前回の記事でQaについて触れましたので、エンクロージャーのQについて整理しておきましょう。

 

ラウドスピーカーのドライバーはもちろん、単体でQtsを持ち、それがエンクロージャーに収まることで、最終的なQtcを形成するのは皆様ご承知のとおりです。一方で、バスレフ型やパッシヴラジエーター型といったエンクロージャー側の共振周波数にもまた、Qがあるのです。

 

バスレフ型で、ポートチューニング周波数におけるエンクロージャーの共振Qを、Qbと置くと、Qbには次式の関係式があります。

1/Qbが、このボックスにおけるロスの大きさを示しています。

 

 ●Qaは  enclosure Q from Absorption losses

の略です。

つまりこれは、吸音処理によるボックスのロスです。

極めて剛体で吸収のないエンクロージャーのQaはとても大きく、エンクロージャー内の吸音材を増やすほど、Qaは下降していきます。

 

 ●Qlはリーケージによるロス(の逆数)。

 ●Qpはポートによるロス(の逆数)

を示しています。パッシヴラジエーター型の場合はポートがないので、Qpがありません。(=1/Qp がゼロ)

 

 

Q-absorption, Qaつまり、吸音材の存在による影響を見ておきましょう。

 

まず、以下のようなスピーカーシステムのバスレフアライメントがあるとします。

このシステムには、吸音材を入れていません。

一見するとミスアライメントに見えますが?

 

 

これに吸音材を増やしていくと、f特はどう変わるのでしょう。

 

 

グラフはそれぞれ、

 Qa = 15.0

 Qa = 5.0

 Qa = 2.0

を示しています。

下に行くほど、吸音材が多めです。周波数応答がずいぶんと違いますね。

 

つまり、吸音処理によってバスレフアライメントは変動するのです。

Qaの影響はQp、Qlに比べて最も大きな影響になります。なので、これを折り込んだ/配慮した設計が必要です。パッシヴラジエーター型でも同様。

 

この式はわかりやすいですよね。

 

ポートに吸音材突っ込んだり・・・は皆さんもやられると思いますが、内部吸音材やポート吸音材の突っ込み方が多くなれば、だんだんポートが皆無と同じになる=バスレフのロスが最大化されて密閉に近づく ...ということなんです。

 

吸音材だけでなく、B&Wのマトリクス構造をはじめとするブレーシングの多用、エンクロージャーの形状によってもロスは大きめになります。ロス... と書くと、すぐ”悪影響”と短絡されてしまいがちですが、この場合のロスとは必要・調整要素としてのロスです。

 

 

吸音なしでミスアライメントに見えたこのシステムも、ご覧のとおり吸音材を増やしていけば適切なアライメントに近づきました。また、極端に吸音材を増やしていけば位相反転型であっても、過制動密閉に近い特性になっていきます。

自作派では、この性質を特性調整に積極活用できます。また、簡易的なルームアコースティックの改善にも利用することができます。

 

Qロスが読み切れない場合は、(私のように)まず初期状態は吸音処理を最小限としておき、必要に応じて後から吸音材を補填する方法が無駄がありません。後から足すのは簡単ですからね!