俺とアイツとエリンギのホイル包み。1(小説) | 僕は奈落に駆け上がる。

俺とアイツとエリンギのホイル包み。1(小説)

自室のドアを開けたまま、俺は愕然とした。

驚きのあまり、肩からまだ買ったばかりのスクールバックがずり落ちて派手な音をたてる。

「下に響くぞ」

そいつは怪訝な顔をして俺のベッドに座っている。

いや、立って……乗っていると言った方が正しいかもしれない。

どう形容したものか定かではないが、俺はとりあえずドアを閉めた。

なんだ、あれは。何なんだ。

俺は白昼夢でも見ているのか。ああそうだ、そうに違いない。

俺はまたドアを開けようとノブに手をかけた。

開け放ったそのときにベッドの上に何もなければ、俺は自分が白昼夢を見ていたのだと納得させられる。

「なんだよ、無言で閉めるなんてヒドイじゃんか」

いた。

そいつは確実にそこに存在していたのだ。

「やぁ!」

満面の笑顔で出迎えたそいつは、天使でも悪魔でもましてや死神でもなく、



きのこだった。



赤い笠に白い水玉模様、うっすらベージュを混ぜたような茎(俺はあの部分をなんと呼ぶのか知らない)。

あれだ、あれ。

マリオパーティーとかスーパーマリオギャラクシーとかに出てくるでっかくなるきのこ。

「え、きのこ……?」

いや、まさか、そんな。

俺は恐る恐る訊いてみた。

「そーだぞ。きのこの国からやってきたきのこだぞ」

かまってもらえたことが嬉しいのか、きのこはのこのこしながらご機嫌に答えた。

嘘だ、誰か嘘だと言ってくれ。俺は未だに網膜に映るものを現実とは受け入れられず、廊下に駆け出た。

「母さん、ちょっと来て!」

母は専業主婦だ。今日一日家にいたはずだ。

この家のことなら母が一番把握しているに違いない。

そう判断した上での悲痛の叫びに、一階の居間にいるであろう母は間抜けな声で、

「えー、あとちょっとで愛人殺されるんだけどー」と答えた。どうやら昼ドラの再放送を見ているようだった。

「前にも見てただろ、それ。いいから早く!」

こっちは一刻を争う事態なのだ。

愛人が正妻に殺されるシーンなんかと比べられるなど、たまったものではない。


「もう、なんなのよぉ」

文句を言いながら面倒くさそうに階段を上ってくる音がする。

俺はもう一度早くと叫んで、フリル過多なスリッパの音を急かした。

「あれ見て」

俺は<きのこの国のきのこ>を指差した。

「なぁに。ぬいぐるみ?」

そりゃそう思うに決まってる。

しかし一般的な男子高校生が自分用にぬいぐるみを購入するというのは考えづらい。

「ちがうよ。きのこの国から来たきのこだよ」

きのこは俺に説明したのと同じような調子で答えた。

「あらあら。今のぬいぐるみはおしゃべりができるのね」

「ちがうよー。きのこはきのこだよ。無生物じゃないよ」

無生物、なんて難しい言葉を知っているじゃないか。

いやいや、そんな場合じゃない。そんな悠長なことを言っている場合じゃないんだ、自分。

「母さん……。なんだか分からないんだけど、本当にしゃべるきのこが生えたみたいなんだ」




続きます。