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SSのゴール前で止まるなど露骨なタイム操作をしてサービスポイントに到着したワルデガルドは、ムナーリを4秒リードしていた。そこでワルデガルドは決めてあった措置通り「次のSSのスタートでは4秒待つように」という指示を受けた。しかし、その最終サービス地点に監督のフィオーリオはいなかった。かわりにチーフメカニックのマイク・パークスと数人のメカニックが待機していたのである。ムナーリはサスペンションの総点検を希望し、ワルデガルドはパークスとの情報交換で時間を過ごす。

 

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二人のドライバーの距離はわずか5m。しかし、お互いに決して相手の方を見ようとはしない。

 

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メカニックは所定のマシンチェックを行い、スタートラインにマシンを送り出す準備を整えた。ムナーリはややラフに、そして恐ろしい勢いでストラトスをタイムコントロールに向けた。ワルデガルドはその光景を見て、ムナーリが逸る気持ちを抑えきれないことを感じとった。そしてオフィシャルがカウントを終えた瞬間、ムナーリは轟音を残してスタートしていった。

 

 

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次は、ワルデガルドの番だ。パークスら数人のランチア関係者が見守る中、ストラトスをコントロールラインに着けた。オフィシャルのカウントダウンが始まる。 5、4、3、 ....4秒のリードを無駄にしなくてはならないことへの怒り、そして相反する 「これをステップボードに彼らを見返すことができるかもしれない」 という期待感とでワルデガルドの心境は複雑だった。 ...2、1、スタート! しかし、ワルデガルドは微動だにしない。「なぜ、スタートしないんだ!」 オフィシャルが叫ぶ。そして4秒が経ち、約束を守ったワルデガルドが猛然とスタートしていった。

 

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14分32秒。最終SSの二人の結果は、まったくの同タイムであった。(そのタイムはピントより1分以上速く、その他のドライバーからは3分以上も速かった。)これにより優勝は4秒差でワルデガルドの手に落ちた。つまりムナーリはチームオーダーの4秒リードを活かしきれなかったのである。そればかりか本当はワルデガルドがムナーリより4秒速いタイムで走ったことに気づく者もいなかった。

 

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フィオーリオはストラトスが勝ったこと、そして監督命令の絶対的権威が確かめられたこと、さらにムナーリとワルデガルドが自分のチームにいることで満悦に浸っていた。しかし、ムナーリは 「取り決めなどしたのが、間違いであった。車のギヤが入りにくくて、これさえ無ければ勝っていた。」と人々に不機嫌に語っていた。ワルデガルドがモンテカルロにおいて自分の敗北をいかに潔く受け入れたかを覚えている人達は、いささかムナーリの態度にがっかりしたことであろう。モンテカルロではビジネスライクに勝ちを譲ったワルデガルド。だが今回は違う。ワルデガルドはチームの約束を守り、そして勝利を得た。最終SS37での戦い、それはワルデガルドのモンテへの復讐といえるほど鮮やかで完璧なものであった。

 

【主要リザルト】
1st Bjon Waldegard/Hans Thorszelius
④Lancia Stratos(TON12661)G.4 10時間27分40秒

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2nd Sandro Munari/Silvio Maiga
①Lancia Stratos(TON41648)G.4 10時間27分44秒

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3rd Rafaelle Pinto/Arnaldo Bernacchini
⑥Lancia Stratos(TOL64137)G.4 10時間37分13秒

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4th “Tony”/Mauro Mannini
⑪Lancia Stratos(TV338832)G.4 10時間59分22秒

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5th Amilcare Ballestrieri/Sergio Maiga
③Opel Kadett GT/E(TON87561)G.4 11時間13分46秒

6th Livio Lorenzelli/Mario Necco
⑭Fiat Abarth 124(TOM46461)G.4 11時間20分29秒

出走台数144台中、56台完走

 

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【EPILOGUE】
舞台をサンレモからツール・ド・コルスに移したムナーリは、プライベーターのダルニッシュに追い詰められていた。ムナーリのワークス・ストラトスは24バルブ・280馬力。一方、ダルニッシュのプライベート・ストラトスは12バルブ・255馬力。ムナーリのストラトスに発生したミスファイアによるトップ交代とはいえ、サンレモに続く敗北はムナーリの耐え難い屈辱を意味する。ムナーリは最終SS、逆転を期して全力でコースを駆け抜ける。しかし結果はダルニッシュとの差が逆に43秒と開いてしまった。万事休す... そう思われた矢先、ダルニッシュには1分のロード・ペナルティが科せられていた。なんと第2ステージ最初のタイムコントロールの遅れが減点対象となっていたのである。チームのメイクスタイトルを決める勝利。それはムナーリの執念が生んだものと言えるだろう。

 

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