アメンバー限定コンテンツ一部公開 その1 | 僕は奈落に駆け上がる。

アメンバー限定コンテンツ一部公開 その1

「ある日常の断片」

 僕はバスの寂れた窓越しに、夜色に染まった街を眺めている。
 薄暗い蛍光灯を灯して走り出したバスは、小綺麗に整備された街並みをそそくさと通り過ぎてゆく。太陽が覇権を手放した街に人の姿はない。車内アナウンスだけが生真面目に仕事をこなしている。
 耳の後ろでは外国人の饒舌な声や高校生の幼いカップルの声がエンジン音と重なって、新たな覇者を祝福していた。
 数十分の後、終点を告げるアナウンスが無感動に響いた。
 僕は混み合っていたバスを降りた。途中、中年の男性に背中を押されてよろけたが、彼は謝ることも因縁をつけることもなく足早に立ち去っていった。
 別に腹が立っていたわけではないけれど、僕はその場に立ったまま彼の後ろ姿を眺めていた。しわだらけのロングコートと磨り減った革靴が冷たいコンクリートの上を忙しなく歩いていった。
 気づけばバスが走り去った後のバス停に佇むのは僕一人になっていて、あたりには人の気配すらなかった。
 人は僕が思っているよりもずっと速く動いていて、世界は僕が知っているよりも目まぐるしく回っているのだ。
 そのときこみ上げてきた感情をなんと形容すればよいのか分からず、また何故自分の心臓がこんなにも不快な早鐘を打っているのかも分からなかった。僕はすっかり感傷を持て余してしまった。感情のやり場のないまま、ひとつ小さな溜め息をついて白くなった空気を見送った。
 もう考えるのも嫌になって僕は夜と同じ色のマフラーを巻き直した。そして今日も夜の街へ、僕が生きるべき世界へ爪先を向ける。
 夜の街が煌びやかに光る。紫やピンクのネオンが、脳で生成された感情物質をうまく伝達できない僕にも平等に降り注ぐ。昼間の太陽よりもずっと寛大な色とりどりの光は、今夜も僕を偽物の夢の中に引き込むのだ。

(終)



普段は長文は書かないんですが
頑張ってみました。
アメンバー限定はこんな感じでいいすか?