1874年11月、ニューヨーク・ヘラルド紙は動物園から脱走した猛獣多数が人を襲っていると大々的に報じた。記事の最後に動物園の管理強化を訴える架空の話とあったが、街はパニックになった▲


この騒動と前後して、イソップ物語と民主党系のヘラルド紙による共和党のグラント大統領への攻撃とをからめた漫画を描いたのが風刺画家のナストだった。漫画はライオンの皮をかぶったロバが、他の動物を脅しまわり、大きなゾウも逃げまどっている光景だった▲


以後、ロバ=民主党VSゾウ=共和党が風刺漫画の定番(ていばん)となるが、面白いのは両党がそれを受け入れ、自分らのシンボルとしたことだ。頑固と愚かさを表すロバも民主党員には謙虚と勇敢の象徴となり、尊大で保守性を示したゾウも共和党員は威厳と賢明さの印とした▲


で、米中間選挙ではゾウがロバを圧倒、上下両院で過半数を制した。行政と立法が「ねじれ」状態に陥るオバマ大統領最後の2年間である。米国では「分割政府」と呼ぶねじれだが、これにより大統領のレームダック(死に体)化が進むとの見方がしきりに聞かれる▲


だが思えば、ねじれが決して例外的でない米国政治である。むしろ政治停滞が例外的で、大統領と議会の妥協と協力による堅実な政治運営が期待されていた分割政府だ。2年後の大統領選をひかえ、ここは共和党も強硬一点張りで統治能力を疑われては元も子もない▲


ただこうした従来の政治の共通認識をも引き裂く現代米国の社会文化的対立である。ここはロバやらゾウやらの揶揄(やゆ)も軽くのみ込んだ先人の深い政治的賢慮がほしいワシントンの政治家たちだ。


(11/7 毎日新聞朝刊コラムから引用。承諾済み)




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