多くのスピーカービルダーは、この公称スペックのFs、Qts、Vasを頼りにエンクロージャー設計しているんです。これじゃあ狙った性能が出ないじゃないですか。だから、ここで最初の話に戻るんですけれども、ブレイクインして、実測してからスピーカー設計した方がいいんですよ。TangbandやDaytonの場合は特にね。。。

 

FsやQtsの公称値って、ビルダーにとってはお買い物ガイドのようなモノなんです。これを頼りにドライバーを購入している。設計は実測してからやればいいんだけれども、余りにも構想と数値が違うと、見当違いの買物ミスをしたことになります。たとえば、小型スピーカーが作りたかったのにやたら大型になっちゃったりね。

 

QtsやVasが大きめってことは、狙っていた箱よりも大きな箱が必要になってしまうんです。

私はこれが在るんで、Andromedaではかなり大きめの箱を作りました。5種のウーファーに1容積でオプティマイズは難しいことが判っていたので、大きめの箱にしておいて、PRsで調整範囲を広くとった設計にしたのです。PRsは調整がラクで、おまけに私は基本的にバスレフが全部嫌いだし。

 

 

途中の計測にちょっと不手際があって、失敗した回はあるのですが、それでも全体傾向としては変動のさまを克明にすることが出来ました。また、いくらブレイクインを長く/適切にやっても設計値に近づかないものは近づかない・・・というパターンが有るのだと、再確認ができました。

 

今回の測定実験で、新たな発見がありました。

それは、Fs、Qtsのブレイクイン直後の変動の大きさです。

途中、「もしや・・・」と思って仮説を立てつつ検証してみたら、ズバリでした。

 

これって何でしょう?

ブレイクインを数時間やって、その直後はFsやQtsが十分に低いんだけれども、

 

そこから鳴らない放置時間が経過するごとに、FsやQtsはわずかながら、上昇の傾向があるのです。

 

これって何を意味しているのかっていうと・・・クルマには、暖機運転みたいな概念があるじゃないですか。オイルがあったまらないと、フリクションが大きいからいきなり廻しちゃいけないという。スピーカーにも全く同じ傾向があった・・・って事なんです。

 

音楽をバンバン鳴らして、信号を加えている間はFsやQtsは落ちきっている、つまり本来の性能を出せている。しかし、信号が途絶えている間にみるまにフリクションが増えて、性能低下を起こしてゆく・・・ みたいな現象が、数値の上でも明らかになったという事なんです。

 

ラウドスピーカーも温度特性をもっています。VCは過振動させて温度上昇すれば抵抗値が上がるし、紙のメンブレンは湿度の影響を著しく受けるし、ラバー製のサラウンドは温度の上昇とともに柔軟性を増します。そんな風に周辺環境で変動するものですから、それを読んで運用すべきだし、逆にあまり神経質になり過ぎても意味はないことになりますね。

経過測定中、上昇下降に矛盾が生じてしまったのにも、実は上記の「放置時間」が矛盾を生んだ理由でした。ブレイクイン直後に間髪与えず測定すると、間違いなく前よりは下がっているのです。

 

 

ところで改めて、ブレイクイン中のパワーアンプは、かなりホカホカになりますね。音楽再生とは比較になりません。最も電流電力を食らう低域に大入力を据えているし、しかも動的変動のない連続出力・・・そりゃ熱くなりますよ。

 

くれぐれも、真空管アンプなどでブレイクインはされないよう。耐性も自己責任にて。お願いします。