大統領選では、ドナルド・トランプのビジネスの才覚に注目が集まった。その手腕をもってすれば、アメリカは再び絶大な繁栄を謳歌することができたのではないかという幻想が広がり、それが異様な「トランプ現象」を引き起こす一因となった。
トランプには「不動産王」「大富豪」といった形容が常時、メディアによって冠せられた。ためにそのビジネスの才覚には疑問の余地がないかのような錯覚が生じやすい。しかし、トランプは「常勝将軍」ではない。
それどころか破産も4度経験しており、そのビジネス歴は錯誤の連続と言ってもいいほどだ。トランプの事業を俯瞰すれば、トランプが決して傑出したビジネスマンではないことがはっきりと分かる。
トランプの自伝は、過剰な自己宣伝しているばかりでその半生の実態を知る上で資料的価値は乏しいと言っても差し支えない。自伝を読んでいて気が付くのは、父親に対する軽蔑にも似た批判であり、トランプはその父を指しぬいて、大学を出た直後から不動産ビジネスで八面六臂の大活躍し始めたことになっている。
トランプは父を乗り越えてビックになろういう野心を燃やしていたのかも知れないが、その意味では息子を「キング」にしようと思った父の教育は成功していた。トランプはブルックリンやクイーンズに庶民の家を建てるという地を這うような父の戦略に対して、批判を重ねる。
もっともドラマチックで壮大なことをしたいという気持ちを持っていたといい、「父の商売を継ぎたくなった」「わたしにはもっと遠大な夢とビジョンがあった」「ブルックリンやクイーンズに家を建てていてはこの夢を実現することは不可能だった」と、自伝に書いている(つづく)。