大学1回生、夏休みも終わりのころのこと。


それまで勤めていた喫茶店のアルバイトを辞めた。


そこは、まかない付きで時給700円。わたしにとっては不満だった。




「夜遅くまで働いてもいいから、時給1000円くらいのバイトはないのかな…」




無料配布のバイト情報誌をめくりながら、なるべく時給が高いバイトを探していた。


大学入学時から独り暮らしなので、門限もなければ親にも生活をしばられない。



自給が高いバイトは、やっぱり水商売。


キャバクラのフロアレディ募集欄には、時給2500円~と書いてある。




「でも、水商売とかはちょっと怖いしなぁ。それだけはやめとこ。」




で、わたしが目をつけたのは『スタッフレディ、時給1200円~』。


お店の名前などはなく、『トール開発』という会社名がかかれてある。


飲食店での料理を運んだり、雑用をする仕事らしい。


「いいじゃん、コレ!時給1200円てことは、水商売じゃないよね。大丈夫よね。」




わたしは早速、情報誌に載っているトール開発にバイト採用希望の電話をかけた。


「では、四丁目の××ビル2階にある『セレナーデ』というお店に、今日の18時に来てください。」



セレナーデかぁ。カワイイ名前♪


そんな事を思いながら、18時少し前に着いた。


自宅から自転車で5分くらい。




「どうせ雑用係だし、気合入れて行くこともないよね。」


わたしはパープルカラーのロゴ入りTシャツ、ベージュで七部丈のパンツ、足元はスパンコール入りのビーチサンダルという、適当過ぎるくらい適当な格好で面接に行った。




セレナーデに入るのは、もちろん初めてだった。


ビルの階段をのぼり、すぐ右手にあるドアを開けた。






一瞬、ドキッとした。








お店の照明は薄暗く、部屋はだだっ広い。


円になったソファが8つ真ん中の通路をぐるりと囲むように置いてある。


床は全て赤のじゅうたん。



いかにもオトナのお店という雰囲気。


19歳のわたしには少し衝撃的で、とまどった。




え…あれ…?ここって、キャバクラ…?

いや、ここは面接会場で、働く場所は別のトール開発のお店よね。たぶん。




少し嫌な予感がしたが、大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせた。



「こんにちはー。」



「こんにちは。なじめまして。オーナーの宮崎です。こちらに座って。」


黒服を着た背が低めの中年の男性にソファに座るよう促され、少し緊張しながら従った。




情報誌には履歴書が必要と書いてあったので、わたしはまずそれを宮崎さんに渡した。


宮崎さんは軽くそれに目を通すと、まさかの言葉を口にした。




「じゃあ…キミ、今日からこのお店で働ける?体験みたいなかたちでもかまわないよ。」


「え…?ここですか?どんな仕事なんですか?」




予感は的中した。




「座ってお客さんの話相手になるだけだよ。大丈夫。むずかしくないよ。」



「無理です!そんなの絶対無理!!できません!なんかコワイですし…


あの…情報誌には『接客なし』で時給1200円って書いてあったんですけど…」



「それよりも、こっちの方がいいんじゃない?時給は2300円だよ。

一日だけでもやってみてよ。ね。」



「え…無理ですぅ~…ホント無理…」


わたしが言葉につまっていると、



「よし!じゃ、決まりね!早速衣装に着替えて。そこに更衣室あるから。」


と宮崎さんは玄関付近にある扉を指差した