まさしく鳴り物入りで米国大統領に就任したドナルド・トランプ。『ドナルド・トランプー劇画化するアメリカと世界の悪夢』(佐藤伸行・文春新書)を参考文献に、彼の本質に迫りたい。
トランプは当初、大統領指名選挙で泡沫候補としか見られなかった。ニューヨークを拠点にビジネスに成功し、不動産王と称されもしたが、タブロイド紙のゴシップ記事の常連でもあった。
簡単に言えば、人騒がせな男ということである。
トランプが大統領選に出るのは自分のビジネスのためであったのは周知の事実である。
本人の証言もある。
しかし、想定外の事案が起きた。山が動いたのである。予備選、党員集会が始まってみると、トランプは専門家の予想を上回り、他の共和党候補を撃破し、勝利を重ねていった。そして、トランプは共和党候補になりあがった。最後に、民主党のヒラリー・クリントン元国務長官を破り、米国大統領に就任した。
予備選のさなか、米国メディアが慌てふためいた。というのは、かつてB級俳優であったロナルド・レーガン元大統領の再来になるのでは、という憶測が乱れ飛んだためである。ただ、レーガンは大統領選に打って出る前に二期カリフォルニア州知事を務めており、政治経験のないトランプとは比較にならない。
レーガンは米国大統領で初めて離婚歴のある人物であったが、トランプは2度離婚し、3回結婚をしている。両者は元々は民主党支持であったことはあまり知られていない。トランプの選挙スローガン「アメリカを再び偉大にする」はレーガンのスローガンの踏襲だ。
トランプが予想以上に国民に受けているのは、端的に言えば、オバマ前大統領時代の振り戻しが起きているためだ。「弱い大統領」(私はそう思わない)のオバマ前大統領の後で「強い大統領」になると売り込んだトランプのアプローチはかつてのカーターを追い落としたレーガンの選挙戦術にかなり似ていると思う。
あまりにも有名になった隣国メキシコの「壁」。トランプはこの壁の建設費は、メキシコ政府に負担させ「トランプの壁」と名付けるそうである。調べてみたのだが、両国にそびえる壁は半分近くが完成している。ムスリムの入国も大統領就任後、大統領令により執行したが、連邦裁判所で協議中である。
小泉純一郎元総理は「ワンワード・ポリティクス」(郵政民営化、構造改革等)で知られたが、争点を単純化して、勝利を呼び込む手法は、既にレーガンが体現していた政治学であった。
レーガンとトランプには、本質的な共通項がある。「演技者」ということだ。レーガンは一応俳優。トランプはテレビのバラエティー番組に出演していた。その番組はトランプの元で働きたい希望者を集めてビジネスの課題を与えて競わせ、成績の悪い者をクビにするという内容だったが、かなり受けたらしい。見ていないので断言はできないが。
2016年から次第にエスカレートしていったトランプの暴言に、当時、大統領だったオバマは苦言を呈した。「大統領選はエンターテイメントではない。リアリティーショーでもない」と。しかし、米国という国はある意味、特殊だ。米国の政治は久しくエンターメント化しているし、選挙もリアリティーショーとなっている。
レーガンは政治を演劇空間に変えた。そうした演技力はトランプにも生来的に備わっているように思われる。事実、トランプは大統領選時での暴言は一部で控え、話し方を変え、大統領風に「演じている」。
トランプという世界を大混乱の中に投げ込もうとする現代の怪人を知るには、一人の生い立ちだけでなく、血統の過去にまで遡る必要があるかも知れない。トランプは、アメリカ大陸に渡ってきた祖先の血や移民ならではのパワーによって形られている。(つづく)