トランプ大統領は移民三世であるから、移民としてはどちらかというと新参者である。
トランプは1946年6月14日、ニューヨークで生まれた。ドイツ系移民の父とスコットランドから移民して渡ってきた母を持つ。父のフレッド・トランプ(1905~1999)は20世紀の二度にわたる世界大戦とホロコーストによってドイツ人のイメージがビジネスに悪影響を及ぼすことを恐れ、スウェーデン移民で通した。
トランプの祖父、フリードリヒはドイツで、理髪店を営んでいた。赤貧だったという。実の姉が渡米していたこともあって、米国を目指したという。幸運にもニューヨークですでに形成されていたドイツ系移民コミュニティに受け入れられた。ここでも理髪店を開業した。
だが、フリードリヒはそのままで終わるつもりはなかった。「金持ちになりたい」というアメリカンドリームを抱き、シアトルへ移った。
フリードリヒはビジネス能力に長けていたとされる。どこで金が落ちるかを知っていたし、金を稼ぐには羞恥心などは毛頭なかった。
シアトル到着後、フリードリヒは正式に米国籍を取得し、米国風のフレデリックに名前を変えた彼は、ビジネスチャンスを絞った。酒とセックスである。(ご婦人のみなさま、不快な表現ですが、事実なのでご勘弁ください)。
フレデリックはシアトルの赤線地帯に小さな深夜レストランを開業した。娯楽の乏しいフロンティアで、酒と食事、手軽なセックスを一つところで提供するアイデアは悪くはない選択だった。富豪トランプ家の創業者は風俗ビジネスによって、アメリカンドリームを上り始めた。
情報に対して鋭いフレデリックはある情報をキャッチした。大富豪ロックフェラーがシアトルに近い町モンテクリストの鉱山に投資するという話だった。
フレデリックはすぐ行動に移った。といっても鉱山ビジネスではなく、「山師」たち相手の得意の飲食・売春レストランだった。
だが、この鉱山ビジネスには陰りが見え始め、さしものロックフェラーも憂慮し始めた。勘の鋭いフレデリックは1877年、ホテルをたたみ、シアトルに引き上げた。一山当てようとした鉱山関連者は無一文になったケースもある中、フレデリックは一儲けした。
1896年8月、一組の夫婦を含む3人がアラスカの付け根にあたるカナダ・ユーコン川流域で大量の金を採掘した。一攫千金を目指す採掘者たちがわれもわれもとユーコン川流域に殺到した。いわゆる「ゴールドラッシュ」である。余談になるが、アラスカ州は元々はロシアの領土であり、米国に売却した。なので、ロシアはゴールドラッシュを歯噛みして悔しがった。
「採掘者から吸い上げろ」
これがフレデリックのモットーだった。
全米だけでなく、世界中から採掘者がきたものだから、フレデリックは大金を得た。
さらに、カナダ・ベネット湖畔、後にはホワイトホースの町にホテルを開いた。特にベネットのホテルは最高級だったという。
数年間、ゴールドラッシュの喧騒の中でしっかり儲けを手にしたフレドリックは、故郷のドイツに一時帰国した。行政当局が、酒やギャンブルへの規制を強めた事情もあり、潮時と判断したらしい。この男は撤退も早い。彼は故郷に錦を飾った。
フレデリックは実家の近くに住む20歳になったばかりのエリザベートを結婚した。
ドナルド・トランプの祖母となるこのエリザベートは、トランプ一家よりも貧しく葡萄農家に生まれたが、夫が若くして亡くなった後、息子のフレッドを助け、トランプ家を大きくしていった。
ドナルド・トランプという一種、怪物を知るためには、彼の生い立ちばかりか、「血脈」を知る必要がある。そうしたことから、今回、祖父の代まで述べた。今後もそうした情報を交えつつ、ドナルド・トランプの核心に触れたいと思う。(つづく)